1.特別受益の持ち戻し免除
相続人が、被相続人の生前に生計の資本などのために金銭や不動産などの贈与を受けていることを「特別受益」といいます。
この特別受益。
共同相続人の中に、特別受益を受けていた相続人がいる場合に、特別受益についてまったく考慮しないで法定相続分にしたがって遺産を取得することになると、当然、相続人間で不公平が生じます。
他の相続人としては「◆◆は生前、父親から1000万円を贈与されたのに、遺産の取り分が同じなのは納得いかない」となるでしょう。
その不公平を是正する制度として、相続分を調整する「特別受益の持ち戻し」があります。
持ち戻されると、実際の相続の場面において、各相続人の相続分が調整され、相続人間の公平が図られます。
しかし、被相続人が特別受益を与えた相続人にどうしても多く遺産を取得して欲しい、と希望することもあるでしょう。
特に、残された(高齢の)配偶者に対してそういう想いは強いのではないでしょうか。
ではどうするか、ですが、被相続人としては「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示をしておけば問題ありません。
この持ち戻し免除の意思表示をしておけば、持ち戻しを考慮しないで、つまり贈与(遺贈)はなかったものとして相続財産の取り分を計算することができます。
仮に、持ち戻し免除の意思表示をしていなければ。
被相続人としては、せっかく贈与したのに、いざ相続となったらその贈与分が考慮されて各相続人の相続分が調整されてしまう。
それでは贈与した意味がないではないか・・・。
被相続人としては不本意でしょう。
そのようなことにならないよう、持ち戻し免除の意思表示をしておくことをオススメします。
2.持ち戻しの免除をしても遺留分の算定には加算する
なお、持ち戻しの免除により贈与(遺贈)がなかったものとして相続分を計算するとしても、遺留分の話しは別問題です。
たとえ持ち戻しを免除したとしても、遺留分の基礎財産の算定に際しては特別受益としての贈与(原則、相続開始前10年内にされた贈与)も加えます。
そうしないと、恣意的に持ち戻しを免除さえしてしまえば、結果的に他の相続人の遺留分を奪うこともできてしまうからです。
詳しくは<特別受益の持ち戻し免除をすれば遺留分を減らせるか?>
3.持ち戻し免除の意思表示の方法は?
この持ち戻し免除の意思表示ですが、その方法は特に決まっていませんので、口頭で行っても法律上は有効です。
ただ、それでは何も証拠が残りません。
特別受益を受けた相続人としては「持ち戻しを免除された」と主張し、他方でその他の相続人は「いや、免除されていない」となり、相続人間のトラブルになることが火を見るよりも明らかです。
そのような争いを回避、防止するためにも持ち戻しの免除の意思表示は必ず書面でしておくことです。
持ち戻し免除の旨を贈与契約書に盛り込んでおくか、遺言書に書いておけば問題ありません。
贈与契約書に記載する場合
贈与契約書に書いておくのであれば、以下のように記載します。
第●条「甲は、当該贈与による特別受益の持ち戻しについては、免除する。よって、遺産の算定にあたっては、当該贈与がなかったものとして算定する。」
遺言書に記載する場合
遺言書で持ち戻しを免除することもできるので、その場合、遺言書には以下のように記載します。
第●条「遺言者は、遺言者の妻◆◆(昭和●年●月●日生)に対し令和〇年〇月〇日に金1000万円を贈与したが、当該贈与による特別受益の持ち戻しについては、免除する。よって、当該贈与金額は相続財産に加えないものとする。」
4.まとめ
「長年助けてくれた〇〇には多く財産を残したいため生前贈与した」
配偶者なり、子なり、特定の相続人に対して贈与をした際にはあわせて持ち戻し免除の意思表示もしておきましょう。
相続財産の算定にあたり、贈与(遺贈)がなかったものとして扱う「持ち戻しの免除」ですが、その免除の意思表示は必ず書面で行うことです。
その記載例ですが、前述の要領で書いておけば問題はありません。
将来の争続にしないためにも、生前から対策を取っておく必要があるでしょう。
ただし、持ち戻しの免除をしたとしても、遺留分の基礎財産算定にあたり特別受益としての贈与は基礎財産に加える必要があります。
たとえ持ち戻しの免除をしたとしても、遺留分、という権利を害することはできません。
早めの遺留分対策が重要になるので、その方法や詳細などは専門家に相談することをオススメします。