名義変更など相続手続きのために被相続人の財産を調査していたところ、たまに「未登記の建物」に出くわすことがあります。
以下では、その未登記建物の遺産分割協議書の書き方や、対処法について解説していきます。
1.未登記建物とは
まず、未登記建物とは文字どおり登記がされていない建物のことです。
本来であれば「表題登記」といって、その建物の構造や床面積など物理的な情報を公示するために、建物を建てると法務局に登記申請する必要があります。
これは義務となっています。
しかし、何らかの理由で、登記申請されず、そのまま長期間経過し、相続などを機に未登記であることが判明するケースがあるのです。
この未登記建物は日本中に存在し、たとえ未登記であっても建物そのものは現存しているケースもある一方で、すでに取り壊されて存在しないケースもあります。
2.未登記であっても固定資産税はかかっている
毎年4月から5月ごろ届く、固定資産税納税通知書・課税明細書には建物が未登記であったとしても、ちゃんと課税対象になっていると思います。
勘違いしやすいところですが、未登記であっても、しっかり課税はされるのです。
たまに、登記されていないのに課税がされている、とご質問を受けることがありますが登記と課税に関係性はありません。
未登記であっても課税されるものは課税されます。
逆に、課税がされているため売却や相続といった事情がない限り、その建物が未登記であることに気付かない、といったこともあり、結果、未登記状態が続くことにつながります。
建物が未登記がどうかわからない。
そのような場合は、固定資産税納税通知書・課税明細書を見ます。
建物欄の「家屋番号」という欄が空欄になっているかどうかを確認します。
なぜ家屋番号の欄が空欄かどうか、を確認するのかというと、家屋番号とは簡単に言うと登記することによって、その建物を特定するために振り分けられる番号、です。
したがって、そこが空欄となっていればその建物は未登記である、ということです。
また、建物欄にそのままズバリ「未登記」と記載されている場合もあります。
一度、未登記かどうかを固定資産税納税通知書・課税明細書で確認してみるのも良いかもしれません。
3.未登記建物も相続財産
未登記であったとしても、相続財産には変わりないため、遺産分割の対象になります。
その未登記建物に相続人が同居していたのであれば、その同居の相続人がそのまま取得することが自然でしょう(当然、それ以外もあります)。
そのためには同居の相続人が取得する内容の遺産分割協議をすることになります。
遺産分割協議をするなら、遺産分割協議書を作成することになりますが、普通は遺産分割協議書に書く不動産の表示は、登記簿の表示どおりに記載します。
しかし、未登記であるため、登記簿にしたがって書くことができません。
ではどうするか。
この場合、未登記の建物の記載は固定資産税納税通知書・課税明細書や評価証明書の記載を参考にして、遺産分割協議書に書き入れます。
固定資産税納税通知書・課税明細書や評価証明書には、建物の所在、構造、階数、床面積が記載されています。
それをそっくりそのまま、記載するのです。
上述のとおり未登記であるため、登記によって建物ごとに振り分けられる「家屋番号」は書くことができませんが、下記のように所在や床面積を書いておけば、ある程度は建物を特定することができるので、まったく問題ありません。
<未登記建物の遺産分割協議書への記載例>
所在 〇〇〇
家屋番号 未登記
構造 木造かわらぶき2階建て
床面積 1階〇〇㎡ 2階〇〇㎡
(※構造や床面積は固定資産税納税通知書・課税明細書を参考に記載すれば問題ありません)
4.未登記のまま放置しても問題ない?
この未登記建物の対処法ですが、あらたに表題登記を起こして、所有権の登記をすることになりますが、何もしないでそのままにしておくこともあります。
なぜなら、通常、未登記であるということは築数も相当経過していて、あまり価値のないことが予想されます。
わざわざ費用をかけて登記する動機が乏しいのです。
前述のとおり表題登記の申請は法律上は義務とされています。
所有権を取得した後(建物を建てた後)、1か月内に申請しなくてはならない、と定められています。
義務違反は10万円以下の過料に処せられますが、実際に過料に処せられた、といった話は聞いたことがありません。
そのため、極論ですが、現実的には放っておいてもおとがめはありません。
ただし、昨今、空き家問題が取り沙汰され、社会問題化している中、未登記状態が続くことはあまり望ましいことではありません。
手間や余計な費用はかかりますが、取り壊す予定がないのであれば、相続を機に登記をすることを考えても良いかもしれません。
5.登記しないデメリット
未登記のまま放置することは空き家問題を深刻化させますが、何となく身近なことではないため、あまり危機感のようなものは芽生えないかもしれませんし、登記を行う動機付けとしても弱いでしょう。
しかし、以下のような事情がある場合には、未登記である不都合さを実感できます。
◆第三者に売却できない
未登記建物に限りませんが、何らの登記がされていなければ、当然ながら第三者名義にも登記できません
登記できないということは、事実上、売却できません。
売却予定であれば、まずは相続人の登記をする必要があります。
◆その建物を担保に借入できない
銀行からお金を借りる場合、通常は担保を立てます。
しかし、建物が未登記状態であれば、そもそも抵当権の登記自体ができませんので、その建物を担保にすることもできません。
◆所有権を主張できない
登記がされていないということは、その建物の所有権を第三者に主張、対抗できないということです。
6.未登記建物を登記する
以上のようなデメリットもあるため、この際登記しておこうと考えた場合、いざ登記するとなったときには、まず、土地家屋調査士が建物の表題登記を行います。
不動産の物理的現況を公示する表題登記は、土地家屋調査士の専門分野となります。
物理的現況が登記上表示できた次は、その建物がだれの名義であるか(だれが所有権者か)公示することになります。
このときに必要な手続きは所有権保存登記といいます。だれが現在の所有者であるか権利関係を公示します。
これを「権利の登記」といいますが、これは司法書士の専門分野になります。
もちろん、以上の登記申請は専門家に頼まず、手間や時間はかかるかもしれませんが自分で行うこともできます。
7.まとめ
固定資産税納税通知書・課税明細書や名寄帳から相続財産の調査をしている過程で、未登記建物に出くわすことがたまにあります。
未登記であっても遺産には変わりないため、相続・遺産分割の対象となります。
前述のとおり、空き家問題が深刻化している中においては、未登記のまま放置することはあまり好ましくありませんので、取り壊しなり、登記なりの対応が必要になってくるでしょう。