1.相続人以外の親族からの貢献に対して報いるには
義父(義母)の介護を長期間にわたり、自分の時間を犠牲にして行なってきたのに、相続人ではないため遺産を相続できない、一銭ももらえないという話しはよくあります。
見返りを求めて介護などを行っているわけではないでしょうが、その労に報いる何かしらのモノは求めたいところだと思います。
今までは、そのような者(相続人以外の親族)の貢献に対し報いるには、基本的に以下の方法をするほか法的手当てがありませんでした。
◆生前贈与
◆遺言
◆家庭裁判所の審判が必要な特別縁故者への財産分与
2.特別寄与料制度
生前贈与や遺言は、貢献した者からアクションを起こすようなことではありませんし、特別縁故者への財産分与制度の利用も相当長期間かかり、また、認められる可能性も高くはありません。
そのようななかで、長年介護・看護を行ったのに金銭的に何も報われないのはいかがなものかということで、あらたに「特別寄与料」という制度を規定しました。
改正民法1050条1項は、
「被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者は相続開始後、相続人に対し寄与に応じた額の金銭の支払いを請求できる」
と規定しています。
なお、改正前においても「寄与分」という制度がありますが、この制度の対象者は相続人に限定されるため、相続人ではない義理の子や孫などは対象外でした。
詳しくは<一番介護をしたから・・・。寄与分とは?その条件は?>
3.特別寄与者
特別な寄与をした者、「特別寄与者」にあたる者としては「被相続人の親族(※)であって、相続人でない者」をいいます(相続人であれば別の制度である寄与分によります)。
(※親族とは6親等内の血族と3親等内の姻族のことをいいます)
ただし、親族であっても相続放棄した者や相続人の欠格事由にあたる者、廃除された者は特別寄与者になれません。
また、内縁配偶者も法律上の親族ではありませんので、特別寄与者になれません。
生前贈与や遺言、特別縁故者制度によることになります。
特別の寄与としては療養看護、労務の提供があたりますが、自らの財産を出資して、被相続人の財産の増加に寄与した者は除かれます(この点は寄与分の制度とは異なります)。
4.特別寄与料
特別寄与料は、相続開始時の財産の額から遺贈の額を引いた額を超えることはできません。
どういうことかと言うと、たとえば遺産総額が1000万円で、その内600万円をある者に遺贈する遺言書があるとすると、特別寄与料は400万円を超えて設定することはできません。
これは、遺言書がある場合は被相続人の最終意思である遺言を尊重し、優先させようということです。
特別寄与料をいくらにするかの合意形成は決して簡単なものではありません。
たとえば、長年療養看護をしたことによって、施設に入所しなくて済んだ結果、その分、財産の減少を抑えられた場合のその金額が考えられます。
それらの事情を総合的に考慮して金額を決めていくことになります。
なお、不動産などを請求することはできません。金銭のみ請求が認められます。
受け取った特別寄与料はみなし相続財産として、相続税の対象になります(相続人からの贈与として、贈与税が課税されるわけではありません)。
5.特別寄与料の請求先
特別寄与料の請求先は相続人です。
相続人が数人いる場合は、各相続人は特別寄与料に法定相続分を乗じた額を負担します。
寄与料について、まずは協議により決定します。
協議が整わない場合またはすることができない場合は家庭裁判所の調停、審判にゆだねられます。(裁判所ホームページ)
特別な寄与といえるためには貢献の程度がある一定程度を超えていることが必要ですので、日ごろから介護日誌などをつけておくと協議や審判での証拠資料や金額の判断材料となりますし、相続人との紛争予防にもなります。
6.申立期間制限
協議が整わないときや協議ができないときに、家庭裁判所に協議に代わる処分を求めることができますが、以下の期間制限があります。
①特別寄与者が相続開始および相続人を知った時から6か月を経過したとき
または
②相続開始の時から1年を経過したとき
は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求できなくなります。最長でも1年で請求できなくなるのです。
これは、あまりにも長い期間請求することができるとすると、他の相続人がいつまでも請求に備えなければならず、法律関係の早期安定を図れないためです。
7.まとめ
この制度は2019年7月1日から施行されています(それ以前に開始した相続には適用がありません)。
高齢社会のなか、親族による介護、看護の場面、必要性がますます増えていくのではないでしょうか。この度の相続法改正によって、この特別寄与料の制度が今後多く利用されていくかもしれません。
ただ、従来からある寄与分は寄与があることをなかなか認定されない傾向があり、寄与が認定されても納得のいく額ではないというのが一般的でした。同じく家庭裁判所でこの寄与料が争われることになった場合、寄与分と同様なかなか認められない可能性もあります。