実務上、法定相続分で相続するといったケースはそれほど多くはなく、遺産分割を行うことが一般的です(遺言書があれば原則、遺言にしたがうことになります)。
しかし、その遺産分割が禁止されていた場合は。
そもそも遺産分割を禁止することなどできないように感じますが、以下の3つの方法で禁止することができます。
1.遺言による禁止
まず1つめですが、被相続人は遺言で5年を超えない期間、分割を禁止することができます。
5年を超えて禁止することはできませんが、仮に5年を超える期間を定めていたとしても無効となるわけではなく、5年の禁止として有効です。
遺言以外の方法で被相続人が遺産分割を禁止することはできませんし、遺言自体が無効となれば遺産分割を禁止する遺言も当然、無効となります。
2.家庭裁判所の審判による禁止
2つめは、家庭裁判所は特別な事由(遺産分割をする時期に適していない事情があるなど)がある場合には期間を定めて分割を禁止することができます。
その期間は5年内とされています。
3.相続人全員の合意による禁止
相続人が合意すれば、遺産分割を禁止することは可能です。ただし、禁止期間は5年を限度としますが、更新可能です。
更新後の禁止期間も5年が限度ですが、何度でも更新可能です。
4.禁止する目的、メリットは?
分割を禁止するメリット、目的としては以下のことが考えられます。
◆相続人が確定していない
認知の裁判や親子関係を確認する裁判が別に行われているようなケースでは、相続人が確定するまで分割を禁止しておくことも考えられます。
遺産分割をしたのに、あとで相続人が変わってしまう可能性もあるからです。
また、相続関係が複雑で、その確定までに時間がかかるような場合に、相続開始直後から遺産分割を進めてしまうと、せっかく行った分割が無効となってしまうリスクがあります。
◆相続財産が確定していない
分割すべき遺産が確定していないため、遺産分割の前提問題として民事裁判で争っているようなケースです。
いったん、その問題が解決するまで、遺産分割を禁止する実益があります。
◆相続人の中に未成年者がいる
相続人が未成年者の場合には、特別代理人を選任して遺産分割協議を行う方法があります。
詳しくは<相続人の中に未成年者がいる場合の遺産分割協議は?>
しかし、相続人自らが遺産分割を行いたい場合もあるでしょう。
相続手続きを急いでいないのであれば、特別代理人を選任しないで、遺産分割を数年間禁止し、成年になるまで待つ方法もあります。
5.禁止にした場合のデメリットは
もっとも、遺産分割を禁止にしたとしても、相続税がかかる場合は相続開始から10か月内に申告、納付しなければなりません。
申告、納付期限は待ってくれません。
通常どおり期限は進行しますが、未分割のままでは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えません。
したがって、とりあえずは法定相続分で分割したとして申告する必要があります。
申告書提出の際には「申告期限後3年内の分割見込書」の提出も忘れないことです。
なお、たとえば5年間分割が禁止されていれば、その3年さえも過ぎてしまいます。
そのようなときは、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署長に提出し、承認を得ることができれば、さらに期限を延長できることがあります。(国税庁ホームページ)
6.まとめ
遺産分割の禁止は実務ではあまり利用されませんし、遺言で見かけたこともありません。
一方で、被相続人があえて遺言で遺産分割を禁止するということは、それなりの理由がありそうですし、前述のようなメリットもあるので、あえて遅らせることにより相続人間のトラブル予防につながるかもしれません。
また、実際に分割禁止、となった場合、相続税の特例を受けるためには3年内に遺産分割をする必要があるため、その点は注意を要します。