相続において遺産の調査は、相続人の調査に並んで重要な部分です。
生前、被相続人が財産目録を作成していれば良いのですが、作成されていることはまれです。
そのため、遺産整理にあたっては相続人調査と並行して、遺産の調査をする必要があります。
ただ、管理していた本人はすでに亡くなっているわけなので、すんなりと判明しない場合もあります。
そこで、以下では主な財産の一般的な調査方法を解説します。
(1)不動産
登記識別情報(不動産権利書)があれば、その登記識別情報(不動産権利書)に記載されている物件の登記簿謄本(登記事項証明書)をすべて取得します。
登記識別情報(不動産権利書)が見つからない場合は、役所で名寄帳(※)を取得して確認する方法や、毎年4月から6月ごろ届く「固定資産税納税通知書(明細書)」で確認する方法があります。
(※名寄帳とは、特定の所有者に限定して固定資産税課税台帳に記載されている物件情報を記載し、一覧にしたものですが、名寄帳を発行した市区町村内にある物件のみ記載されるため、他の市区町村にある物件は記載されません)
ただ、固定資産税納税通知書には非課税の土地(道路持分など)は記載されていないため、要注意です。
登記事項証明書はどこの法務局でも以下の方法で取得できます。
①最寄りの法務局において窓口交付
②郵送請求
③インターネットで請求
登記事項証明書を取得するには申請書(法務局に備え付け)に所在、地番を記載して該当不動産を特定する必要があります。
所在、地番は住所とは別の場合がありますので、法務局に行く前に権利書や固定資産税納税通知書などで確認しておくことです。
その際、あわせて公図を閲覧し土地の位置関係や形状を確認し、道路持分がないかを念のため確認すべきでしょう。
まれに道路持分を見落として相続登記から漏れてしまうことがあります。
将来、売却することになり、その際に詳しく調査したところ、道路持分がまだ被相続人名義であったというケースがまれにあります。
相続した土地建物を売却しようとしても道路持分がいまだ被相続人名義であれば全体として売却ができなくなることも起こりえます。
その場合は再度、相続人全員の遺産分割協議書や印鑑証明書が必要になってくる場合がありますので、要注意です。
相続不動産の調査方法について、詳しくは<相続不動産の調査、確認方法>
(2)預貯金
取引銀行から死亡日時点の残高証明書を取得します。取引銀行が判明していれば良いですが、必ずしもそうとは言えない場合も比較的多くあります。
金融機関から届く郵送物や、金融機関名のあるカレンダーやタオル、ボールペンなどの記念品があればその金融機関と取引していた可能性がありますので探してみましょう。
なお、2009年1月1日から10年以上異動(※)がなく、預金者と連絡がつかない口座は休眠預金口座として預金保険機構の管理下に移されるので注意が必要です(休眠預金口座となっても一定の手続きを踏めば引き出すことはできますが、通常の払い戻しに比べ、手続きが複雑になる場合があります)。
(※異動とは、その預金口座を利用する意思を表した行為をいいます。たとえば振込みや払い戻しなど、残高に変更を伴うものです。基本的に預金利子の受け取りは異動とはいえません)
金融機関が判明すれば、あとは窓口に出向いて(場合によっては郵送のやり取りで)手続きをすることになります。
同一の金融機関に複数の取引口座(普通預金と定期預金があるなど)があれば、基本的に全ての取引口座を教えてくれますので、まずは取引金融機関を確定させることです。
(3)上場株式
証券会社から死亡日時点の残高証明書を取得します。
証券会社が分からない場合は、銀行預金口座の取引履歴を確認してみることです。証券会社名の出入金の履歴があればその証券会社に問い合わせて判明することもあります。
気を付ける点はタンス株です。
2009年1月に上場株式が電子化したことにより、それまであった紙の株券はいわゆるタンス株と呼ばれています。
この株券は信託銀行にて株主としての地位、権利は確保されていますが、紙の株券それ自体には価値、流通性がありませんので、そのままでは換価換金できません。
そこで、信託銀行に対して振替を依頼し、相続人の証券口座に移管してもらう手続きが必要になります。
相続人が証券口座を持っていなければ事前に開設を要します。相続人の証券口座に移管後は売却することも、そのまま保有しておくこともできます。
株券のあった時代と違い今は電子化されて目に見えないため、探す手掛かりは少ないように思われますが、昔の紙の株券がそのまま残っていることはよくあります。
また、株主総会招集通知や配当金のお知らせが定期的に送られてきますのでそこから判明することもよくあります。
注意すべきは単元未満株(いわゆる端株、はかぶ)の存在です。
端株とは、電子化の対象外とされたため証券会社に移管されていない株式のことで、端株はその存在が証券会社に把握されていません。
そして、端株は株主名簿管理人である信託銀行にて管理されることになりましたので遺産に株式がある場合、念のため信託銀行の証券代行部に照会することです。
株主名簿管理人やその連絡先は配当金通知書や総会招集通知書で確認できます。
それらの通知書が見つからない場合は、株式を発行している会社のホームページで、その会社が委託している株主名簿管理人を確認することもできます。
(4)非上場株式
非上場株式については取引市場がないため証券会社ではなく、直接発行会社に照会する必要があります。
上場株式に比べ判明しにくいように思われますが、流通性がないため、そのまま紙の株券を所持していることが多く、株式も自社株であったり取引先の株であったりと、特定し易いケースもあります。
(5)保険
保険証券があれば保険会社(または代理店)に問い合わせ、確認することです。
保険会社の中には相続人であることが事前に確認できないと回答してくれないところもあります。
保険証券が無くても銀行預金口座の出入金履歴を確認してみましょう。保険料が引き落とされていれば保険を掛けている可能性が高いため、そこを手掛かりに調査することも可能です。
なお、令和3年7月より、生命保険の調査、確認が以前に比べ容易になりました。
詳しくは<生命保険契約照会制度とは?新たに始まった生命保険の確認方法>をご覧ください。
(6)貸金庫
銀行に貸金庫を借りている場合、そこから諸々の証券や稀に現金の束が出てくることもあります。「保管料」や「使用料」などの名目で口座引き落としされていれば、貸金庫を借りている可能性が高いため、やはり銀行預金口座の出入金履歴は入念に確認すべきです。
なお、貸金庫を開けるには基本的に相続人全員の同意が必要になります。
詳しくは<貸金庫の相続>
(7)その他
上記以外でも、別荘地の物件や、ゴルフ会員権、自動車などありますので、漏れがないよう調査し、各手続きを行う必要があります。
調査漏れで2次相続が発生し、手続きの手間が増えることのないようにしましょう。
注意しなければならないのは、ネット銀行預金、ネット証券口座、暗号資産(仮想通貨など)のネット系の財産の存在です。
これらは基本的に郵送物が送られてこないので判明がより一層困難になります。
ここでもやはり銀行預金口座の出入金履歴を確認してみましょう。
また、ネット銀行などはメールでの通知、連絡が基本ですので、可能であれば被相続人のメール履歴からネット銀行などからのお知らせやメルマガ配信が来ているか確認することもできます。
被相続人のパソコンやスマホから確認できない、手掛かりがつかめない場合は、証券保管振替機構(通称「ほふり」)に開示請求をすることによって、証券会社が特定できる可能性もあります(証券保管振替機構ホームページ)。