1.農地の相続
田や畑などの農地は自由に譲渡・転用ができるわけではなく一定の規制がされており、売買や贈与など処分行為をするためには農地法による許可(届出)を得ることが求められています。
ただ、農地を相続により取得した場合には農地法による許可(届出)は要りません。なぜなら、相続は当事者の意思とは関係なく当然に発生するものであり、それ自体は処分行為にあたらないからです。
なお、農地を相続したら農業委員会に届出をする必要があります。詳しくは<農地を相続したら届出が必要?>をご覧ください。
2.農地を複数人で相続したら
農地を法定相続分で相続したり、遺産分割協議の結果、複数人で相続することになった場合。
共有関係となります。
ただ、いずれ(許可・届出を得たうえで)売却処分をする必要が出てくるかもしれません。
いざ売却となっても名義人全員が当事者となるので、共有者にさらに相続が発生していたり、認知症の方がいるなどで売却にあたって不都合が出てくることがあります。
売りたいときに売れない。
また、共有関係の継続は将来的なトラブルの元となることも。
そのため、特定の相続人に名義を集約させておくことも一案です。
ただ、農地のままで売買や贈与するためには農地法による許可(届出)が必要となるのは上述のとおりです。
そして、相続人がいったん相続した土地持分を他の共有相続人に売買や贈与する場合であっても、それは最早「処分行為」にあたり農地法による許可(届出)が必要となります。
そこで、売買や贈与ではなく共有者が自己の持分を放棄することにより、農地法による許可(届出)を得ることなく他の共有者に自己の持分を移すことが可能です。
持分放棄とは、自己の持分を放棄することによりその持分が法律上、当然に他の共有者に持分割合にしたがって移転することです。
売買や贈与のように当事者の意思に基づくものではありません。
つまり、持分放棄は処分行為ではなく、したがって農地法による許可(届出)が不要となるのです。
なお、持分放棄により他の共有者に持分が移るため、前提として複数人(2人以上)の共有である必要があります。
そもそも単独所有の場合は持分放棄をすることはできません(放棄した持分の行き場がなくなる)。
3.他の共有者に、持分割合にしたがって
持分放棄により他の共有者がその持分の割合にしたがって放棄された持分を取得します。
たとえばABC3名が各3分の1ずつの共有状態で、Cが持分放棄した場合、AとBが各6分の1の割合で持分を取得します。
たとえ、Cが、
「Aだけに持分放棄をしたい」
と考えても、放棄された持分は他の共有者に持分割合にしたがって帰属することになるので要注意です。
特定のだれかに対して放棄したり、持分割合に関係なく権利を帰属させるといったことはできません。
Aだけに持分をすべて集約させたいのであれば、Bの持分放棄により共有者がACとなった後に、Cも持分放棄をすれば最終的にAの単独名義にすることができます。
4.登記手続き
持分放棄により持分が他の共有者へ移転するので、その登記手続きを行うことになります。
持分を放棄した者を登記義務者、持分を取得した者を登記権利者として、共同で登記申請をすることになります。
持分放棄の意思表示自体は契約ではないので単独ですることができますが、登記手続きにおいては共同で行う必要があるのです。
なお、法務局に納める登録免許税が不動産の固定資産評価額の2%かかります。
たとえば不動産の評価額が1000万円の土地について共有者が自己の持分2分の1を放棄した場合。
課税対象額は1000万円の2分の1である500万円となり、登録免許税はその2%の「10万円」となります。
5.持分放棄による課税は?
持分放棄により、他の共有者に持分が移転しますが、相続税法上は贈与と扱われます。
持分放棄には課税がされないとなれば、皆、贈与ではなく持分放棄を選択して課税を逃れることができてしまいます。贈与税が意味をなさなくなる。
そのため、税法上は持分放棄を贈与とみなし、場合によっては持分を取得した共有者に贈与税が課税されることになるので要注意です。
6.まとめ
農地を共同で相続した場合、共有関係の解消方法として、持分放棄を検討してみてもよいかもしれません。
処分行為にあたるわけではないので、農地法による許可(届出)が不要となります。
ただし、特定の共有者だけに放棄したり帰属させる持分を自由に変更できるわけではなく、また、想定外の税金が課税される可能性もあるので、専門家に相談することをオススメします。