利息を引き直したら?相続人からの過払い金返還請求

相談事例

亡くなった父が生前、どうも消費者金融からお金を借りていたようです。

実際いくら借金があるか詳細は分からないのですが、少なくとも20年間は、借りては返すということを繰り返していたようです。

長期間取引をしていたようなので、多額の借金を負っていたのではないかと思い、家庭裁判所に相続放棄の申立てを考えています。

1.過払い金とは

相談事例のように「うちの親は生前、長期間にわたって消費者金融にお金を借りていた」という理由で、相続放棄を検討される方がいます。

しかし、相続放棄をする前にまず確かめることがあります。

それは、過払い金が発生しているかどうかです。

長期にわたって消費者金融、信販会社などと取引を行っていた場合に過払い金の問題が出てきます。

つまり、利息制限法という法律があるのですが、その法律に定められた上限利率を超えた利率をもとに返済が行われている場合。

法律上の利率によれば実際にはすでに完済しているにもかかわらず、利息制限法の利率を超える利率を支払っていたがために、実際は完済しているのにさらに返済金、という名目で支払っていたお金のことです。

要は、「払う必要がなかったのに、払ってしまっていたお金」です。

そんなことがあるのかと思われるかもしれませんが、そのようなことが実際に起きていました。

2.過払い金も相続される

過払い金が発生している場合、過払い金返還請求権、という権利が発生します。

たとえば、100万円を余分に支払っていた場合、その100万円を返還してくれ、という権利です。

過払い金返還請求権は相続人に相続されます。

被相続人が生前、消費者金融に100万円を払い過ぎていたのであれば、その100万円を請求できる権利を相続人は相続します。

したがって、相談事例のようなケース、特に長期間にわたり取引をしていたのであれば、過払い金が発生している可能性が高いです。

そして、その過払い金は相続される。

被相続人が消費者金融と取引があったとしても、すぐに相続放棄を考えるのではなく、まずは過払い金が発生しているかどうかの調査をすることです。

3.過払い金の調査方法

過払い金があるかどうかは、まずは取引相手である消費者金融などに、取引履歴(取引の明細)の開示請求を行います。

取引履歴には、基本的に、被相続人がいつ、いくらお金を借りて、いつ、いくらお金を返していったか、その金利はいくらかなどが詳細に記載、記録されています(ただし、古いデータは破棄されている場合もあります)。

取引履歴の開示請求に必要な書類は基本的には以下のものです。

①被相続人の死亡の記載ある戸籍謄本

②請求する者が相続人であることを証明する戸籍謄本

③請求する相続人の本人確認資料(運転免許証など)

④申込書

相手先が分からなければ、郵送物や通帳の履歴の確認、ATMの振込票など探してみることです。

また、信用情報機関に照会をかける方法もあります。

 

詳しくは<被相続人の借金を調べる方法は?>

 

取引履歴は、だいたい1か月前後で郵送で届きます。

4.引き直し計算

届いた取引履歴を、利息制限法の利率に引き直して再計算します。

利息制限法の上限利率は借入金額によって変わります。

具体的には以下のとおりです。

・10万円未満・・・年20%

・10万円以上100万円未満・・・年18%

・100万円以上・・・年15%

この利率を超えた利率が契約で設定されている場合は(貸主、借主の両者が納得したうえで設定されていても)、超える部分は無効となり、当然に利息制限法の利率にしたがって引き直されます。

5.過払い金が発生していた場合

引き直し計算の結果、実際は払い過ぎていた、ということであれば、過払い金が発生しています。

相続人はその過払い金を相続し、過払い金の返還請求をすることができます。

その場合の流れは以下のようになります。

(1)消費者金融への請求

請求の方法は基本的に3パターンあります。

①相続人各人が、法定相続分を個別に請求する

実務上あまりみられませんが、自分の法定相続分だけを請求する場合です。

②相続人全員で請求する

相続人全員で請求します。この場合、専門家に依頼するのであれば、相続人全員の委任状が必要になります。

③特定の相続人が請求する

遺産分割協議の結果、特定の相続人が過払い金返還請求権を相続した場合、その者だけで請求することになります。

この場合、過払い金を相続したことを証明するため、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書が必要になります。

(2)交渉

返還交渉を行います。

交渉自体は相続人でもできますが、専門家以外が交渉にあたる場合、相手方がこちらの要求を聞き入れることは極めて少ないです。

(3)和解(または裁判)

お互いに合意にいたれば、和解をし、和解契約書を取り交わします。

基本的に交渉だけで満額返還してくれることはありません。なかに過払い金の1割までしか払えない、と言ってくる会社もあります。

金額に納得がいかないのであれば、裁判手続きを取ることになります。

過払い金が140万円以内(過払い利息は除く)であれば、簡易裁判所に訴状を提出することができます。

6.過払い金の請求に必要な書類は

相続人が相手方に過払い金を請求する場合、基本的に以下の書類が必要になってきます(なお、消費者金融によっては必要となる書類が異なる場合もありますので、事前確認は必須です)。

◆被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

◆相続人全員の戸籍謄本

◆遺産分割協議書

相続人全員で請求する場合は不要です。

◆相続人全員の印鑑証明書

相続人全員で請求する場合は不要です。

◆司法書士などに委任する場合は、委任状

7.過払い金返還請求権は10年で消滅する

過払い金を請求できる権利は、最終取引日から10年を経過すると、時効により消滅します。

つまり、被相続人がすでに完済して、しかも過払い金が発生していても、最後に返済した日からすでに10年以上が経過していれば、その請求権は時効により消滅しているため、もはや請求できません。

ここで、1つ注意点があります。

債権法が改正され、2020年4月1日に施行されました。

この改正債権法により、過払い金が発生していたけど完済が施行日以降の場合、過払い金の返還請求ができることを知った時から5年で時効により消滅してしまいます。

ただし、2020年4月1日の施行日後でも、過払い金が発生していることを知らない場合には、過払い金が発生している時から10年で時効により消滅します。

8.過払い金が発生していない場合

一方、引き直しても過払い金が発生しておらず、債務がいまだ残っている場合は、他のプラスの財産と比較してみます。

それでもマイナスとなっていれば、相続放棄を検討すべきかもしれません。

9.過払い金返還請求は法定単純承認にあたる

相続人からの過払い金の返還請求は、法定単純承認にあたります。

被相続人から相続した権利を行使したということは、相続を全面的に承認したことになりますので、以後(相続開始から3か月内であっても)、相続放棄ができなくなります。

したがって、過払い金の返還請求は、前提として被相続人のすべての財産の調査を綿密に行い、マイナスの財産がないこと(相続放棄しなくてもよいこと)が確実に分かったうえで行うことが重要になってきます。

10.まとめ

被相続人が借金を残して死亡したとしても、まずは本当に借金があるのかどうか、過払い金が発生していないかを調査、確認することです。

一昔前は、利息制限法の利率を超える利率でお金が貸し出されていました。それが普通でした。

「親には本当に借金があったのか?」

「実は過払い金が発生しているのではないか?」

少しでもそう思ったのであれば、まずは取引の調査、履歴の開示などを行うことです。

取引履歴の請求のための書類集めや、履歴の請求、引き直し計算などは面倒で手間がかかるため、専門家に相談することをオススメします。

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