家族信託とは違う?銀行の扱う遺言信託

1.銀行の遺言信託とは?

近年、銀行の窓口やチラシで「遺言信託」という言葉(ワード)をよく目にする場面があります。

信託、という言葉を聞いてどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。

銀行に自分の財産を託して有効活用してくれるのかな・・・。こう思うかもしれませんが実はそうではありません。

銀行でよく見かけるこの遺言信託はだれかに自分の財産を託す、といったものではありません。

つまり、だれかに財産を託す行為である信託法上の遺言による信託(いわゆる家族信託)とはまったくの別物となります。

 

遺言による信託について詳しくは<遺言で信託?遺言信託のメリット・デメリット>をご覧ください。

 

では、銀行でよく見かけるこの遺言信託とは何か。

銀行が称している遺言信託ですが、簡単に言うと銀行のアドバイスにしたがい公正証書遺言を書いて、その遺言の遺言執行者を銀行として、執行業務を銀行側で行っていく一連のサービスのことを意味します。

遺言の作成から執行までのすべてをサポートする「商品名」のようなもので、法律用語としての遺言信託ではありません。

遺言信託のご説明をすると、「銀行がやっているものですよね」といった反応が多いのですが、まったく違うものです。

2.銀行の扱う遺言信託の流れ

では、その銀行の扱う遺言信託ですが、基本的に以下の流れに沿って行われます(ただし、サービス内容によりますので、詳細は各銀行にお問い合わせください)。

①銀行に遺言の相談

遺言を考えている場合、遺言信託を扱っている銀行に遺言の相談をします。

自分の口座を持っている銀行に遺言全般について(もしくは節税策)相談する方が多いのではないでしょうか。

口座を持っている銀行に依頼すれば、遺言執行時に費用が割安になるケースもあります。

遺言信託という商品、サービスを銀行員から提案されることもあるかもしれません。

②公正証書遺言の作成

さまざまなアドバイス(法務面、税務面)を受け、では遺言書を作成する、となった場合に、信託銀行が作成のサポートをします。

通常、公正証書遺言に必要となる証人2名も用意してくれます。

③公正証書遺言正本の保管

公正証書遺言の作成後、その公正証書遺言正本は遺言者が亡くなるまで銀行で保管されます(原本は公証役場で保管)。

保管料(年間数千円)が発生することが一般的です。

④遺言内容の定期的な照会、確認

遺言書作成から遺言者が亡くなるまでの間、遺言内容、財産内容などに変更がないか定期的に照会、確認がされます。

ここで、何かしらの変更、変動がある場合、その内容いかんによっては遺言の作り直しといったこともあるかもしれません。

⑤遺言執行

遺言者が死亡し、遺言の効力が生じたあとは、遺言執行者となっている銀行が遺言内容を実現させるために、遺言執行業務を開始します。

不動産であれば相続登記、預貯金であれば名義書き換えや解約、といった各種手続きを行っていくことになります。

もっとも、銀行自らが登記手続きや税務申告をすることはできないため、司法書士や税理士に手続きを外注したり、もしくは別途依頼することになります(当然、別途専門家の報酬が発生します)。

3.銀行の遺言信託のメリット

信託銀行の遺言信託のメリットとしては、銀行が関与することで大きな安心感を得ることです。

遺言者が亡くなるまで進捗を管理してくれ、定期見直しも行ってくれます。その都度、現状にあった最適な方法をアドバイスしてくれることでしょう。

また、相続手続きは多岐にわたり、かなり煩雑な作業です。

これらの手続きを一括して受け持ってくれるため、自ら専門家を探す手間が省け、迅速に遺言内容の実現が期待できます。

4.銀行の遺言信託のデメリット

最大のデメリットとしては、高額な費用です。

一般的に、遺言作成時にいくら、そして遺言執行時にいくら、と始まりと終わりにそれぞれ費用がかかってきますが、遺産額によっては数百万円となる場合もあります。

銀行の報酬とは別に専門家に対する費用も当然かかってくるため、作成から執行までの一連の費用がどうしても割高になります。

遺言を執行する場面においても、不都合が出る場合があります。

執行する内容は基本的に財産に関するものに限定しているため、認知や相続人廃除など身分に関する遺言や執行が困難な事案については取り扱っていない場合もあります。

また、銀行によっては遺産の額が〇〇〇万円以上でなければ利用できない、といった条件が設定されていることもあるので、費用面とも関連しますが、ある程度まとまった資産が必要になってきます。

5.まとめ

信託法上の遺言信託と銀行の扱う遺言信託。

双方、同じ「遺言信託」とは称していても、意味合いはまったく異なります。

 

・信託法上の遺言信託は、遺言によって信託行為を設定するもの(自分の財産を託す)

・銀行の扱う遺言信託は、遺言手続き全般(始まりから終わりまで)のサポートを意味する商品名のようなもの

 

遺言信託と言えば本来的には遺言で信託行為を設定することですが、街中でよく目にすることもあり、世間一般によく知られているのが銀行の遺言信託の方です。

(どちらも遺言書を作成する点では共通しますが)銀行が一般的に称している遺言信託は、いわゆる家族信託のことではありません。

ややこしいですが、その違いを理解したうえで資産を多く保有している方や、費用がかかってでもワンストップサービスを受けたい方であれば、銀行の扱う遺言信託の利用を検討してみても良いかもしれません。

関連記事