
建物所有者である被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していた場合には、配偶者居住権は成立しません。
配偶者居住権は、建物全部について、使用、収益できる権利です。
そして、被相続人でさえ、生前、建物全部を使用できなかったのに、配偶者居住権によって、配偶者が建物全体について使用、収益できるとなると、配偶者に過度の保護を与えることになり、また、他の共有者が不利益を受けてしまいます。
被相続人が有していた権利、権限を越えてまで認めることはできないのです。
1.生前に子に持分を贈与していた場合は
被相続人が生前に、所有権の一部を子に贈与していた場合に、想定外の結果になってしまうことがあります。
つまり、前述のとおり、被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していると、配偶者居住権を設定することができません。
それがたとえ、子であったとしてもです。
たとえば、生前、相続税対策につながると考え、持分を子に贈与している場合に、遺言で配偶者居住権の遺贈を考えているのであれば、自分が死亡するまでに第三者から持分を戻しておく(被相続人の単独名義にするか、または単独名義にした後、配偶者に持分を贈与するか)などの対応が必要になってきます。
そうしておかないと、配偶者の居住権を確保できなくなってしまうからです。
つまり、配偶者居住権の遺贈を定めた遺言書を書いても、対象の建物が配偶者以外の者との共有であれば、その遺言書は(配偶者居住権の部分については)ムダとなってしまいます。
配偶者居住権が成立しないため、当然、その遺言書をもって、配偶者居住権の設定登記をすることもできません。
2.まとめ
配偶者居住権の遺贈を遺言書に書く場合、まずは建物の名義がどうなっているか今一度、確認してみることです。
配偶者以外の者が1%でも持分を持っていると、配偶者居住権は成立しませんので、持分を持ち戻すなど対応策を考える必要があります。