1.そもそも遺言執行者は必要?
遺言書を作成する際に、遺言執行者を定めておくことをオススメしています。
遺言執行者を定めておくことは法律上の義務ではありません。が、定めていないと遺言者の相続人全員の協力が必要になってしまいます。
だれか1人でも協力してくれなければ、遺言内容を実現することができません。
遺言書で指定していなくても遺言の効力発生後(遺言者の死亡後)、家庭裁判所の審判で遺言執行者を定めることもできますが、その分、費用と時間がかかります。
最初から遺言書で遺言執行者を定めておけばそれらの手間を省くことができるため、スムーズに遺言執行に移れ、迅速に遺言内容を実現することができます。
したがって、遺言書を書く際には遺言執行者は定めておくべきでしょう。
では、その遺言執行者。
だれにすればよいのか、だれにした方がよいのか、といった問題があります。
2.遺言執行者はだれでもよい?
まず、遺言執行者はだれでもよいのか、というところですが、条文上、遺言執行者になれない者として、「未成年者」と「破産者」が規定されています。
逆に言えば未成年者と破産者以外であればだれでもなることができます。
ただし、遺言内容を実現するには当然ながら意思能力・判断能力を有していることが前提となるので、たとえば認知症の方が遺言執行者になることは難しいでしょう。
この遺言執行者、相続人はもちろん遺言で財産を受ける受遺者本人もなれますし、法人もなれます。
特に人数制限もないため1人に限らず複数人でも問題ありません。
なお、遺言書で指定された遺言執行者が遺言書作成の時点では未成年者であったとしても、遺言の効力が生じたとき(遺言者が死亡したとき)に成年に達していれば遺言執行者になることができます。
3.遺言執行者はだれにすべき?
前述のとおり遺言執行者になれる者の範囲はかなり広いです。
では実際にだれにすべきか、ですが基本的に受遺者を指定しておくことが多いです。
遺言により利益を受ける受遺者自身が、遺言執行者にもなることが自然であるといえるので、受遺者を遺言執行者にしてよいのではないかと思います。
もっとも、法律の知識がない受遺者が遺言執行者になっても問題はないのか、遺言執行などできないのではないか、と不安に思うところですが、なにも遺言執行者自らが実際に名義変更などの手続きをする必要はありません。
遺言執行者に指定された者が、専門家をはじとした第三者に手続きを委任すればよいのです(むしろ、そのようなケースは多いです)。
実務上は、遺言書作成時に以下の様な文言を遺言書に入れておくことが一般的です。
「遺言執行者は、必要があるときは代理人を選任してその任務を行わせることができる」
4.専門家を遺言執行者に指定しておいた方がよいケース
前述のとおり、基本的に受遺者を遺言執行者に指定しておくことが多いですが、はじめから専門家を指定しておいた方がよいケースもあります。
どのようなケースかというと、主には以下のとおりです。
遺言内容の難易度(複雑さ)
まずは遺言内容の難易度、要は手続きが複雑になるか(なりそうか)をみます。
遺言内容を実現するために実際に動くのは遺言執行者です。
その遺言内容が複雑である場合、たとえば典型例として清算型遺贈(遺産を売却して売却金を分配)のケースが挙げられますが、複雑な事案(複雑だと想定される)においては専門家を指定しておけばスムーズに遺言内容が実現できます。
受遺者と相続人との関係性
受遺者と相続人との関係性も重要です。
たしかに遺言執行者は相続人の関与なしに執行手続きを進めることができますが、受遺者と相続人との関係性をまったく無視することもできません。
のちのちトラブルが起きることが予想されるのであれば、はじめから専門家を指定しておくことも有用です。
相続人廃除や遺言認知の手続きが必要となる場合
遺言書に書いておけば相続人廃除や遺言で認知をすることができます。
実際に遺言で相続人廃除をしたり認知するケースは非常に珍しいですが、これらの場合においては家庭裁判所や役所において所定の手続きをしなければならないため、専門家を指定しておいた方がよいかもしれません。
5.専門家を遺言執行者に指定した場合のデメリット
専門家を遺言執行者に指定した場合、もしくは専門家に遺言執行を依頼した場合は報酬が発生します。
また、信託銀行などが扱ういわゆる遺言信託の場合は、遺産の額によって変動しますが、割高になる傾向があります(遺産の2%や最低報酬100万円、など)。
6.まとめ
「遺言執行者、だれにすればよい?」
このようなご質問を受けることがありますが、以上のとおり基本的には受遺者でも不都合はないのではないかと思います。
むしろ、受遺者を遺言執行者にした方が素直ではないでしょうか(受遺者が、とても自分ではできない、と感じたのであれば途中からでも専門家に丸投げすればよいだけです)。
ただ、事案によっては当初から専門家を指定しておいた方がよいケースもあります。
・どのような遺言内容か
・受遺者を遺言執行者に指定した場合、どのような事態が想定されるか(特に、財産を受けない相続人との関係)
まずはこの2点を検討し、かつ、報酬の点も考慮して、だれを遺言執行者にすべきか、だれにした方がよいのか、を判断する必要があります。
「検討したけど、結局だれにすればよいか分からない」と思ったのであれば、専門家に相談することをオススメします。