相続放棄はどこに出す?必要書類は?

1.相続放棄とは

相続放棄とは、はじめから被相続人の相続人ではなかったとみなされることで、被相続人のプラスの財産(不動産や預貯金など)およびマイナスの財産(借金、未払い税金など)の一切を相続しないことです。

相続人はプラスマイナスそれぞれの財産を比較して、その相続を承認するか、放棄するかを選択することになります。

そして、比較検討した結果マイナス財産の方が多く、また、どうしても相続したい財産が他にないのであれば、相続放棄を選択する場合があります。

ただ、いざ相続放棄をするといっても、どこに、何を出せば、そもそもどうすればよいのか分からないのではないでしょうか。

相続放棄は、相続人間で行う遺産分割協議の中で遺産を放棄すること、いわゆる「遺産放棄」とは全く違う手続きです。

詳しくは<相続放棄と遺産放棄の違い>

 

以下では、相続放棄の書類提出先やその際の必要書類を解説します。

2.書類提出先

まず、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する必要があります。

提出先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地(死亡したときの住所)を管轄する家庭裁判所になります。

最後の住所地は住民票の除票や戸籍の附票で分かりますので、管轄裁判所を確認し提出します。

ただし、住民票の除票などが保管期限満了により廃棄処分されていて最後の住所を確認できない、家庭裁判所に証明できない場合がまれにあります。

その場合「死亡届の記載事項証明書」を本籍地を管轄する法務局で取得すれば問題ありません。

死亡届の記載事項証明書とは死亡の証明書、つまり死亡届です。

死亡届は役所・役場で一定期間(1か月ほど)保管された後、法務局に送付されることになっています。

そして、死亡届には(最後の)住所地が記載されているため、これにより、住民票の除票などが取れなくても、(最後の)住所地を証明することができます。

死亡届の記載事項証明書は請求することに特別な理由がある利害関係人のみが取得でき、発行基準も厳しく定められているため申請書には取得理由を詳しく書く必要があります。

3.必要書類

申立てに際し、家庭裁判所に提出する必要書類は基本的には次のとおりです。

①被相続人の戸籍謄本

必要な範囲は放棄しようとする者の相続順位によって変わってきます。たとえば、兄弟姉妹が放棄の申立人であれば、被相続人の出生から死亡までの戸籍に加え、被相続人の両親の死亡の記載ある戸籍も必要になってきます。

②被相続人の住民票の除票または戸籍の附票

最後の住所を証明します。廃棄処分などされて提出できない場合は、前述の死亡届の記載事項証明書を添付します。

③放棄しようとする申立人の戸籍謄本

④連絡用の切手(金額は放棄する人数や家庭裁判所により変わってきます)

⑤申立書(800円の収入印紙を貼ったもの)

戸籍謄本などの原本を返却してくれるかどうかは家庭裁判所によって異なりますので、返却してほしい場合は申立て前に返却可能か確認する必要があります(現在、多くの家庭裁判所では返却してくれます)。

返却可能であれば、家庭裁判所の保管用に戸籍関係のコピー一式も提出します。

なお、熟慮期間の3か月を経過している場合や、相続人に海外在住者がいる場合には、別途上申書が必要となるケースもあります。

熟慮期間経過後の申立てについて、詳しくは<突然きた固定資産税の請求!3か月経過後の相続放棄はできる?>

海外在住者の相続放棄について、詳しくは<相続人が海外に住んでいても相続放棄はできる?>

 

4.提出方法

提出先の家庭裁判所が確認でき、必要書類も取り揃えたら実際に家庭裁判所に提出します。

提出方法は以下の2通りです。どちらでも好きな方を選択し、提出します。

◆家庭裁判所に出向き、受付窓口に提出

家庭裁判所に実際に出向いて家事事件の受付窓口に提出します。家庭裁判所の受付けは17時までです。

◆郵送(レターパックなど追跡できるもので)

相続放棄には期限がありますし、重要な書面を送るため、もしもの時を考え普通郵便はやめておくことです。

必ず追跡ができる郵送方法によることです。

5.相続放棄に実印は不要

相続放棄の申立書には申立人の署名押印を必要としますが、その際に押す印鑑は実印である必要はなく、認印で問題ありません。

ただ、申立て後に家庭裁判所から送られてくる照会書(相続放棄を自分の意思で行ったかなどを問うアンケートのようなものです)には実務上、申立書の印鑑と同じものを使用することが求められます。

