
相談事例
父が亡くなり、相続人は長男の私と次男の2人です。
父は生前、賃貸業を営んでおり、賃料収入が毎月100万円ほど上がっているのですが、遺産分割はまだ終わっていない状態です。
遺産分割が終わるまで、とりあえずは私の口座に賃料を入金してもらっているのですが、後の遺産分割で次男がアパートを単独で相続することになった場合、遺産分割が成立するまでの賃料をすべて返す必要があるのでしょうか。
遺産分割成立までに発生した賃料はすべて次男のものになってしまうのでしょうか。
1.遺産分割までの賃料は法定相続分で
被相続人が生前、アパート経営や貸駐車場を営んでいた場合、その死後、それらの賃料収入はどうなるか、相続開始後から遺産分割が成立するまでの間の賃料収入はだれのものか、という問題があります。
相談事例は、まさにそのケースでしょう。
このような場合、最高裁は、以下のような判断をしています。
●相続開始から遺産分割までに生じた賃料債権は、遺産とは別個の財産であり
そして
●各相続人が法定相続分の割合で分割で取得し、後にされる遺産分割の影響は受けない
つまり、賃料を各相続人が法定相続分で取得し、後の遺産分割で、特定の相続人が賃貸物件を取得することになっても、相続開始までさかのぼって物件取得者が全ての賃料を取得できない、ということです。
したがって、相談事例の長男は、遺産分割までに生じた賃料について、自分の法定相続分2分の1については有効に取得できるので、のちに次男が賃貸物件を相続したとしても、賃料全額を返す必要はありません。
2.遺産分割「後」の賃料
なお、当然ながら遺産分割後の賃料は、新オーナーである次男が単独で取得します。
遺産分割で所有者が次男に確定した後に、長男が賃料を取得したのであれば、長男は遺産分割後の賃料を返還する義務があります。
次男は、賃貸物件と同時に「賃貸借契約上の地位」を相続するため、賃借人に通知しておくなどの対応も必要になってきます。
詳しくは<賃貸アパートを相続したらどうする?手続きの流れを解説>
また、賃借人との関係を明確にするためにも、賃料請求の前に(もしくは賃料請求後であっても速やかに)賃貸物件の相続登記を済ませておくことです。
3.まとめ
賃料の相続について、解説しました。
まとめると、以下のようになります。
◆相続開始前の賃料は被相続人が取得
◆相続開始後、遺産分割成立までの賃料は各相続人が法定相続分で取得
◆遺産分割成立後の賃料は相続することになった相続人が単独で取得
したがって、遺産分割で賃貸物件を相続することになった相続人に対して、他の相続人は遺産分割が成立するまでに受け取った賃料を返す必要はありません。
賃料全額を請求された場合は、法律上および判例上も返還する義務がないことを明確に主張することが重要です。