相談事例
私はいままで妻と離婚に向けた話し合いを行ってきましたが、お互いの主張、言い分がまとまらず、家庭裁判所での離婚調停も成立しませんでした。
別居期間もすでに10年以上経っており、事実上の離婚状態です。
そのような中でも、離婚が成立していない以上、妻には私を相続する権利があるとは思いますが、私の財産を相続させない方法はありますか。
法律上、配偶者が法定相続人であることは分かっているのですが、実際は離婚状態なのに、役所に離婚届を出していないだけで相続されてしまうのは納得できません。
なお、私の財産としては、自宅不動産とわずかな預貯金に、私が保険契約者兼被保険者、受取人も私となっている死亡生命保険(保険金1500万円)です。
1.配偶者は常に相続人
配偶者は常に相続人となります。
子と配偶者居、子がいなければ親と配偶者、親が亡くなっていれば兄弟姉妹と配偶者、が相続人となります。
配偶者が相続するためには「戸籍上」の配偶者であることが必要であるため、何十年と連れ添っていても内縁配偶者には相続権は認められません。
相談事例のように、事実上の離婚状態であったとしても、法律上、婚姻関係を継続しているのであれば(相続欠格、相続人廃除など特殊な事情がない限り)、仮に何十年と別居している関係であったとしても配偶者は相続人として相続することになります。
ちなみに、配偶者だけを相続人にしようと思い、子全員が相続放棄をしたとしても、配偶者は次順位の相続人と共に相続することになります。
詳しくは<子がいないと配偶者が全部相続する?相続人の勘違い>
2.配偶者に相続させたくない場合は
何十年も別居した事実上の離婚状態であるにもかかわらず自分の財産が相続される。
夫としては納得できないでしょう。
相談事例のように「自分の財産を相続させたくない」といった感情が出てくるのも当然かもしれません。
その場合は、遺言を残しておくことです。
ただ、遺言を残すにしても判断能力は当然必要になってくるので、「いつか書く」ではなく、「書けるときに書いておく」ことです。
いつでも書けると思って書かないでいたところ、認知症などで判断能力を失い、遺言書を残せなかった、という話は珍しくありません。
また、判断能力が不十分な状態で書いた場合、その遺言の有効性を巡って争いになるおそれがあります。
そのため、早めに対応することをオススメします。
遅い行動にメリットはありませんが、早く行動することにメリットこそあれデメリットは何もありません。
3.遺留分の問題は残る
もっとも、正常な判断能力に基づいて万全に遺言書を残しておいたとしても、遺留分の問題はあります。
特に、夫婦が離婚をしない(したくない)動機の1つとして、配偶者の相続権を失いたくないという点があげられますので、配偶者の遺留分については何かしらの対策を取っておく必要があります。
遺留分対策を何も取らないと、将来トラブルになる可能性が高いです。
4.対策としては死亡生命保険
対策の1つとしては相続する相続人を受取人とする死亡生命保険を組んでおくことをオススメします。
将来、遺留分侵害額請求された場合に、遺留分の請求を受けた方としてはその死亡保険金を活用することができます。
なお、くれぐれも遺言によって遺留分を侵害される者(配偶者)を受取人とはしないことです。
相談事例においては、死亡保険金を組んでいるということですが、受取人が夫であるため、財産を相続する人(受遺者)に受取人を変更しておく必要があります。
受遺者は、その生命保険金を、いざ遺留分を請求されたときに使うことができるからです。
相談事例のケースであれば、保険金は1500万円あるということなので、不動産やほかの財産の評価にもよりますが、それだけの金額があれば遺留分侵害額請求に対応可能だと思われます。
もっとも、遺留分の算定の基礎となる相続時の遺産額は「相続開始時の評価」を基準とするため、また、特別受益の問題や控除可能な債務にも影響されるため、具体的な遺留分侵害額は相続開始時までは不確定といえます。
なお、遺留分侵害額請求に対しては原則、金銭で解決することになりました。
詳しくは<お金で解決?遺留分減殺請求との違いは?遺留分侵害額請求権>
5.まとめ
法律上の配偶者(戸籍に載っている)である限り、その者は常に相続権を有することになります。
何ら対策を講じないで、「別居中の夫(妻)にはなにも相続させたくない」は認められません。
そこで、遺言書を残しておく、ということになりますが、当然ながら遺留分の問題もありますので、何らかの対策は必須です。
有効な対策方法としては生命保険があげられるので、できることであれば将来の遺留分侵害額請求に備えて、生命保険を利用することをオススメします。