相談事例
私は、数年前に知人から多額のお金を借りたのですが、その際に、担保として私の自宅不動産を抵当に入れて欲しいといわれ、自宅に抵当権設定の登記をしました。
この度、自宅を売却したいと思い、不動産業者の方に相談にいったところ、抵当権がついているため売却にあたり抹消する必要がある、と言われました。
自宅不動産を早く売却したい事情があるので、残りの借金を一括で返済し、その抵当権を抹消してほしい旨を知人に伝えるため連絡したところ、先月亡くなったということでした。
この場合、抵当権を抹消するにはどうしたらよいでしょうか。
もう抹消することはできないのでしょうか。
このままでは、自宅を売るに売れません。
1.抵当権とは
お金を他人に貸した場合、何かしらの担保を取ることが通常です。
基本的には、保証人を立ててもらうか、不動産に抵当権を設定するか、に分かれます。
まず、「保証人」はイメージしやすいのではないでしょうか。
保証人になった人は、借りた本人(主債務者)が返済しない場合、その借金を代わりに払わなければなりません。
借金を肩代わりするのです。
もう1つ担保として代表的なものとして「抵当権」があります。
抵当権を設定する契約により成立しますが、契約が成立しただけでは当事者以外の第三者に抵当権を主張し、対抗できないため、設定契約とともに「抵当権設定登記」をあわせて行います。
この抵当権の登記をしていれば、将来、借主からの返済が滞った、返済をしてくれなくなった場合、後述のとおり裁判を経ないで、その担保の対象となっている不動産を競売にかけ(もしくは任意売却)、その競落(売却)代金から貸金を回収することができます。
これが、「不動産を担保に取る」と一般的にいわれている抵当権の効果です。
2.抵当権の設定登記をしておけば
仮に、抵当権を設定しないで(担保を取らないで)お金を貸していたとします。
借主が返済してくれないとなった場合、何も担保を取っていない貸主は、まずは裁判を起こし、裁判所で自らの権利を認めてもらう判決を得なければなりません。
お金を貸しているのなら、「〇〇は◇◇にいくら貸している」ということを裁判上認めてもらうのです。
しかし、裁判は手間と時間を使います。すぐに執行したくてもできません。
そこで、借主の不動産に抵当権の設定登記をしておくのです。
そうすれば、わざわざ裁判をすることなく、いきなり不動産に対して執行(競売にかける)をすることができます(担保権実行による競売といいます)。
そして、不動産を競売にかけ、その売却代金から貸金を回収します。
これが抵当権をはじめとした担保権の中心的機能、役割です。
なお、これはあくまで一般論であって、通常は、返済が滞ったからといって直ちに競売にかけられることはありません。
債権者としては裁判所による競売ではなく、まずは任意売却(競売によらず、通常の取引で不動産を第三者に売却すること)を考えます。
裁判所を介する競売より任意売却の方が、売却代金が高くなるのが通常で、時間もかからないため債権者にとってはできるだけ任意売却に持っていきたいのです。
3.抵当権も相続される
担保(担保にはいろいろ種類がありますが、抵当権とします)を取っている債権者(抵当権者ともいいます)が死亡すると、借主に貸していた貸金債権は当然に相続人に相続されますが、その抵当権も相続人が相続します。
抵当権が、貸金債権にくっついていくイメージです。
4.相続人に協力をお願いする
相談事例では、まず、債権者(抵当権者)の相続人を探す必要があります。
相続人を探し出し、事情を説明し、抵当権の抹消の協力をお願いするのです。
お願いする方法としては、手紙で伝えることが一番適していますが、相続人の方としてはいきなり赤の他人から手紙がきて、「お金を返すから抵当権を抹消して欲しい」と言われても、何が何だか分からないでしょう。
詐欺か何かか、と怪しまれこちらからの連絡が一切無視されるおそれもあります。
そうなってしまうと、ムダに時間を空費しますし、特に売却の予定があれば、適切な時期での売却は期待できません。
そのため、基本的にこのようなケースでは相続、登記の専門家である司法書士を介して抵当権の相続人に事情を説明した方がスムーズにいきます。
5.返済
相続人が判明し、連絡が取れ、協力してくれる、ということであれば、まず相続人に債務の返済をします(なお、協力してくれないということであれば、相続人を相手取って裁判を起こすことになります)。
残債務の返済により、貸金債権は消滅し、一緒に抵当権も消滅します。
しかし、返済しただけでは抵当権の登記は抹消されません。自動的に、勝手に抹消登記はされないのです。
登記を「申請」しなければなりませんが、それには以下のように2段階の手続きを踏む必要があります。
6.抵当権の相続による移転登記
まず第1段階ですが、相続を原因とする抵当権の移転登記です。
いきなり抵当権の抹消登記はできません。時系列に沿った事実を登記簿に記載する必要があるからです。
事例では、借金を完済する前に貸主が死亡し、相続人が抵当権を相続しています。
つまり、抵当権が消える前に相続されているため、抹消登記の前提として相続による抵当権の移転登記が必須になるのです。
この移転登記は、所有権の相続登記と同様に抵当権の相続人の単独申請で行うことができます。
必要な書類は以下のとおりです。
①被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
②相続人の戸籍謄本
③遺産分割協議書
④相続人全員の印鑑証明書
③④は、法定相続分で相続するのであれば、不要です。
また、登録免許税がかかります。
登記されている債権額の1000分の1です。
たとえば、債権額1000万円の抵当権が設定されていれば、登録免許税は1万円です。
7.抵当権の抹消登記
相続による抵当権の移転登記が済んだら、次は第2段階として、本命の抵当権の抹消登記をします。
登記簿に「①抵当権が相続により移転し②そして返済により抹消された」ということを公示するのです。
この抹消登記の申請は、不動産の所有者と抵当権者の共同申請で行います。
したがって、今回、抵当権を相続した相続人と、相談者との共同で、法務局に申請することになります。
必要な書類は以下のとおりです。
①登記原因証明情報
抵当権解除証書など、抵当権が抹消したことを証明する書類です。
②登記識別情報
相続による抵当権移転登記をした後に発行されます。
移転登記と抹消登記を連件で申請する場合は、登記識別情報は提供されたとみなされるため、別途、不要です。
しかし、相続による移転登記の申請と抹消登記の申請が連件ではなければ(申請した順番が連続していない)、提供が必要になります。
また、ここでも登録免許税がかかります。
不動産1つについて1000円です。
たとえば、土地1筆、建物1棟に抵当権が設定されていれば、2000円です。
8.完済後に相続が発生した場合は
事例とはことなりますが、借金を完済した後に、抵当権を抹消しないまま貸主(抵当権者)が死亡した場合は、抵当権の相続による移転登記は不要となり、いきなり抵当権抹消登記の申請が可能となります。
貸主が死亡した時点ではすでに抵当権は消滅しており、したがって相続人に移転することはないためです。
9.まとめ
不動産を売ろうとしたが、その不動産に抵当権が登記されていると、基本的にそのままでは売れません。
売却と同時(同日)に、もしくは売却前に抵当権登記の抹消をしなければなりません。
抹消しないと、抵当権付きの所有権が買主にいってしまうからです。
その抵当権を抹消しようとしたところ、抵当権者が死亡しているのであれば、手続きの手間が格段に増えてしまいます。
場合によっては裁判になる可能性もあります。
ただ、避けては通れない問題です。
相続人を探したり、事情を説明したりするだけでかなりの時間を使う可能性があるため、まずは専門家に相談することをオススメします。
ぜひまごころ相談プラザへご相談ください。