
1.遺産分割が成立しないと
遺産分割協議が相続人全員で合意できれば良いのですが、合意できない、または協議自体することができない場合があります。
しかし、合意できないからといって、そのままにしておくと、
◆名義変更などの相続手続きが一切できない
◆相続税の特例が使えない場合がある
◆価値下落リスク、財産散逸リスク
◆2次相続(※)の発生による法律関係の複雑化
(※一般的に、遺産分割が終わる前に配偶者などの相続人が死亡することです)
これらは、成立しないことによるリスクですが、あくまでごく一部に過ぎません。
2.遺産分割調停
そこで、当事者だけでは解決しない、できないと判断したら、相手方の住所地(※)を管轄する家庭裁判所に「遺産分割調停」を申立てることができます。
家庭裁判所で、調停委員を交えて具体的な遺産分割の話し合いを進めていくことになるのです。
(※相手方が複数人いれば、任意にそのうちの1名を選択し、その者の住所地とすることができます)
相続人間で争いたくない気持ちはあると思いますが、そのまま放置しておくことが一番避けなければなりません。
「親族間で裁判沙汰のようなことはしたくない」
「いつかは応じてくれる、いずれは合意できる」
などと思っても、そこは割り切って、踏ん切りをつけて調停申立てをすべきでしょう。
調停は協議と同じように、相続人全員の合意が前提なので、全員が家庭裁判所に関わることが必要です。
そのため、協力的な相続人も含めて全員を相手方として申立てます(または協力的な相続人も申立人になって共同で申立て)。
3.必要書類は
申立てに必要な書類は基本的に次のものです(ただし相続人の範囲によっては追加で戸籍謄本などが必要になります)。
①申立書(1200円の印紙を貼ったもの)
加えて申立書の写しが相手方の人数分必要になります。
②被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
③相続人全員の戸籍謄本
④被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
⑤相続人全員の住民票または戸籍の附票
⑥遺産に関する資料
不動産登記簿謄本、固定資産税評価証明書や預金通帳のコピー、残高証明書、有価証券など
⑦連絡用の切手
⑧その他
事情説明書や連絡先の届出書など
4.調停期日
家庭裁判所に受理されると、書類審査後、問題なければ調停期日が設けられます。
期日に相続人全員が集まり、基本的に
・申立人、協力相続人のグループ
・対立する相続人のグループ
とに分かれ交互に調停委員を交えて話し合っていきます。
場合によっては双方が一同に会して話し合うこともあります。
調停委員は中立的な立場で相続人間の仲介役を務めます。原則は男女1名ずつの2名で構成されます。
裁判官は基本的に同席しませんが、事件の詳細は調停委員を通じて把握しています。
第一回目の期日では調停委員の自己紹介から始まり、調停手続きの流れや進め方の説明、相続人の確認、遺産の内容、対立の原因や問題点、争点は何かなどを調停委員が聞き取っていき整理していきます。
調停委員は問題点などを抽出し、各相続人の意見調整を行いつつ妥協点、着地点を探していきます。
特別受益や寄与分があればそれらも調停において話し合い、確定させます。
1回の所要時間は2、3時間ほどです。
話し合いがまとまらない場合は次回期日に持ち越され、その場で大体1か月から1か月半ほど先に次回期日が指定されます。通常3、4回は期日を重ねます。
感情的な問題が合意を妨げている場合は金銭的感情と違って折り合いが難しいため調停が長引く可能性(ときには1年以上)が高くなります。
また、離婚調停と違って当事者も多数にのぼることもあるため、合意形成に時間がかかります。
5.期日に欠席すると?
期日に当事者が1人でも欠席すると、出席した相続人で話し合いはできても調停自体は成立しません。
調停の場においても、遺産分割は相続人間の多数決により決まるわけではありません。
そして、欠席を続けるようであれば欠席者の判断にゆだねる形で、相続分を放棄(相続放棄ではありません)して遺産分割から排除する手続きが取られます。
これを、「排除決定」といいます。
排除されると、その者は遺産分割に関与しません(当事者ではなくなりますが、利害関係人として関与する場合があります)。
欠席を続けるということは、相続する財産について不満があるわけではなく(むしろ財産には興味がない場合が多い)、感情的な面が大きく比重を占めていることが多いため、「財産はいらないから関わりたくない」となりやすいのです。
そのため、欠席を続ける相続人が相続分の放棄に応じる場合もあるため、ムダに欠席が続くようであれば家庭裁判所に対応を促してもよいかもしれません。
6.中間合意
話し合いが長引きそうな場合や争点が多い場合は調停委員の勧めもしくは当事者からの申出によって中間合意が行われることもあります。
たとえば、遺産の範囲について合意に達っした場合、後々同じ問題を蒸し返さないようにする必要性があります。
そのような場合に中間合意です。
中間合意とは、争点が多数ある場合、それらをまとめて一気に解決するのではなく、折り合えるところがあればそこは折り合って段々と、着実に争点を絞っていきながら調停を進めていくこと方法です。
中間合意をすると中間合意調書が作られ、当事者は合意内容に拘束されます。
これを覆すことはよほどの事情がない限りできません。
「やっぱりやめた」を認めてしまうと、いたずらに調停が長引くことにもなりますし、合意内容を否定するような主張をすれば調停委員や裁判官の心証を悪くすることにもなります。
この方法を取ることによって、最終的な早期解決につながることが期待されます。
7.調停成立
期日を数回重ね、話し合いがまとまると「遺産分割調停調書」が作られます。
調停調書の内容にしたがって名義変更など各相続手続きを行っていきます。
基本的に調停調書があれば、相続人全員の印鑑証明書や被相続人の戸籍謄本などが不要になります(提出先に事前確認はしておくべきです)。
なお、相続登記においては、調停調書があれば他の相続人の印鑑証明書や被相続人の戸籍謄本などは不要となります。
8.調停不成立
調停をしていても合意形成が困難であり、成立の見込みがないと判断されれば、もはや話し合いをする余地はありませんので、当然に「遺産分割審判」手続きに移行します。
つまり、裁判手続きになります。
話し合う段階は過ぎたということで、裁判官が遺産分割の方法を判断し法定相続分にしたがった審判がされます。
その審判に不服がある者は2週間以内に即時抗告ができ、それが認められると高等裁判所に審理が移ります。
9.まとめ
遺産分割調停は親族間に将来的な禍根を残す可能性がありますので、相続人の中でも当然、避けたいと考える傾向にあります。
しかし、いつまでたっても協議できない、成立しない状態はだれも得しませんし、相続人全員の望むところではありません。
また、遺産分割協議が成立しないことによって数々のデメリット、リスクがあります。
被相続人も生前、自分に関する相続が家庭裁判所に持ち込まれるとは想定していないことでしょう。
そのような事態を防止、回避するためにも、被相続人としても遺言書を作成しておくなど、なんらかの相続対策、生前対策を行っておくことが重要になってきます。