そのため申立書に押印した印鑑は失くさず、またどの印鑑を押したか忘れず保管しておくべきです。

この同一印鑑押印の取り扱いは相続放棄に限らず他の申立て手続きにもあてはまります。

裁判所としては少なくとも同じ印鑑が押してあるということを確認できれば、同一人が間違いなく、引き続き手続きをおこなっているであろうとの判断ができるため、そのような取り扱いになっているのだと思われます。

したがって、同一の手続き中は、押印する印鑑は統一しておくべきです。

なお、家庭裁判所に提出する申立手続きのうち、書面に実印を押印し、あわせて印鑑証明書の提出が必要なものは基本的にありません。

6.相続放棄申述受理通知

申立て後、10日から2週間ほどで、家庭裁判所から照会書が送られてきます。かんたんなアンケートのようなもので、この照会書に自分の意思で、間違いなく相続放棄の申立てをしたことなどを記載して返信します。

返信後、特に問題がなければ、郵送で「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。その書面が送られてきたということは無事に相続放棄の審判がされた(相続放棄が認められた)ということです。

そこで相続放棄の手続きは終了します。

7.相続放棄の周知

相続放棄の申述が受理されるとはじめから確定的に相続人でなくなります。その事実を周りの相続人や利害関係人に知らせておくことです。

債権者へ連絡

被相続人の権利や義務一切を相続しませんが、そのまま何もしないでいると債権者などは相続放棄がされた事実を知らないため、支払いの請求をされる可能性があります。

そこで、まずは債権者に連絡し、相続放棄した旨を伝え、家庭裁判所から送られてきた相続放棄申述受理通知書を債権者に示すことです。

これにより債権者は相続放棄がされた事実を知り得ますので、以降、相続債務について請求されることはなくなります。

債権者には通知書のコピーを郵送します(場合によってはFAXで対応可能な債権者もいます)。

債権者によっては相続放棄申述受理証明書が必要になることもありますが、通知書で対応可能なケースが多いように感じます(証明書と通知書は厳密に言えば意味合いは異なりますが、どちらも「相続放棄がされている事実」は分かるため、通知書でも可とする債権者が多いです)。

放棄から一定期間経っても証明書は取得できますので、債権者に証明書の方が必要と言われた場合に取得すればよいでしょう。

他の共同相続人に連絡

他の共同相続人に連絡すれば、その他の共同相続人の方でも、「相続放棄という手続きがあり、それをすれば借金を相続しなくて済む」ということが分かる場合もあります。

また、「他の相続人が相続放棄したなら自分も」といったことにもなります。

したがって、相続放棄した事実を、他の共同相続人にも連絡しておくとよいでしょう。

次順位相続人へ連絡

また、相続権が次順位の者に移る場合(たとえば、第1順位者である子が全員放棄した)、被相続人の親や兄弟姉妹などの次順位者に「自分(たち)が相続放棄したことにより、そちらに債権者から請求がいく」可能性を伝え、相続放棄という方法がある旨を連絡、通知しておくことです。

仮に連絡していないと、事情を全く知らない中で突然、債権者の請求通知などが送られてくると不安にさせてしまいますし、親族間の関係性が悪化しトラブルの元にもなります。

8.まとめ

相続放棄は相続開始後3か月の期間の猶予がありますので、「申立て後に多額のプラスの財産が判明したため撤回したい」ということのないよう、期限内に遺産を漏れなく調査しましょう。

期限内に調査が間に合いそうになければ家庭裁判所に申立てることによって、期限を延ばすこともできます。

詳しくは<相続放棄の熟慮期間を3か月以上に延長する方法>

 

相続放棄の申立て自体はそれほど難しい手続きではありませんが、放棄の撤回はよほどのことがない限り認められません。

詳しくは<やっぱりやめたい!相続放棄の撤回、取消しはできる?>

 

周りに与える影響が大きいため慎重に検討したうえで申立てるべきです。

また、特に借金などマイナスの財産はだれにも言わずに隠している、隠しておきたい傾向があるので、「亡くなってから債権者の督促により初めてその存在を知った」といったケースは珍しくありません。

そのため、被相続人の死亡後に債務の調査が必要になってくる場合があります。

詳しくは<被相続人の借金を調べる方法は?>

 

その債務の調査も含め、相続放棄すべきかどうかの判断に迷った際は、専門家に相談することをオススメします。

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