相談事例
30年以上前に兄が亡くなったのですが、この度、兄が所有していた土地を売却することを検討しています。
名義は兄のままなので、売却するにはまず相続登記をする必要があるとのこと。
兄は生涯独身で、相続人は姉と妹の私の2人だけですが、兄が亡くなってすぐに姉は相続放棄をしました。
相続人は私だけだと思うのですが、手続きにあたってはどのようにすればよいでしょうか。
1.売るにはまず相続登記を
相続した不動産を売却するためには、前提として相続登記を経ている必要があります。
相続人の1人である姉が相続放棄をしているとのことなので、妹が単独相続人として、妹名義にすることになります。
当然、妹が売主として契約等の売却行為を行っていきます。
2.相続放棄申述受理証明書があるか
相続登記を妹単独名義にするには、姉が相続放棄をしたということを証明する必要があります。
相続放棄をした事実は戸籍に記載されることはないので、法務局などの第三者は姉が相続放棄したかどうかは分かりません。
そのため、家庭裁判所発行の相続放棄申述受理証明書(相続放棄申述受理通知書でも可)で相続放棄をした事実を証明します。
上記の書面を法務局に提出することにより、姉が相続放棄したという事実が証明でき(つまりは妹の単独相続であることが分かる)、妹名義に相続登記をすることができます。
3.相続放棄申述受理証明書がないとき
相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所に請求することで発行してくれます。
詳しくは<利害関係人からの請求は?相続放棄申述受理証明書の取得方法>をご覧ください。
失くした場合であっても、再度請求すれば発行してくれます。
なお、相続放棄申述受理通知書については再発行の制度はありません。
4.相続放棄申述受理証明書の申請期限は?
注意点が1つあります。それは、申請期限です。
家庭裁判所にて相続放棄に関する資料の保管期限は30年とされています。
したがって、30年以上前の相続放棄については相続放棄申述受理証明書を請求しても発行してもらうことができません。
また、相続放棄申述受理通知書があれば、それでも相続登記は対応可能ですが30年以上前のこととなると、あるのかどうか(見つからない可能性の方が高いでしょう)。
相談事例において、姉が当時、相続放棄申述受理証明書を請求していて持っている、もしくは相続放棄申述受理通知書が手元にあるのであれば何も問題はありません。
ただ、いずれも手元にないとなると後述のようにかなり面倒になってきます。
5.相続放棄申述受理証明書がない(取れない)場合
相続放棄受理証明書が手元にない。保管期限オーバーであらたに発行してもらえない。
こうなってくると、残る手は姉も含めた遺産分割、つまり被相続人の土地について妹が相続する旨の合意が必要となります。
姉は相続放棄をしたのに遺産分割をする必要がある。
矛盾していますが法務局としても相続放棄の事実が確認できない以上、そのような方法でしか妹単独名義にはできないのです。
したがって、姉も含めて遺産分割協議をしていくことになります。
相談事例においては姉は生存していますが、仮に姉もすでに亡くなっているとなると、さらに大変です。
姉の相続人の関与が必要になるからです。
姉に配偶者と子がいれば、それらの者が姉の相続人として遺産分割の当事者となってしまい、合意に至るまで一苦労あることでしょう。
6.まとめ
相続放棄をしたけど、証明書がない。手続きを後回しにした結果、上述のような最悪の事態が生じるかもしれませんので、早め早めの対応を心掛けることです。
また、相続登記の申請義務化も令和6年4月からスタートしますので、相続に伴う手続きは早めに終えておくことをオススメします。