遺言の無効を主張できる?遺言無効確認請求訴訟について

相続開始により、配偶者や子などの相続人が故人の遺産を相続することになります。

法定相続分で相続するか、それとも相続人の間で遺産分割を行うか。

また、遺言書が作成されていることも。

ただ、遺言書があることによって納得がいかない相続人が出てくることもあり、場合によっては争いに発展するケースもあります。

1.遺言書の有効性についての争い

納得のいかない相続人としては遺言書自体の効力が否定されればよいわけです。そのため、遺言書が無効である、と言って争ってくることが予想されます。

では、遺言が無効になる場面とはなにか。主に以下の事由によります。

遺言者の遺言能力の欠如

遺言者が15歳以上であること、および遺言を書くための判断能力が備わっていること、を必要とし、これを遺言能力といいます。

普通、問題となるのは認知症などで判断能力が低下しているケースです。

法律で定めた方式に反する遺言

遺言者自らが自書していない、押印がない、日付を書いていない、などです。

共同遺言

たとえば、夫婦が同じ遺言書に共同で遺言を書いている場合です。

 

詳しくは<せっかく書いた遺言が無効?共同遺言とは?>をご覧ください。

錯誤や詐欺・強迫により作成された遺言

遺言者の自由な意思に基づかないで作成された遺言です。ただし、立証は困難な場合が多いです。

2.遺言無効確認請求

上述のとおり遺言の有効性を争う理由としてはいくつかありますが、代表的なものとしては遺言者の遺言能力、特に認知症などによる判断能力についてではないでしょうか。

当然、遺言は遺言者がその内容を理解したうえで書いていることが大前提となります。

しかし、認知症などで判断能力が低下している状態、もっといって遺言の内容を理解していない状態で書かれたものである場合は、その遺言書は無効となります(なお、単に認知症である、というだけでは当然に無効につながるものではありません)。

その遺言の存在によって取り分が減ってしまう相続人としては、遺言書の成立が否定されることが自分の利益につながることになります。

そこで、「遺言者には判断能力が欠如(遺言能力がなかった)していた」と主張するわけです。

これを「遺言無効確認請求」といいます。

この場合、遺言の無効を主張する者が遺言能力がなかったことを立証する必要があります。

なお、遺言は遺言者が死亡することにより効力が生じるので、当然のことながら遺言者の生前に遺言無効を主張することはできません(まだ効力は生じていないので、そもそも有効無効の問題自体、起きない)。

3.調停?訴訟?

遺言無効確認請求をする場合、家庭裁判所での調停(調停委員を仲介役として話し合う)となるのか、それともいきなり訴訟でいけるのか。

基本的に、遺言を巡る争いは家庭裁判所の調停を経る必要があります。

これを調停前置主義といいます。

もっとも、遺言の無効についてを話し合う実益、意味があるのか、というところもあります。

「認知症だったから遺言書は無効だ」、と主張しているのであれば、それ自体話し合たところで解決する問題でもなく、時間の無駄と言えます。

なので、実務上は家庭裁判所の調停を経ずに訴訟を起こすことも行われています。

裁判所によってはまず調停をしてもらい、ただ調停そのものは早期に打ち切り、通常訴訟に移る、という形式を取る場合もあります。

4.だれを相手方とする?

訴訟提起となると、だれを被告として訴えるのかですが、遺言執行者がいる場合は遺言執行者を相手方とします。

遺言執行者がいない場合は他の相続人(受遺者)が相手方となります。

5.無効と判断されたとしても

裁判で遺言が無効であることが確認されると、相続人全員で遺産分割をする必要があります。

あくまで遺言の無効が確認されるだけで、その遺産の帰属先まで確認されるわけではないからです。

ただ、トラブルに発展している当事者でもあるので、任意の話し合いで遺産分割が成立するということはまったく期待できません。

別途、家庭裁判所の調停(審判)を進める必要があります。

そうなると結局、被相続人の遺産を分割し、名義変更や預金解約をする、など最終的な目的を果たすためには相当の時間を要することになります。

6.まとめ

遺言書があることにより、不満を持つ相続人が「これは納得がいかない」ということで調停や訴訟提起などの行動を起こすことがあります。

遺言書があることにより内容いかんによっては「争族」となることもあるのです。

無効と判断されたとしても、最終的な解決(遺産分割や名義変更)までは長い道のりを要することでしょう。

遺言能力(判断能力の点)が問題とならないよう、また、争いの起きないような内容で書くことが重要なので、遺言書の作成を考えているのであれば、まずは専門家に相談することをオススメします。

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