1.相続欠格
相続人や受遺者が故意に、不当な利益を得ることを目的として、相続に関する遺言書に対して次の行為をした者は、相続人となることができません。
これを、「相続欠格」といいます。
◆偽造
偽造とは被相続人の名をかたり、遺言書を作成することです。
◆変造
変造とは遺言書に変更を加えること、改ざんです
◆破棄
破棄とは破り捨てる、燃やすなどのことです。
◆隠匿
隠匿とは遺言書を隠すこと、遺言書が見つからないようにすることです。
以上のように遺言書に不当な干渉をした者は、相続欠格者となり相続人となることができないため、遺産を相続する権利を失うことになります。
そのような行為をする者に相続権を認めることはふさわしくないからです。
ほかに欠格事由としては、
「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をしたり、撤回したり、変更を妨げた者」
「遺産欲しさに故意に被相続人を殺害した者や先順位の相続人を殺害した者」
など重大な行為、事実がある場合です。
相続欠格が問題となるケースとしては、普通は遺言書の破棄、変造など、遺言書への不当な干渉による場合ではないでしょうか。
2.相続人廃除との違い
相続欠格は相続権を失うという点で相続人廃除と似ていますが、次の点で異なります。
相続人廃除について詳しくは<相続権を奪う方法は?相続人廃除の解説>
◆家庭裁判所の審判を必要としない
廃除は被相続人の意思に基づいて、家庭裁判所に申立ることが必要ですが、相続欠格は欠格事由があると法律上、裁判手続きなど何らの手続きを要せず、当然に相続資格を失います。
被相続人の意思表示を必要としません。
◆欠格者であることは戸籍に記載されない
廃除はその旨が戸籍に記載されますが、欠格であることは記載されません。
欠格を確認、証明する方法は「欠格証明書」を欠格者本人に作成してもらう必要があります。
ただし、それは前提として欠格者本人が欠格事由を認めている、協力してくれる場合です。
欠格になると相続権を失ってしまうため、その相続人自身が欠格者であることを認めて任意に作成してくれる可能性は非常に低いでしょう。
別途、相続権がないことを確認してもらう訴訟を起こす必要があります。
◆取り消すことはできない
廃除は家庭裁判所に申立てることにより、取り消すことができます。また、遺言書で廃除を取り消すこともできます。
しかし、相続欠格を取り消すことはできません(相続欠格者をゆるすことができるかどうかは後述)。
欠格となるべきその行為自体に問題があるからです。
3.相続欠格者には遺留分も認められない
相続欠格者は相続権も失いますが、同時に遺留分も失います。
相続人として有していた権利や地位を一切主張できません。
4.相続欠格者をゆるすことは
相続欠格者をゆるすこと(「宥恕」、ゆうじょといいます)ができるかどうかが問題になることがあります。
被相続人自ら、たとえば遺言書を改ざんした相続人をゆるすことにより、相続人として扱うことができるかどうかですが、肯定する説、否定する説ともに見解が割れています。
被相続人の最終意思の尊重、に重点を置くのであれば宥恕を認めても良いように思います。
しかし、秩序、公序良俗に反した行為、行動に着目し、相続権のはく奪という制裁的な意味合いに重きを置くのであれば、宥恕は認めない、認めるべきでない方向になるでしょう。
5.まとめ
相続欠格は、目先の利益に目がくらんで悪事を働く者に制裁を与える制度です。
欠格事由はいくつかありますが、実務上、問題になりやすいのは遺言書への不当な干渉でしょう。
被相続人を殺害したことにより相続欠格となるのは明らかですが、偽造など遺言書の干渉を巡る争いはその是非の判断を巡り長期化しやすいです。
したがって、遺言書の作成や、保管場所、方法については十分検討し、相続人から不当な干渉を受けないように万全な体制を取っておくことが重要になります。