どっちを選択すべき?配偶者居住権と賃借権の比較

被相続人の死後も、配偶者が住み慣れた家で住み続けるには、いくつかの方法があります。

住むにあたっては、なにかしらの権利が必要になります。

まず思い浮かぶのが、所有権。この所有権を相続して、配偶者は従来どおり住み続けることができます。

住む権利として、その他に「配偶者居住権」と「賃借権」があります。

両者は「所有権はもたないけど、住むことはできる」という点では共通していますが、実際には異なる点がいくつかあります。

以下では、その両者の違いを解説します。

1.配偶者が自宅に住む方法は?

配偶者居住権は遺贈で取得できます。

配偶者居住権を遺贈する遺言書があれば、配偶者が配偶者居住権を取得し、そのまま住み続けることができます。

しかし、遺言書に配偶者居住権を遺贈する旨が書かれていない、そもそも遺言書自体がない場合もあります。

そうなってくると、だれが自宅を相続するか、だれが住むか、いったことは他の相続人との話し合いになってきます。

子は独立、別居しているのが普通です。

配偶者が従来どおりその自宅で生活することになるでしょう。

では、配偶者が自宅に住み続ける方法としては何があるか、というと基本的に以下の3つが挙げられます。

 

①配偶者が自宅の所有権を相続する

②自宅の所有権は相続しないが、遺産分割で配偶者居住権を設定する

③自宅の所有権は子が相続し、その子との間で賃貸借契約を結ぶ(賃借権を設定する)

 

①の、配偶者が所有権を相続すると、自宅の評価だけで自己の相続分を満たしてしまう可能性があり、預貯金など他の相続財産を相続できなくなる可能性があります。

 

詳しくは<配偶者はそのまま住み続けられる?配偶者居住権とは>

 

それでは、今後の生活に不安を感じることでしょう。

当然、遺産分割で配偶者が自宅も相続し、金銭も相続するといった話し合いも可能ですが、そのような内容で合意できるかどうかは分かりません。

そこで、②と③も検討する必要があります。

配偶者が自宅に住む方法としては、②の、遺産分割によって配偶者居住権を設定するか、③の、所有者である子との間で賃貸借契約を結ぶか、どちらかになります(タダで貸す「使用貸借」もありますが、今回の話では除きます)。

自宅に住み続けるためには、②か③を検討する必要もありますが、所有者である子との関係性や生活状況なども影響してきます。

・遺産分割で合意して配偶者居住権を設定するか。

または

・遺産分割では配偶者居住権の合意がでないため、所有者である子との間で自宅の賃貸借契約を結ぶか

違いを比較しながら検討することが重要となります。

2.どのように成立する?

配偶者居住権

遺贈、死因贈与、遺産分割によって成立します。

賃借権

所有者との契約により成立します。借主は賃料を支払う義務を負い、貸主は使用させる義務を負います。

3.存続期間は?

配偶者居住権

配偶者居住権の存続期間は原則終身(配偶者が亡くなるまで)で、例外的に遺言書や遺産分割で、別途、期間を定めることができます。

存続期間が長期間に及ぶほど、配偶者居住権の評価は高くなり、逆に、所有権の評価は低くなります。

賃借権

契約で存続期間を定めますが、改正債権法により、最長期間が20年から50年までに延長されました。

4.賃料の支払いは?

配偶者居住権

配偶者居住権は、配偶者の居住する権利を保護しつつ、今後必要になってくるであろう生活費などを一定程度確保するための制度なので、無償(タダ)で自宅を使用できます。

賃借権

契約で定められた賃料を支払います。

5.譲渡できる?

配偶者居住権

配偶者を保護する制度であるため、第三者に譲渡することはできません。

賃借権

所有者の承諾を得れば、譲渡、転貸(また貸し)することができます。

6.費用の負担は?

配偶者居住権

配偶者居住権は、通常の必要費(経年劣化による修繕費や固定資産税)については配偶者の方で負担しなければなりません。

タダで使用できる代わりに、「これらの費用は負担してくださいよ」と言うことです。

賃借権

賃借権では、賃貸人が賃借物の修繕費用を負担します。

賃借人は賃料を支払う義務があり、そのためには賃貸人は賃借人に適切に使用させる義務を負うからです(なお、契約によって別段の定めができます)。

7.第三者に権利を対抗できる?

配偶者居住権

配偶者居住権は、居住建物に配偶者居住権の設定登記をすることにより、第三者に対抗することができます。

 

詳しくは<配偶者居住権の登記はどうやる?配偶者居住権の登記のポイント>

 

所有者は、配偶者居住権の設定登記をする義務を負うので、配偶者から配偶者居住権の設定登記を求められたら、拒むことはできません。

賃借権

建物賃貸借については、登記か、もしくは建物の引き渡しがあれば第三者に対抗できます。

実務上は、登記がされることはなく、建物の引き渡しによります。

建物の引き渡しとはどういうことか、ですが、単に建物の鍵を渡すこと、です。

借主である配偶者は鍵を受け取れば(実際はいままでどおりそのまま使用するだけでしょうが)、第三者に対して建物に住める権利を主張し、対抗することができます。

8.建物所有権の売却は難しくなる?

配偶者居住権

配偶者居住権の設定登記がされていることにより、その建物の所有権は負担付である、と判断されます。

負担と判断されるということは(配偶者居住権の登記がある限り)、所有者は建物を簡単に売却できなくなる可能性が高くなります。

賃借権

建物所有権の売却に際して、賃借人の承諾は不要です。

建物を売却すると、賃貸人としての地位も買主に移転します。

賃貸人としての地位とは、賃料を請求する権利や、修繕義務、敷金返還義務など契約上の各種の権利・義務です。

なお、賃貸人の地位を賃借人に対抗するには、賃貸物である建物の所有権移転登記が必要です。

たとえば、新オーナーが賃料を請求するには、新オーナー名義に登記を移しておく必要があります。

9.相続できる?

配偶者居住権

配偶者居住権は、配偶者を保護する制度なので、配偶者が死亡しても相続の対象にはなりません。配偶者の死亡により、配偶者居住権は消滅します。

賃借権

賃借権は、財産的価値があり、また、一身専属的な権利ではないため相続の対象になります。

10.まとめ

配偶者居住権と賃借権は、「家に住む権利」という点では共通していますが、その中身は大きく異なります。

所有権を相続した相続人との間で配偶者居住権を設定するのか、それとも賃貸借契約を結ぶのか、それぞれの当事者の考えや事情を考慮に入れて、最適な方法を選択することです。

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