相談事例
相続した自宅不動産を売却するため仲介業者さんに売却の依頼をしたところ、担当者から
「道路持分の所有者が故人のままなので、この道路持分についても相続登記を済ませていないと自宅不動産を売却できない」
と指摘されました。
住んでいた土地建物について登記しておけば問題ないかと思ったのですが、どうやら違うようです。
仲介業者さんが言うように、この場合、同じように道路持分についても相続登記をしなければ自宅不動産を売ることができないのでしょうか?
1.登記漏れはまれにある
道路持分のみ相続登記がされていない。
本来ならあってはならないことですが、いわゆる(相続)登記漏れというものです。
この登記漏れですが、相談事例のように相続した不動産を売却する時や相続した不動産を担保にして抵当権をつける際に判明することがあります。
自宅についてだけ相続登記をしておけば問題はない、ということはまったくありません。
仲介業者が言うように私道部分についても登記をしていなければ全体としての処分が困難になります。
なお、私道部分は単独所有の場合もありますし、近隣住民との共有の場合もあります。
2.登記漏れは自分でやると起こりやすい
この登記漏れ、司法書士などの専門家に依頼せずにご自分で登記をされるケースで起こることがあります。
ご自分で登記をされる場合は、あとあとのリスク可能性を考えて後述の点を確認しながら進めることをオススメします。
3.私道部分を登記していないと?
では、私道部分について登記していないとどのような不都合があるのかですが、一番は相談事例のような売却などの処分をする場面です。
故人が住んでいたころから何も問題なく道路を利用できていたからこそ、その辺りに意識がいかないかもしれません。
しかし、買主サイドとしては私道部分抜きで不動産を買うというのは何らかのトラブルに会う可能性も出て来るので、当然不安を抱きます。
つまりは、私道部分抜きで自宅不動産だけを売却することは難しいということです。
相談事例では、まずは道路持分の相続登記を済ませてから自宅不動産を含めて売却手続きを進めることになります。
4.登記漏れを防ぐためには
相続登記をする際に私道部分の有無についても調査することが肝心となりますが、以下、その確認方法をいくつか紹介します。
権利書(登記識別情報通知書)を確認
故人が持っていた不動産の権利書を見れば、相続対象の不動産を確認することができます。
権利書に記載されている土地の中で本地以外の土地があれば私道部分の可能性がありますので、登記簿を取ってみて確認することで登記漏れを防ぐことができます。
名寄帳を確認
権利書が紛失していたり、どこにあるか分からないといった場合は、役所で固定資産税名寄帳を取得して確認してみることです。
名寄帳には故人がその市区町村に所有している不動産の一覧が表示されますので、それにより私道部分についても確認することができます。
ただし、自治体によっては固定資産税が非課税の不動産は表示されないことがあるので要注意です。
共同担保目録で確認
住宅ローンなどの抵当権がついている場合、共同担保目録付きで登記簿を取ることで私道部分を確認できます。
共同担保目録とはその抵当権の担保となっている不動産の一覧のようなものです。
共同担保目録を見れば、担保に入っている不動産がすべて表示されますが、通常は自宅不動産とともに私道部分も担保に取られるので目録を見れば私道部分があるかどうか分かります。
とは言っても、銀行が私道部分があることに気づかなかった場合や担保価値的な判断で、まれに私道部分を担保に取っていないこともあります。
私道部分が担保に入ってなければ当然、共同担保目録にも記載がないということですが、基本的には私道部分も共同担保に入っていると考えて問題ありません。
なお、共同担保になっている抵当権を完済などによりすべて抹消すると、その共同担保目録も抹消されます(下線が引かれる)。
そして、共同担保目録は抹消されてから10年が経過すると保存期間満了により登記簿には載ってこないのでその点、留意しておく必要があります。
売買契約書を確認
故人が不動産を購入したときの売買契約書を確認すれば私道部分も記載されているはずです。
もっとも、売買契約書がどこにあるか分からない、見つけることができない、ということもあります。
また、自宅と私道部分を異なる時期に購入している場合は自宅の売買契約書には当然ながら私道部分は載っていないので要注意です。
購入したときの仲介業者に確認
自宅を購入した時の仲介業者が分かっているのであれば問い合わせてみるのもありです。
当時の担当者は退職などでいないかもしれませんが、顧客簿などから手掛かりがつかめるかもしれません。
5.遺産分割協議をあらためて
私道部分の登記が漏れているのであれば、あらためて私道部分についてだけ遺産分割協議をしなければなりません(取得者は自宅不動産の相続人が自然でしょう)。
そのやり方は最初の遺産分割協議と同じです。
相続人全員の合意のもと、協議書に全員の実印を押し、印鑑証明書を用意する必要があります。
ただし、最初の遺産分割のようにスムーズにいくとは限りません。
時間の経過とともに、
・相続人が亡くなっており、さらに相続人の数が増えた
・相続人の一人が認知症で判断能力を失っている
・所在が不明の相続人がいる
といったことも考えられますので、相続時の不動産調査はしっかりと行っておくことです。。
6.まとめ
「いざ売ろうとしたら私道部分が故人名義のままであった」
いわゆる登記漏れというもので、私道部分抜きで不動産を買うことは将来的なリスクを伴うので、そのままでは通常売れません。
私道自体の価値はあまりないかもしれませが、本地と私道のセットで財産的価値を成します。
私道部分があるかどうか分からないなど、不安が少しでもあるのであれば専門家に相談することをオススメします。