
相談事例
夫が亡くなりましたので、この度、夫から相続人に自宅の名義を変更しようかと考えています。
その場合ですが、名義はだれにした方がよいでしょうか。
現在、妻である私が一人で居住しており、今後も居住します。
相続人は私のほかに長男と長女がおりますが、長男は別居、長女はすでに結婚し家庭を持っています。
実際に私が住んでいるので私名義にした方が何かと都合が良いとは思いますが、長男が将来的に実家に戻ってくる可能性もあるので、長男名義も考えております。
長男はどっちでも良いという感じなのですが、だれ名義にした方がよいでしょうか。
1.だれの名義にするか?
相続のご相談を受ける中で、「自宅の名義をだれにした方がよいのか」といったご質問をよく受けます。
名義をだれにするかは遺言書がある場合は別ですが、相続人の合意があれば自由です。法律でだれにしなければならない、といったことはありません。
各家庭で事情が異なるので、一概にだれにした方がよい、とは言えませんが、相談事例のケースでは以下の点を参考に決めてもいいのではないかと思います。
妻名義
まず、妻が自宅には引き続き住むのであれば、素直に妻名義にした方が明快ですし、気持ち的に安心するのではないでしょうか。
また、不動産には固定資産税がかかってきますが、妻名義にすれば妻に対して課税されますので住んでいる人が負担する、といった分かりやすい形となります。
相続税がかかるケースでは各特例を考慮して妻が相続した方がよいケースもあるでしょう。
注意すべき点としては、将来、施設入所などで自宅売却の必要性が出てきたときです。
その際に認知症になっていたら売り時を逃すことも。認知症の程度によっては自ら売買行為ができないかもしれません。
売買行為などは判断能力、意思能力が備わっている必要があるからです。
なお、その場合の対策としては家族信託や任意後見があるので元気なうちに検討しても良いかもしれません。
自分が亡くなった後、つまり二次相続時の遺産分割において、その相続人(子など)の間で話がまとまらないといった問題が出てくる可能性もあります。
相続争いを避けるためには遺言書の作成も一つの方法です。
子名義
一方、子名義にするケースもあります。相談事例では長男名義とする場合です。
最大のメリットは、長男に名義を移しておけば妻が亡くなった際には登記がいらないので手間や費用がかかりません。
仮に妻名義にしていれば、妻死亡により妻から子に相続登記をするところですが、はじめから次世代名義にしておけばその必要はありません。
なお、長男名義にしても実際に引き続き住むのは妻(母親)なので、タダで不動産を貸す「使用貸借」という形になるでしょう。
デメリットとしては長男が先に死亡したら不測の事態が生じる可能性があります。
年齢順で亡くなるのが普通、と考えるかもしれませんが、こればかりは分かりません。
親より先に子が亡くなるケースはないことではありません。
長男が先に死亡した場合、長男の相続人が不動産を相続することになりますが、長男側の相続人との関係性によっては退去を求められる可能性もあります。
子とは良好な関係であっても、その相続人(の全員)とも良好とは限りません。
対策として、妻に配偶者居住権の設定も考えられます。
遺産分割協議で妻に配偶者居住権を取得させることができます。
配偶者居住権は登記をすることになりますが、これにより妻は居住権を主張することができます。
しかし、配偶者居住権の登記があることによっていざというとき不動産の売却や担保に入れることが難しくなる場合があるので要注意です。
配偶者居住権の登記があることにより、たとえば長男が相続不動産を担保に銀行から借り入れをしたいと思っても、融資審査に影響があるかもしれません。
また、配偶者居住権の登記がついたままの不動産を買う人はいないでしょう。
将来の処分を考えたときに不都合が出てくる可能性もあるということです。
配偶者居住権について詳しくは<配偶者はそのまま住み続けられる?配偶者居住権とは>をご覧ください。
2.共有名義は?
仲良く妻(母親)と長男名義の共有名義はどうなのか、というところですが、基本的に共有はオススメしません。
共有にすることにより、各共有者ごとに何かしらの手続き(相続であったり、住所変更であったり)が必要となり、想定外の手間や費用かかるかもしれません。
共有者が亡くなって、相続発生となるとさらに共有者が増えていき、複雑化するおそれもあります。
将来的にトラブルが生じることも。
共有名義は特別な理由がない限りやめておくべきでしょう。
詳しくは<共有分割・共有名義をオススメしない理由>をご覧ください。
3.相続税対策として
二次相続も視野に入れると、あえて長男に自宅を相続させて、妻の方は配偶者居住権を取得することもあります。
配偶者居住権が相続税の節税に機能する場面もあるので、二次相続の際にかかってくる相続税シミュレーション次第では検討の余地もあるでしょう。
4.まとめ
自宅を相続した場合、だれ名義にすればよいか、だれ名義にした方がよいか、と悩まれる方がいます。
様々な要因をもとに判断することにはなりますが、以上の点を一つの参考にして検討しても良いのではないでしょうか。
各事情があるので個別判断にはなりますし、大前提として相続人全員の合意が必要になりますが、詳細は専門家に相談することをオススメします。