1.一身専属権は相続されない
相続が発生すると被相続人のすべての遺産や権利、義務が相続されるか、というと実はそうではありません。
例外的に、相続の対象とはならない権利や義務があります。
相続は基本的には一切の権利、義務の承継を伴うものですが民法896条ただし書は、「一身尊属権(※)は承継されない」と規定しています。
承継(つまり相続)されないため、相続財産とはならず、遺産分割の対象にもなりません。
(※簡単に言うと、その人間でなければ意味をなさない、他人に移ることになじまない権利、義務)
2.相続されない権利・義務
たとえば次のものは相続されず、遺産分割の対象にもなりませんので、注意を要します(遺産分割協議書に記載しないようにしましょう)。
被相続人死亡によりその権利(義務)は消滅します。
◆身分上の権利
たとえば認知する権利や扶養請求権、離婚請求権などです。
◆免許や資格
弁護士や司法書士などの資格や、医師免許などは相続されません。
◆代理権
第三者から委任を受けていた者が死亡した場合です。個人の信頼関係を基礎にしているため、相続対象にすることは好ましくありません。
◆使用貸借における借主の地位
使用貸借とはタダでものを使用させることですが、タダでものを使用させるということは、その人だからこそ信頼してタダでも良いと思って貸します。
しかし、相続人とは言え見知らぬ人間、特別信頼していない人間にタダで使用させる権利を与えることは通常は抵抗があるでしょうから相続されません。
◆雇用契約上の地位
◆組合員としての地位
◆生活保護受給権
◆年金受給権
◆公営住宅の使用権
◆身元保証人の立場
生活保護受給権はその人に重きをおいている性質のものですので相続されません。公営住宅の使用権や身元保証人の立場も相続になじまないため相続されません。
なお、身元保証人と違って通常の保証債務(被相続人が第三者の借金の保証人になっていた)は相続されます。
保証人の死亡リスクを債権者に負わせるのは酷、ということです。
相続人が保証債務を負いたくなければ相続放棄をする必要があります。
◆配偶者居住権(2020年4月1日施行)
配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅します。
◆役務提供義務など
義務で相続されないものとして、よくたとえとして出てきますが、ある有名な画家に絵を依頼したところ、絵の完成前に画家が死亡してしまった場合、絵を描く義務はその相続人には承継されないというものです。
これもごく当たり前のことであり、その人だからこそ意味があるということです。
3.まとめ
以上のとおり、相続によって被相続人のすべての権利、義務が承継されるとは限りません。
具体的にどのようなものが一身専属権にあたるか、あたらないかですが、法律に明確に規定されているものや、解釈により決まるものもありますので、その判断が難しい場合もあります。
しかし、一身専属権は遺産分割の対象にならないため、その判断は重要です。
「この権利(義務)は相続されるのか?」「遺産分割の対象になるのか?」など、判断に迷った際は専門家に相談することをオススメします。