遺言書は遺言者の最終意思を実現するもので、作成される方が年々増えてきています。
もっとも、遺言書の効力が生じるのは遺言者が死亡したときなので、何年、場合によっては何十年と保管する必要があります。
そのため、長期間の保管に伴って、遺言書を紛失してしまうこともあるかも知れません。
「引っ越しにまぎれて見失った」「どこにしまったか忘れた」などです。
以下では、遺言書を失くした場合の対処法を、自筆証書遺言と公正証書遺言で分けて解説します。
1.自筆証書遺言を紛失した場合
自筆証書遺言は、いつでも簡単に作成できる反面、保管などを自らの責任をもって行うことが必要になります。
そのため、どこに保管したかを忘れたり、そもそも遺言書を失くしてしまったというケースもでてきます。災害などによって失う可能性もあるでしょう。
そのような場合は、あらためて遺言書を作成することをオススメします。
遺言は、作成日付が新しいものが優先されるからです。
あわせて、失くした遺言書を撤回しておくことです。
新しい遺言書が優先されるといっても、失くした遺言書も、存在する限り完全には無効とはなっていません。
新しい遺言書と内容が抵触しない部分は有効のままだからです。
「失くしけど新たに作ったから大丈夫だろう」といって失くした古い遺言書をそのままにしておくことは、無用の混乱や相続人間の遺言を巡る争いを招く可能性があるため、必ず撤回もしておくことです。
コピーに効力はない
「遺言書を失くしても手元にコピーがあるから大丈夫だろう」と考えても、自筆証書遺言のコピーには、法律上何ら効力がありません。
コピーそのものは自書とはいえないからです。
したがって、手元にコピーがあり、そこに押印したとしても有効な遺言書とはなりません。
なお、カーボンコピーされた遺言書は、
「本人の筆跡が残り、筆跡鑑定によって本人が書いたものかどうか判定することが可能なので、偽造の可能性が低く、自書といえる」
として有効とした最高裁判例があります。
2.公正証書遺言を紛失した場合
公正証書遺言は、原本、正本、謄本が作成されます。
公正証書遺言を作成すると、遺言者にはその場で正本と謄本が交付されます。
一般的に、正本を遺言執行者に指定された者が保管し、謄本を遺言者が保管することが多いですが、特に保管方法に決まりはありません。
原本は公証役場に保管されているため、手元にある遺言書を失くしたとしても、公証役場に請求すれば謄本を再交付してくれます。
ただ、だれでも請求できるわけではなく、
・遺言者が生きている場合は、遺言者
・遺言者が亡くなっている場合は、その相続人、受遺者、遺言執行者などの利害関係人
に限られます。
手数料は、1ページにつき250円です。
なお、原本は実際に作成した公証役場に保管されています。
そのため、再交付を受けるには実際に作成した公証役場に行く必要がありましたが、平成31年4月1日より、保管する公証役場が遠隔地にある場合は、最寄りの公証役場で一定の手続きを取ることによって、郵送でも請求できることになりました(詳細は各公証役場にお問い合わせください)。
3.原本、正本、謄本の違いは?
なお、よく出てくる用語の「原本」「正本」「謄本」。
その違いは簡単に以下のとおりです。
原本
公証人、遺言者、証人の署名押印がされたオリジナルの遺言書です。
遺言者の印鑑証明書とともに公証役場に保管されます。保管期限は20年と定めれられていますが、遺言者が遺言作成後、20年以上生存することは当然あり得ますので、通常は20年以上(半永久的に)保管されます。
正本
原本の「写し」として、原本と同じ効力を持ちます。
謄本
原本の「写し」であることは正本と同じですが、正本のように原本と同じ効力があるわけではありません。
謄本によって、遺言書の存在や内容が確認できます。
相続手続きは謄本でも可能な場合が多いですが、中には正本であることが必要な場合もあります。
4.まとめ
遺言書の紛失した場合の対処法は以上です。
長期間の保管を考えると、自筆証書遺言の場合は紛失リスクも高く、改ざんなどされる可能性もあるため、安全性、確実性の点からいっても遺言を作成する場合は公正証書遺言をオススメします。
なお、法務局で自筆遺言書を保管する制度が2020年7月10日より始まりましたので、同制度を利用すれば紛失するリスクを防ぐことができます。
詳しくは<法務局で遺言書を保管してくれる?遺言書保管制度とは>