1.離婚による財産分与
「離婚」は現代においてまったく珍しいことではありません。
3組に1組は離婚しているのが現状です。
そして、離婚に際して財産分与がされることがあります。
同居していた夫婦も離婚により普通は別居することになりますので、同居していた自宅を財産分与するケースも多いです。
夫名義の自宅を妻に財産分与する場合、「財産分与」を原因として、夫から妻に自宅所有権の名義変更登記を行います。
一方で、たとえば、いままで暮らしていた自宅の名義は夫のままにしておき、財産分与的な意味合いで(ただし、分与契約などは交わしてない)、妻だけが住み続けることもあります。
残った住宅ローンは債務者である夫がそのまま返済していく形となっています。
要は、夫が出ていくだけ、です。
財産分与の内容は当事者の自由な話し合いの元で行われるため、このような取り決めも当然可能です。
しかし、その後に元夫が死亡した場合、元妻は住み慣れた家から出ていかなければならなくなる、かもしれません。
2.住宅ローンは団信で完済
通常、融資の条件として、団体信用生命保険(団信)に加入します。銀行借り入れであれば基本的に加入が融資条件となります。
では、自宅には元妻がそのまま居住しているなか、出ていった元夫が亡くなったら。
団信に加入していれば、債務者である元夫が死亡すると住宅ローンは保険金から全額返済されます。
詳しくは<自宅を相続したら残った住宅ローンはどうなる?団体信用生命保険とは?>
したがって、基本的には「住宅ローンの未払いを原因として、抵当権が実行されて強制的に自宅を出ていかなければならなくなる」といった事態にはなりません。
元妻が路頭に迷う、といったことにはならないでしょう。
そうはいっても、元夫の死亡後、元妻はこのまま以前と同じように自宅に住み続けることができるのでしょうか。出ていかなければならない事態にはならないのでしょうか。
3.元妻は相続人ではない
元妻は離婚しているため、元夫の相続人ではありません。
ここで、問題が出てくる可能性があります。
相続人ではないのに、そのまま家に住めるのかどうかです。
この場合、元夫の相続人がだれかによって、自宅に住めるかどうかが決まるといっても過言ではありません。
4.元夫との間に子がいる場合
元夫との間に子がいる場合は、その子が元夫の第1順位の相続人となります。
したがって、自宅を子名義にして、元妻もそのまま住み続けることができるでしょう。
その子が未成年者であれば、親権者である元妻が子を代理して相続登記を申請するか、司法書士に登記を委任します。
5.元夫との間に子がいない場合
では、元夫との間に子がいない場合。
元夫の相続人は相続権第2順位の両親となります。両親が既に死亡していれば相続権第3順位の兄弟姉妹となります。
そのまま以前と変わらず元妻が住むことができればよいですが、たとえば、相続人である両親(または兄弟姉妹)がその自宅を売却するとなった場合、元妻には何らの対抗手段はありません。
退去を求められれば、おとなしく退去しなければなりません。
6.元夫に後妻がいる場合
元夫が再婚している場合は、元夫との間に子がいても、子だけで相続できません。後妻も相続人になります。
そのため、遺産分割協議はその後妻と子とで行う必要があります。
これだけでも一筋縄ではいかないでしょうが、子が未成年者だともめる可能性が高くなります。
なぜなら、相続人である子は未成年者なので遺産分割協議を有効にできません。
その場合は子の親権者である元妻と、後妻との2人での分割協議となります。
金銭面での争いは最終的には解決、決着しやすいですが、このケースでは感情的な対立が生じるおそれがあります。
協議で合意できないようなら遺産分割調停も選択肢に入れることです。ただし、解決までには1年以上かかる場合もあります。
7.そのまま住むには
元妻が自宅にそのまま住み続けるには。
元夫との間に子がいない場合は、自宅を相続した元夫の相続人との話し合いになります。
まず検討すべきは元夫の相続人と元妻で賃貸借契約を結び、賃料を毎月払う方法です。
また、元夫の相続人が自宅を売却するとなった場合に、元妻自らで自宅を買い取る方法も考えられますが、当然ながら多額の購入資金が必要です。
8.まとめ
離婚によって、
①夫は自宅を出ていく
②自宅の名義は夫のままで、そのまま妻が住み続ける
③ただ債務者は夫なのでそのまま慰謝料的な意味合いで住宅ローンを払い続ける
といったケースは珍しくありません。
「住宅ローンを支払ってくれるのであれば名義は別にいらない」
「そのまま住めれば問題ない」
と安易に考えた結果、将来的に退去を求められることもあり得ます。
離婚後、元夫が死亡したあとのことも考える必要があるのです。
元夫の相続人がだれになるのか、その相続人との関係性など考慮に入れておかなければなりませんが、不測の事態に備える意味でも登記名義は移しておくべきでしょう。
ただし、住宅ローンの関係で名義変更が難しいケースがありますが、そのあたりは専門家に相談することをオススメします。。