相続した財産に問題があったら?共同相続人間の担保責任

遺産分割で権利や財産を取得したはいいが、その目的を達することができない場合もあります。

達することができなければ、財産や権利を相続した相続人としては不満でしょうし、他の相続人との関係で不公平となる場合もあります。

そこで、民法は、相続人間の不満や相続人間の不公平を解消する規定を置いています。

1.相続した財産に欠陥がある場合

遺産分割協議を経て財産を取得したあとに、以下のような問題があった場合、欠陥のある財産を相続した相続人としては、完全な財産を取得する、という目的を達成することはできません。

◆聞いていた土地の面積とは違う、土地が狭い

◆建物に損壊部分がある、構造上の問題がある

◆土地の一部が他人の権利であった

等々、このような重大な問題があった場合に、他の相続人が何も責任を負わないとすることは、相続人間で不公平な結果となりますし、トラブルの元にもなってしまいます。

そこで、民法911条は、

「各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保責任を負う」

と規定し、このような問題に備えています。

どういうことか。

たとえば3名の子A、B、C(法定相続分は各3分の1)の遺産分割協議によってAが建物を取得したところ、実は取得した建物の柱が折れていたとします。

その建物には「隠れた瑕疵」(※)があることになります。

(※一般人の普通の注意力では目に見えないような欠陥部分)

そのような場合、他の相続人であるB、Cは法定相続分に応じて、柱が折れていることに対し責任を負いましょう、ということになります。

これは、売買の売主と同じような責任を相続の場面においても共同相続人の間で負わせよう、ということです。

何も責任が発生しないとなると、相続人間で不公平、不平等な結果となってしまうため、このような規定が置かれています。

したがってAはB、Cに対し修理代金を請求できます。

修理代金が300万円かかったとすると、Aは、B、Cの相続分に応じて、100万円ずつ請求できます。

また、遺産分割で、Aが建物を取得する代償としてB、Cに金銭を支払うことになっていた場合(代償分割)、Aは100万円を限度に代償金の減額請求ができます。

注意点は、相続財産の問題、欠陥を知ってから1年以内に請求しなければなりません。1年を超えてしまうと請求できなくなります。

2.遺産分割の解除はできる?

なお、B、Cも責任を負うところ、支払ってくれない場合、いっそのこと遺産分割自体を解除して、また最初から協議を行うことはできないのか疑問が出てきます。

しかし、最高裁判例はこのような解除(法定解除)を認めておらず、代金(減額)請求などに限られます。

 

詳しくは<遺産分割協議はやり直せる?遺産分割の法定解除、合意解除>

3.相続した債権が回収できない場合

相続人間の担保責任としては、上述の911条のほかに民法912条があります。

同条は、

「各共同相続人は、その相続分に応じて、他の共同相続人が遺産分割によって受けた債権について、その分割の時の債務者の資力を担保する」

と規定しています。

どういうことかと言うと、たとえば3名の子A、B、Cが遺産分割協議をした結果、AがXに対する300万円の貸金債権を相続したとします。

しかし、実はXがその弁済をするほどの資力がなかった場合に、A、B、Cでそのリスクを相続分(各人が持分3分の1ずつ取得していれば各100万円)に応じて負担しましょう、ということです。

この場合AはB、Cに100万円ずつの請求をすることができますが、自分の相続分にあたる100万円については回収不能のリスクを負います。

4.まとめ

これらの担保責任の規定は、売買などの契約行為とは違い(契約行為であれば通常、特約条項として定められています)、当然に各相続人が責任を負います。

ただし、遺言によって各相続人は担保責任を負わない、とすることもできます。

その際の遺言書の記載例としては、

「長男に〇〇の財産(もしくは〇〇の債権)を相続させる。他の相続人は〇〇の財産(もしくは〇〇の債権)の担保責任を負わない」

となります。

実務上、あまり論点にはならない条文、事例ですが、知っておいて損はありません。

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