相続人間で不公平な結果となる?換価分割の譲渡所得税

以下では、換価分割で売却代金を公平に分配したのはいいが、相続人間で税金に違いがでて、結果的に不公平になってしまった事例を紹介します。

事例

被相続人A、相続人は長女B、次女C

Aの遺産として、預貯金はほとんどなく、自宅不動産が大部分を占める

自宅にはAとCが同居しており、A死亡後もCはそのまま住んでいる

Bはすでに独立し別居していた

B、Cは話し合い、自宅を売り、その代金を公平に折半することに合意した

なお、遺産総額は相続税の基礎控除内なので、相続税の申告の必要はない

1.換価分割に伴う税金は?

換価分割とは、遺産を売って、その売却代金を分配する分割方法で、遺産を分けることがでない、遺産を売却したい、といった場合に選択されることが多い分割方法です。

 

詳しくは<換価分割のポイント>

では、この換価分割を選択し、自宅不動産を実際に売却した場合。

税金は発生するか、ですが、売却により譲渡益が生じる場合は、譲渡所得税がかかります。

遺産の所有権は相続開始時点(被相続人死亡時)で相続人が直ちに取得します。そこには時間的間隔は一切ありません。

したがって、遺産を売却するということは、相続人から第三者に譲渡したことになるため、自分の財産を売却した場合と同様に、譲渡益が出れば譲渡所得税の課税対象となります(所有権の流れとしては被相続人→相続人→第三者となります)。

 

以下では、分かりやすいように金額などを単純にして説明します。

B、Cは、相続した自宅が3000万円で売却できたとします。

その自宅の取得費(当時、被相続人Aが自宅購入に要した費用)と譲渡費用の合計が1000万円だとすると、その譲渡益(※)は2000万円となります。

遺産分割どおり、その2000万円を2分の1ずつ公平に分配することにしました。

したがって、BとCはそれぞれ1000万円の譲渡益が生じたことになります。

譲渡益額は、遺産分割で合意された換価金の配当割合にしたがって、各相続人に帰属し、その割合に応じて譲渡所得税を負担します。

譲渡益の算出方法

譲渡益=①譲渡価額-(②取得費+③譲渡費用)

①譲渡価額は、実際に譲渡した額、売却代金です。

②取得費とは、その不動産を取得した際に要した費用です。領収書、売買契約書を紛失しているなど、取得費が不明の場合は譲渡価額の5%を取得費とできます。

③譲渡費用とは、譲渡に際してかかった費用、たとえば印紙代、不動産仲介料、登記費用、測量費用、建物解体費用などです。

2.同居相続人には特別控除がある

以上のように、換価分割で公平に遺産を分けたとしても、税務上、結果的に不公平となってしまうこともあります。

どういうことかと言うと、同居の有無、がキーポイントです。

Aと同居していたCは、居住用不動産を売却したことになります。

居住用不動産を売却すると、一定の要件を満たせば3000万円の特別控除が認められます。

いわゆるマイホーム控除、というものです。

この3000万円の特別控除は、相続人それぞれに適用があり、この場合、譲渡益が3000万円を超えるまで、各相続人は譲渡税がかかりません。

同居していたCに特例適用が認められると、1000万円(譲渡益)-3000万円(特別控除)となり、譲渡所得税は課税されません。

一方、別居していたBは、居住用不動産の特例が使えません。

したがって、譲渡益1000万円に対して、譲渡所得税が課税されます。

このマイホーム控除、同居の有無以外にもいくつか要件がありますので、注意を要します。

3.税率は長期譲渡か短期譲渡かで異なる

では、譲渡税がかかるとなると、その税率はどうなるのか。

譲渡所得税の税率は、所有期間によって異なります。

被相続人が自宅を取得してから(相続人が相続により取得してからではありません)、相続人が相続をして譲渡した年の1月1日において所有期間が、

①5年を超えている場合は「長期譲渡」として20%(所得税15%、住民税5%)の税率がかかります。

②5年以下の場合は「短期譲渡」として39%(所得税30%、住民税9%)の税率がかかります。

さらに当分の間は、所得税に対し2.1%をかけた金額が復興特別税としてプラスされます。

よって、最終的な税率は以下のとおりとなります。

 

◆短期譲渡・・・20.315%

◆長期譲渡・・・39.63%

 

長期と短期で約2倍もの違いがでてきます。

結果的にCは税金がかからない一方で、Bには203万1500円の税金がかかります。

なお、注意点として、所有期間の判断は譲渡した年の1月1日時点を基準とします。

たとえば、実際に譲渡した日が所有期間を5年以上経過していても、その年の1月1日時点では5年を経過していなければ短期譲渡となってしまいます。

4.譲渡税が軽減される場合もある

事例では相続税がかかっていませんが、仮にBが相続税を納付している場合には、譲渡所得税が軽減されることがあります。

相続税の申告期限から3年内(つまり相続開始から3年10か月内)に売却した場合には、その不動産にかかった納付済み相続税を経費とでき、取得費に加えることができます(取得費加算制度)。

その結果、譲渡益が少なくなるため譲渡所得税も軽減されます(国税庁ホームページ)

5.まとめ

換価分割は手間や費用がかかりますが、比較的よく取られる分割方法です。

ただ、事例のように、売却代金を折半で分配し、一見すると公平に遺産分割できたとしても、特例を受けられる相続人と受けられない相続人が出てくる場合もあるため、税金の面で不公平な結果が生じることもあります。

実際に手元に残る金額が相続人で違ってくることがあるので、想定していない事態が起こりえます。

相続人間でのトラブルの元にならないように、いずれ課税される税額も考慮に入れて分配割合を決めても良いかもしれません。

譲渡所得税については他にも特例適用を受けられる可能性もあり、非常に細かい部分であるため、税理士などの専門家に相談することをオススメします。

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