遺留分を侵害する遺言は有効?無効?

1.遺留分を侵害する遺言

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の持分で、遺言によっても奪うことはできません。

この遺留分は放棄することができますが、遺留分権利者自らが行う必要があります。

また、相続開始「前」であれば家庭裁判所の許可を得て放棄できます。

 

詳しくは<遺留分の放棄とは?相続放棄との違いは?>

この遺留分。

遺言書を作成する際に、

「相続人の遺留分を考慮していない遺言書を書いても問題はないのか」

「遺留分に反した遺言書は無効となるのか」

とご質問を受けることがありますが、相続人の遺留分を無視、侵害している遺言であっても有効です。

遺留分を侵害しているような遺言であっても、法的にはまったく問題ありません。

ただ、将来的に遺留分侵害請求がされる可能性がある、ということです。

遺留分侵害額請求は、「権利」であるため、請求するもしないも遺留分権利者の自由です(別になにもいらなければ、請求しなければよいだけです)。

2.遺留分権利者に配慮した遺言書の作成

遺言の効力が生じたあと、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害請求がされるおそれがあるのであれば、前もって何らかの対策を講じておく必要があります。

1つの方法としては、遺留分権利者の遺留分を侵害しないように配慮した遺言書を作成することです。

たとえば、「遺言者の長男Aにすべての財産を相続させる」とした遺言を書いたとします。

単にそのような内容の遺言では次男Bの取り分はゼロであるため遺留分を侵害しています。

それでは将来的にBから遺留分侵害請求がされるかも知れません。

ここで、次男Bの遺留分にも配慮した内容の遺言書を書いておくのです。

たとえば、

「遺言者の長男Aにすべての財産を相続させる。ただし、Aは遺言者の次男Bに対して金○○万円を支払わなければならない」

と書いておくのです。

これを負担付遺贈といいます。

負担とは、ここでは次男Bに金○○万円を支払わなければならないことです。この金額は遺留分に相当する金額を設定しておきます。

3.Aが負担を履行しない場合は?

このような遺言を残していたとしても素直にAがBに金○○万円を支払わない可能性もあります。

その場合Bは、「いついつまでに○○万円を支払ってほしい」と相当の期間を定めてAに履行の催告をすることができ、その期間内にAが履行しないのであれば、家庭裁判所にその負担付遺贈にかかる遺言の取消を請求することができます。

Bとしては、泣き寝入りを防ぐことができます。

4.具体的な遺留分侵害額は分かる?

ところで、Bに支払う金額は当然、遺留分侵害額になりますが、その金額を具体的に算出することは遺言書作成時点においては極めて困難です。

なぜなら、遺留分侵害の算定の基礎となる金額の評価基準時は、遺言書作成時ではなく、相続開始時を基準とするからです。

通常は遺言の効力が生じるまで(遺言者が死亡するまで)には時間を要します。場合によっては10年以上先、といったこともあります。

その間に財産そのものが変動することはありますし、財産の評価額も変動していきます。

遺言書作成時から相続開始時までの財産の構成や評価額が同じとは通常は考えにくいでしょう。

そのため、具体的にいくらを侵害しているかは遺言書作成時点では分からないのです。

ただ、大体の見込みの金額を出すことはできるでしょうから、その金額を出して遺言書に代償金の形として記載しておくことは遺留分対策としては効果的です。

5.まとめ

一部の相続人の遺留分を侵害する遺言書は法的にまったく問題はありませんし、侵害していたとしても遺言が無効となることはありません。

そもそも遺言書作成時において、相続人の遺留分を侵害しているかどうかは明確には分からないのです(取り分がまったくのゼロやそれに近いのであれば侵害は明らかですが)。

ただ、遺言を書くことによって、相続分以上の取り分を相続する者と遺留分を侵害されている相続人との争いが想定されるのであれば要注意です。

将来的に遺留分侵害額請求がされる可能性があるため、遺言書の書き方を工夫して遺留分権利者に配慮した内容を考えるべきでしょう。

また、死亡保険金を遺留分対策に活用する方法もありますのでそちらも検討すべきでしょう。

 

詳しくは<遺留分対策のための生命保険金の活用>

 

遺言書や生命保険を利用した遺留分対策は技術的、専門的な要素もあるため、専門家に相談することをオススメします。

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