家族信託においては、受託者は委託者から託された財産を信託の目的に沿って、信託契約で定められた内容で信託事務(管理運用など)を行っていきます。
この家族信託制度を利用すれば、従来の方法と比較してもより一層、効果的に、
・相続対策
・認知症対策(資産凍結対策)
・資産(事業)承継策
・不動産(株式)の共有問題解消
を図ることができます。
一方で、家族信託を利用するに際して、そのメリットだけでなく、デメリットも認識しておく必要があります。
メリット、デメリットを見極めて検討しなければなりません。
以下では、その家族信託の主なメリット、デメリットを解説します。
1.家族信託のメリット
①認知症による資産凍結リスクを回避
将来、認知症などで判断能力を欠く状況になり、自宅やアパートなどの不動産、金銭などを管理できなくなったときのために、元気なうちに受託者に財産を託し、管理してもらうことで、資産凍結リスクを回避できます。
認知症になってしまうと、今まで自分で行ってきた財産管理などができなくなります。
たとえば、売却は当然ながら銀行から借入をしてアパートの大規模修繕を行ったり、賃貸契約(更新)をしたりといった様々な法律行為を有効にできなくなります。
預貯金の引き出しなども困難になる。
実際は、身近な家族がキャッシュカードを使って引き出していることもありますが、磁気不良などで使えなくなるとアウトです。
そこで、主要な財産を元気なうちに信託しておけば、それらの資産凍結リスクを回避できます。
②遺言の機能を持たせることができる
信託契約で、信託終了時の信託財産の帰属権利者を定めておくことで、実質、遺言書と同様の機能、効果が期待できます。
一般的に「遺言代用信託」ともいわれています。
ただし、対象の財産は信託した財産に限られるので、その他の財産については従来どおり遺言書を残しておくことをオススメします(家族信託と遺言書の併用は効果的)。
③自らが理想とする資産承継が実現可能
家族信託により、「後継ぎ遺贈」と同様のことができます。
後継ぎ遺贈とは、長男Aに相続させ、A死亡後は次男Bに相続させるといった、取得者・承継者を遺言者が何世代にもわたって決めておく遺言のことです。
しかし、法律上、この後継ぎ遺贈による遺言は規定がなく、無効となる可能性が高いです。
詳しくは<後継ぎ遺贈は有効か?>
そこで、家族信託。
いわゆる、後継ぎ遺贈受益者連続型信託といわれるものです。
信託契約において、受益者(家族信託で利益を受ける人)を当初、第2次、第3次と指定しておくことにより、受益権を順次取得することができ、結果的に後継ぎ遺贈をしたのと同様の機能、効果を得られます。
なお、信託法上、第4次、第5次・・・と永久に指定することはできず、一定の期限が設けられています。
信託終了時には、信託契約に定めることにより信託財産を帰属(取得)させたい人物に帰属させることができます。
資産の承継者を何代先にもわたって、指定できることができます。
詳しくは<自宅を後妻の次は実子に相続させる方法は?後継ぎ遺贈受益者連続信託>
2.家族信託のデメリット
①損益通算ができない
不動産を信託財産とした場合。
その不動産から生じた損失はなかったものとみなされます。
これは、信託財産から赤字が発生しても、信託財産以外の財産との損益通算ができないということです。
たとえば、アパート(Aアパートとします)を信託したとします。
しかし、経済状況、周辺状況などで、部屋が埋まらず、経費だけがかかり、赤字になったとします。
一方で、信託財産にはしていないアパート(Bアパートとします)は黒字になりました。
信託をしていなければ、AアパートとBアパートの損益を通算(合算)して、課税所得を減らすことができますが、家族信託をするとそれができなくなるのです。
たとえば、
Aアパートの赤字が100万円
Bアパートの黒字が200万円
とします。
損益通算ができれば(この場合黒字200万円―赤字100万円)、100万円だけが課税所得となり、所得税を少なくできます。
しかし、Aアパートを信託したことによって今までできていた損益通算ができなくなり、200万円まるまるが利益、課税所得となります。
この損益通算が禁止されるため、収益物件を信託する場合、組成にあたっては注意を要します。
なお、Aアパート、Bアパートともに1つの信託契約で信託した場合、信託財産内部での損益通算は可能です。
②損失の翌年繰り越しができない
信託財産である不動産から損失が発生したとしても、その損失を翌年に繰り越すことができません。
上述①のとおり、信託された不動産所得の損失はなかったものとされるからです。
したがって、アパートなどの収益物件の大規模修繕工事を予定しており、そのアパートを信託財産とするのであれば、あえて信託契約の時期をずらすなどの検討も必要となります。
③税務署に提出する書類が増える
それほどのデメリットでもありませんが、信託財産から3万円以上の収入(賃料など)がある場合は、信託計算書、信託計算書合計表を税務署に提出しなければなりません。
その提出期限は毎年1月31日までなので、日程的に確定申告時期とのズレが生じてしまいます。
自宅など収益を生まない財産を信託した場合には、提出は不要です。
④法律上、税務上に関する取り扱いが確立されていない
家族信託が一般に普及してから、まだ歴史が浅いため、将来、法務的・税務的な取り扱いが変更されるリスクがあります。
信託組成時(契約時)には税務的に問題がなかったとしても、制度変更や判例の蓄積などで将来的に何らかの税負担が生じてしまうこともあり得ます。
最新の法務、税務に対応できるように、場合によっては契約内容を変更する必要が出てくるかもしれません。
3.まとめ
家族信託を利用した際の主なメリット、デメリットを解説しました。
家族信託を利用したことによるメリットがよく喧伝、クローズアップされますが、メリットがあれば、デメリットもあります。
家族信託の組成にあたっては、そのデメリットをちゃんと認識、意識しておくことです。
特に収益物件を信託する場合には税務上検討すべき点が多くあるので、税理士などと相談しながら進めていく必要があります。