換価分割のポイント

1.換価分割とは

換価分割とは、遺産を売却し、仲介手数料などの諸費用控除後の売却代金を、相続人間で合意した割合で分配する分割方法です。

いくつかある分割方法の1つです。

たとえば、わかりやすく相続人がA、Bいるとします。

そして、相続人間で以下のような内容の遺産分割協議がされることがあります。

この内容がまさに換価分割になります(遺産分割協議書には以下のように記載します)。


1.Aは、▲▲不動産を相続する

2.Aは、▲▲不動産を売却換価し、売却代金から登記費用、仲介手数料、測量費用、印紙代その他売却手続きに要する一切の費用を控除した残額を、A、Bは各2分の1の割合で分配する


 

なお、相続登記の名義人をだれにするかですが、

・ある特定の相続人の単独名義とした方がよいのか

それとも

・相続人全員の共有名義にした方がよいのか

といった問題があります。

 

詳しくは<共有?単有?換価分割では相続登記の名義はだれにしておくべきか>

 

2.換価分割の方法が取られる主な理由

以下のような様々な事情のもとで換価分割は実務上よく選択されます。

 

◆遺産である不動産を利用する予定がない

◆固定資産税や管理費など固定費の問題

◆金銭での取得を望んでいる

◆代償金を支払えないため、代償分割ができない

◆相続税の支払いのために不動産を売却

 

換価分割による方法の場合、次のとおり、いくつかの検討、留意すべきポイントがあります。

3.ポイント①税金関係

換価分割による場合、その課税関係について検討を要します。

(1)贈与税

AからBに金銭が渡っているため、それが贈与とされ、贈与税がかかるのではないかという問題があります。

しかし、以下のような遺産分割であれば贈与税にはあたらないとされています。参考として(国税庁ホームページ)

①遺産分割の内容が換価分割であり

②その換価された金銭(売却代金など)が、遺産分割協議に沿った割合で分配されている

逆に、遺産分割が換価分割であるとうたってなければ、贈与税が課税される可能性もあるため要注意です。

(2)譲渡所得税、住民税

登記を単独名義にしたAについて、売却により譲渡益が出た場合、Aには譲渡所得税、住民税がかかるとイメージし易いですが、登記名義を取得していないBにも譲渡所得税などがかかるのか、申告義務が生じるかどうかです。

①Bは実際に売却行為を行っていないため譲渡所得税などはかからない、よって申告する必要はないのではないか、

それとも

②Bは実際に売却行為を行っていない。しかし、売却されたことによって、結局利益を得ているため、Bが得た利益に対して譲渡所得税などがかかり、よって申告義務があるのではないか

この場合、譲渡所得税、住民税は各相続人が分配割合にしたがって取得した金額に応じてかかり、したがってその申告義務を負います。

よって、②のとおりBも自分が得た金額について、譲渡益が出ていれば申告、納税する必要があります。参考として(国税庁ホームページ)

なお、譲渡税には各種特例がありますので、それらをまずは検討すべきです。

特例の代表的なものとしては居住用不動産の3000万円特別控除がありますが、この特別控除を受けるためには様々な要件を満たす必要があります。

詳しくは<相続人間で不公平な結果となる?換価分割の譲渡所得税>

 

4.ポイント②遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書には前述のとおり、換価分割である旨の条項を入れる必要がありますが、そのほかにも、あらかじめ書いておいた方がよい条項があります。

詳しくは<換価分割の場合の遺産分割協議書の書き方で注意すべきポイント>

 

◆売却にかかる経費、控除すべき費用はなるべく細かく書いておくこと

後で相続人間でもめることのないよう、売却代金から控除するべき経費、費用をなるべく具体的に記載しておくことです。

◆売却代金の取り決めをしておく

売却代金に不満のある相続人が出ないよう、あらかじめ相続人間で売却最低額を定めておくか、または代金の決定に際しては相続人全員を関与させることです。

◆期限を定めておく

不動産の売却はすぐにできるものではありません。

ある程度の期間が経過したら、相続人間で再考、再協議することも必要になってくるでしょう。そのために、「いついつまでに売却できなければ再協議する」旨の条項を書いておくことも有用です。

5.ポイント③固定費など

すぐに好条件で売却できればよいですが、条件面の折り合いがつかないなど相手方のあることなのでそう簡単にはいかない場合もあるでしょう。

そのような場合には、登記を単独名義にしたAには

◆固定資産税(1月1日現在の所有者にかかります)

◆家屋の維持、修繕費用や土地の除草費用などをはじめとした不動産の管理費

がかかってきます。

それをAのみが負担することは不公平で、トラブルの元にもなります。

そこで、そのような場合に備え遺産の預金から、かかってくるであろう固定費相当分を別途、Aに相続させておき、固定費限定に使えるようにしておくことも検討すべきでしょう。

念のため、遺産分割の条項にもその旨を記載しておくことをオススメします。

6.ポイント④売却の時期

換価分割を行う際、売却の期限や売却しなければならない時期などは特に決まりはありませんが、相続税との関係で注意すべきことがあります。

小規模宅地等の特例との関係です。

この特例を受けるための要件として、「相続税申告期限まで土地を所有していること」が必要になります。

いわゆる「保有継続要件」です。

したがって、相続開始後、申告期限内(相続開始から10か月)に土地を売却し、引き渡しまでしてしまった場合はこの特例が使えないといったデメリットがあります(なお、申告期限前に売買契約を締結したとしても、引き渡しが申告期限後であれば保有継続要件を満たすことになります)。

とりあえず売却することのみに意識がいき、その結果、特例適用が認められなくなっても、後の祭りです。

思わぬ税金が課税されないよう相続税のことも見据えておくことです。

なお、配偶者にはこの保有継続要件はありません。

配偶者が「特定居住用宅地」(※)を売却した場合、申告期限まで保有継続する必要はないため、すぐに売却してもこの特例を使えます。

税法上、配偶者には様々な優遇策が設けられていますが、これもその1つといえます。

ただし、保有継続要件がないのは居住用宅地に限られます。配偶者であっても事業用宅地については保有継続要件があります。

「配偶者ならなんでも大丈夫」ということにはなりませんので、勘違いしないようにしましょう。

(※被相続人と同一生計の親族が居住のために利用していた土地)

7.まとめ

換価分割は不動産を現金化して、相続人間での公平な分配を実現できるので、比較的よく選択される分割方法です。

特に相続した自宅不動産を利用する予定がない、子が別居独立している場合にはよく取られます。

ただし、遺産分割協議書の条項の書き方次第では、相続人間のトラブルの元になったり、換価分割と認定されず贈与税がかかってしまう場合もありますので、注意を要します。

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