
1.生活費は特別受益?
何が特別受益にあたるのか、個々の判断に迷うケースがあります。
特別受益としてわかり易いのは、「海外留学の費用を出してもらった」「家の建築資金を出してもらった」などありますが、では、「普段の生活費」はどうでしょうか。
たとえば、親と同居していた子が、その生活費を親に負担してもらっているとします。
特に、近年は中高年の引きこもりが珍しくはないため、生活費の面倒をみてもらっていることもあるでしょう。
そのようななかで、親が亡くなった場合に、親の遺産分割を行うにあたって他の相続人から、
「おまえは親の元で生活していて、生活費をずっと出してもらっていた。その生活費は特別受益にあたるため相続する持分はない」
と主張されるケースがあります。
生活費を出してもらっていた子としては、当然すんなりとは納得できない。
そのため、話し合いで解決ができないとなると家庭裁判所での「遺産分割調停」に進むわけですが、調停や審判において他の相続人からの、
「受け取っていた生活費は特別受益にあたる。したがって、相続分も調整されるべき」
といった主張が認められることは実際のところそう多くはありません。
なぜなら、通常、同居している子の生活費程度であれば、民法上の扶養義務の範囲内といえるからです。
それは、たとえ扶養されている相続人が成人であっても、その子が扶養を必要とする状態であれば、親は扶養義務を負います。
2.扶養義務の範囲内を超える場合は?
もっとも、たとえ生活費にあたるとしても、その額が扶養義務の範囲内を超えるものであれば、特別受益とされ、相続分から調整される(特別受益者の取り分が減る)ケースもあります。
では、「いくら位であれば扶養義務の範囲内を超える金額といえるか」ですが、家族構成、被相続人の収入や資産状況その他の事情により判断されるため、「コレ」といった基準額を設けることは困難です。
ただ、各事情に照らした結果、扶養義務の限度を超えて生活費の援助を受けていた場合は、生活費とは名ばかりの特別受益と認定されることもあります。
3.持ち戻しの免除の意思表示がある場合
生活費が特別受益にあたるとしても、被相続人の持ち戻し免除の意思表示(明示されている必要はなく、黙示による場合も含みます)がある場合は、特別受益として相続分が調整されることはありません。
持ち戻しの免除やその方法について詳しくは<特別受益の持ち戻し免除をする方法は?遺言書、贈与契約書の記載例>
なお、持ち戻しを免除したとしても、遺留分算定のための基礎財産には特別受益分は加算されます。詳しくは<特別受益の持ち戻し免除をすれば遺留分を減らせるか?>
4.まとめ
夫婦や直系血族、兄弟姉妹は相互に扶養義務を負っています。
たとえ、子が成人しており親から生活費を長期間受け取っている場合であっても、それが扶養義務の範囲内である限り、基本的に特別受益にはあたりません。
ただ、生活費という形であっても毎月一定額(10万円以上)を受け取っていたケースで、特別受益にあたるとされた審判例もあります。
では、一律に10万円以上なら特別受益かというと当然ながらそうとも限りません。被相続人の収入や生活状況、家族構成などは個々で異なるため、画一的な基準額を設けることは難しいのです。
特別受益にあたるもの、あたらないものの判断は困難を伴う場合が多いため、専門家に相談することをオススメします。