1.遺言書の撤回
遺言書をいざ作ったはいいが、遺言の効力が発生するのは遺言者が死亡したときなので、作成後何年か先、場合によっては何十年も先ということもあります。
その間に遺言者の財産状況や受遺者との関係性など事情が変わって遺言書の内容を変更したい、いっそのこと取り消したい、撤回したいと考え直すことも十分ありえます。
そして、遺言者の最終意思の尊重として、遺言書は作成することは自由ですが、撤回することも自由です。
いつでも、何度でも撤回することができます。
作成が強制されないのと同じように撤回も強制されませんし、前もって受遺者との間で撤回しない旨の合意をしても無効です。
撤回をする権利を放棄することもできません。
撤回方法ですが、以下のようにいくつかあります。
2.故意に破棄して撤回
故意に破棄した場合に遺言を撤回したとみなされます。
目的物を故意に破棄
遺贈する目的物を故意に破棄したときは撤回したものとみなされます。
たとえば、壺を遺贈する内容の遺言で、その壺を破壊すれば撤回したとみなされます。
自筆証書遺言を故意に破棄
自筆遺言を故意に破棄した場合は、その破棄した部分については撤回したものとみなされます。
この破棄とは物理的に破ったり燃やしたりするほかに、文面や日付などを塗りつぶしたりして判読不能にすることも含まれます。
公正証書遺言を故意に破棄は?
公正証書遺言は原本が公証役場に保管されていますので、遺言者が持っている正本を破棄しても撤回されたとはみなされません。正本は原本の謄本ですので、原本ある限り何通でも発行されるものだからです。
当然、原本は厳重に保管されていますので、自ら原本を破棄することも不可能です。
3.遺言で撤回
あらたに遺言を作成して前の遺言を撤回する方法です。
ただし、撤回も遺言の方式にしたがって行う必要があるので、遺言撤回の意思を内容証明郵便などで表示してもその撤回は効力を生じません。
前の遺言(撤回したい遺言)と撤回遺言の方式が異なっていても問題ないです。つまり自筆遺言で作成した遺言を自筆遺言で撤回することはもちろん、公正証書遺言で撤回することもできます。
また、公正証書遺言で作成した遺言を公正証書遺言で撤回することも、自筆遺言で撤回することも可能です。
自筆遺言(公正証書遺言)だから自筆遺言(公正証書遺言)で撤回する必要はありません。
ただし、自筆遺言は発見されないリスクがありますので、なるべく公正証書遺言で撤回するべきです。
撤回遺言の文例としてたとえば、自筆証書遺言を撤回する場合。
全部の撤回であれば、
「遺言者は●年●月●日に作成した遺言は全部撤回する」
一部のみの撤回であれば、
「遺言者は●年●月●日に作成した遺言のうち、第何条については撤回する」
となります。
4.矛盾する遺言、矛盾する行為で撤回
内容的に矛盾する遺言を作成
遺言書の内容と矛盾する遺言をあらたに作成したときにも撤回とみなされます。
たとえば、Aに甲土地を相続させる遺言をしていたが、あらたにBに甲土地を相続させる遺言を作成した場合などです。
遺言内容と生前の行為が矛盾する
遺言書の内容と矛盾する行為によっても撤回とみなされます。
たとえば、Aに土地を相続させる遺言をしていたのに、生前にBにその土地を売却した場合などです。
5.法務局に遺言書を保管している場合の撤回
なお、自筆遺言書を法務局に保管できる制度が2020年7月10日からスタートしますが、その保管している遺言書を破棄、撤回したい場合は、その法務局に対し遺言書の返還と画像データの消去(保管の申請の撤回)を請求することができます。
請求によらず、前述のように撤回遺言を作成すれば保管している遺言は撤回されます。
また、生前に矛盾する遺言の作成や矛盾する行為をすれば、その矛盾する部分について保管している遺言は撤回とみなされることは、法務局に遺言書を保管していても同様の扱いです。
遺言書保管制度について詳しくは<法務局で遺言書を保管してくれる?遺言書保管制度とは>
6.撤回した遺言をさらに撤回
なお、撤回した遺言(第2遺言)をさらに遺言で撤回(第3遺言)しても原則、第1遺言は復活しません。
それを認めるとどの遺言が実際に有効なのか判断が困難になる可能性があり、紛争の元になるからです。
例外的に第3遺言に、たとえば「第2遺言は全部無効とし、第1遺言を有効とする」旨が書いてあれば、遺言者において第1遺言を復活させる意思が明確ですので、遺言者の意思を尊重して第1遺言が復活します。
7.まとめ
遺言の撤回は遺言者の自由にできます。
その方法はいくつかありますが、曖昧であったり、撤回遺言の存在がよく分からなかったりした場合、トラブルの元にもなりますので、撤回する場合は明確に行うことです。
撤回する際の書き方について詳しくは<以前に書いた遺言、撤回する場合の文例は?>