1.相続放棄による他の相続人の持分への影響
相続放棄をするとはじめから相続人ではなかったとみなされます。
そして、相続放棄によって、放棄した者が持っていた相続持分はどうなるのでしょうか。
同一順位の相続人が他にもいる場合
同一順位の相続人が他にもいる場合は、その同一順位の相続人に放棄者の持分が移ることになります。
たとえば、被相続人A、相続人が妻B、長男C、次男D、三男Eの4人の場合だと、法定相続分は以下のとおりとなります。
●B6分の3(2分の1)
●C、D、E各6分の1
ここで、Eが相続放棄すると、各人の持分は以下のとおりとなります。
●B4分の2(2分の1で変わらず)
●C、D各4分の1
Eは、はじめから相続人ではないため、同一順位である子の数ははじめから2人としてみます。
したがって、子の法定相続分2分の1をC、Dの2人で分け合います。
同一順位の相続人が他にいない場合
同一順位の相続人が放棄者以外にいない場合は、次順位者に相続権が移りますので、持分の問題は出てきません。
2.相続分の放棄
相続放棄と言葉は似ていますが、実務上、「相続分の放棄」という手続きもあります。
これは、遺産分割協議や調停、審判の場で「自分は相続しない」と言って相続分を放棄し、協議などから脱退、離脱することです。
ただ、家庭裁判所が審判する相続放棄ではないので、相続人としての地位(権利義務)を失うわけではありません。
つまり、相続分の放棄をしても、債務の負担義務を免れることはできませんので、債権者から弁済を求められたら拒むことはできません。
相続分の放棄は、相続放棄と違い、3か月内の期限はなく、方式も決まりはありません。家庭裁判所へ申立てることは不要です。自らの意思表示によって効力が発生します。
もっとも、実務上は紛争予防のために、また、銀行口座の名義変更、解約など相続手続きに必要となるので「相続分放棄書」を作成します。
相続分放棄書には相続分を放棄した者の署名押印(実印にて、印鑑証明書付)をもらいます。
家庭裁判所(調停、審判の場)で相続分の放棄がされた場合は、相続分放棄書(印鑑証明書付)、即時抗告権放棄書を家庭裁判所に提出します。
3.相続分の放棄による他の相続人の持分への影響
相続持分への影響も相続放棄と相続分の放棄は以下のような違いがあります。
◆相続放棄ははじめから相続人でなかったものとして持分が決まる
◆相続分の放棄は放棄者の持分が他の相続人の相続分に応じて配分される
例)A死亡、相続人は配偶者B、長男C、次男D
法定相続持分はB4分の2(2分の1)、C4分の1、D4分の1
(1)相続放棄の場合
Cが相続放棄をした場合、各人の持分はB2分の1、C2分の1となります。
(2)相続分の放棄の場合
Cが相続分の放棄をした場合、各人の持分はB3分の2、C3分の1
4.まとめ
相続放棄者の持分は、はじめからその者がいないものとして計算します。
一方、相続分の放棄者の持分は、他の相続人がその法定相続分に応じて、放棄された相続分を分け合います。
間違えやすいところであり、特に相続財産の分配時には注意することです。
この割合を間違えてしまうと、当然はじめからやり直しとなり、場合によっては再度、相続人から分配金を集め直し、再分配となってしまいます。
トラブルに発展する可能性もありますので、相続放棄(相続分の放棄)などが絡んでくるケースでは、専門家に相談することをオススメします。