事例
私の母が亡くなったのですが、母は公正証書遺言書を残しており、全財産を長女である私に相続させ、その遺言執行者として私が指定されています。
相続人は長女の私と次女である妹の2人です。
遺言書には妹に相続させるいったことは一切書いていないため、遺言書の内容を伝える必要はないと考えているのですが、なにか問題になったりすることはありますか。
1.遺言執行者の通知義務
遺言執行者はその任務を開始した場合、相続人に対して遺言の内容を通知しなければなりません。
これは遺言執行者の職務上における義務なので、遺言執行者が通知するしないを判断するようなことではありません。
改正前の相続法においては明確に通知義務が定められていませんでしたが、法改正により通知義務が明確化されました。
2.通知義務がかせられた理由
改正により通知義務が規定された理由としては、
・他の相続人が遺言書や遺言執行者の存在を知らずに相続財産を勝手に処分してしまうことを回避するため
・遺留分侵害額請求権を行使する機会を与えるため
などが考えられます。
司法書士などの専門家が遺言執行者となった場合、実務上は他の相続人に対して遺言執行者に就任した旨と遺言書の写しなどの参考資料を送っていました。
一方で、専門家ではない相続人(受遺者)が遺言執行者に指定されているケースもよくあり、通知などが期待できない、といったところもありましたので法律上、明文化されたということです。
3.財産目録の交付も必要
遺言執行者は、遺言執行にかかる財産について財産目録を作成して相続人に交付しなければなりません。
この財産目録の内容はあくまで遺言の対象になっている財産に限られ、必ずしも全財産を目録化する必要はありません。
遺言の対象となっていない財産は遺産分割の対象となる(相続人全員の関与が必要)からです(確認の意味で全財産を目録化しても問題ありません)。
4.相続人にはなにを送る?
遺言執行者には通知義務がある。では、実際になにを相続人に送ればよいのか。
基本的に以下のものを送れば問題はなく、適切に通知義務を果たしたといえるでしょう。
なお、注意点として、相続人が遺留分のない兄弟姉妹であっても通知、交付するべきです。
①遺言執行者に就任した旨
遺言執行者に就任した旨を通知します。挨拶のようなものです。
②財産目録
登記簿謄本や固定資産税評価証明書などの参考資料もつけておくべきでしょう。
③遺言書のコピー
④遺言執行者に選任されたことを証明する審判書のコピー
遺言執行者が遺言書で指定されたのであれば、遺言書を見ればすぐに分かりますが、家庭裁判所により選任されたのであれば、選任審判書のコピーを同封します。
⑤相続関係図
家系図のようなもので、だれが相続人であるか、その法定相続分はいくつかなどを示します(もちろん、なくてもよいですが、あると親切でしょう)。
5.通知を怠ると
これらの通知を怠ると、のちのち責任追及をされるおそれがあり、無用のトラブルを招く要因になります。
「他の相続人に知られたくない」
「知らせなければ遺留分の請求を受けることもないのではないか」
と考えても前述のとおり、法律上、通知義務があります。
遺留分侵害額請求を受けることが予想されるなど、遺留分の問題があれば他の相続人に遺言書の存在を知られたくない、と考えがちですが、他の相続人を無視して遺言執行を進めることにはリスクがあることを認識する必要があります。
6.まとめ
遺言執行者は他の相続人に対して遺言の内容を通知し、財産目録を交付する義務を負います。
「他の相続人は何も相続しないから」
「遺言で自分がすべて相続したから」
と安易に考え、通知が行われないこともあるのではないでしょうか。
通知を怠った結果、他の相続人との関係性の悪化や遺留分の問題などで話がこじれるケースもあります。
むしろ、ちゃんと通知をすることで結果的に不信感を与えないのではないでしょうか。
くれぐれも「隠しておこう」「黙っておこう」「知らないうちに進めよう」とは考えないことです。