退去しなければならない?内縁配偶者の賃借権

相談事例

私はAと内縁関係にあったのですが、先月Aが亡くなりました。

Aと私は借家(借主はA)に住んでいたのですが、私はこのままこの家に住み続けることができるのでしょうか。

それとも家を出ていかなければならないのでしょうか。

1.内縁配偶者には相続権はない

内縁配偶者に対しても法律上の配偶者と同じように認められる権利もありますが、「相続権」は認められていません。

したがって、賃借権を「相続」して借家に住み続けることはできません。

2.内縁配偶者が賃借権を承継するには?

しかし、それでは内縁配偶者が被る不利益が非常に大きいため、そのような不利益を回避する必要性もあります。

そこで、一定の条件を満たすことにより、内縁配偶者であっても賃借人の権利義務を承継できることが借地借家法36条によって規定されています。

その条件とは次のとおりで、このすべて満たす必要があります。

・居住用の借家であること

内縁配偶者の生活基盤を保護するものなので、居住用に限定されます。事業用に使っている借家については適用外になります。

・賃借人に相続人が1人もいないこと

賃借人に相続人がいれば賃借権はその相続人に承継されるため、1人も相続人がいないことが必要です。

相続人がいる場合は、後述の方法で保護される可能性があります。

・事実上の夫婦関係であったこと

・同居していたこと

同居とは生活の本拠が同じで世帯を共にしていたことです。

3.賃借人としての義務も承継する

上述の36条の規定により、条件を満たして賃借権を承継すると、住む権利だけではなく賃料支払い債務をはじめとした賃借人としての義務も承継します。

そのため、義務の承継を望まない内縁配偶者もいることが考えられます。

その場合は、建物賃借人が相続人なしで死亡したことを知った時から1か月内に、借家の家主に対して賃借権を承継しない旨の意思表示をすれば賃借権を承継することはありません。

4.相続人がいる場合は?

Aに1人でも相続人がいるとします。

むしろ、子なり兄弟姉妹なりだれかしら相続人がいることが普通なので、36条の条件を満たさず、実際に内縁配偶者がこの規定を利用して保護されるケースはそれほど多くはないです。

それでは内縁配偶者は、ほぼ常に、退去を余儀なくされ、生活の基盤を失ってしまいます。

そこで、別の方法で内縁配偶者の保護を図ります。

それは判例上で示されたものですが、相続人の有する賃借権を援用(※)することにより、居住権を保護しようとするものです(最判昭和42年2月21日)。

(※援用とは、法律上の、ある事実を自己の利益のために主張すること)

相続人に相続された賃借権を内縁配偶者が援用することにより、内縁配偶者はそのまま住み続けることができます。

が、この場合であっても問題があります。

賃借権はあくまで相続人に相続されます。

ということは、賃料支払い債務などの義務も相続人が相続しているということです(賃貸借契約の当事者はあくまで家主と相続人)。

したがって、相続人が賃料を支払わなければ賃貸借契約は解約されてしまうおそれがあります。

賃貸借契約が解約により消滅してしまうと、そもそも援用する権利がなくなるため家を出ていかなければなりません。

また、家主と相続人が合意により契約を解除しても同様の結果となるので、内縁配偶者は非常に不安定な地位に置かれることになります。

5.生前に対策を取っておくべき

以上のように、内縁配偶者の地位は限りなく不安定です。また、相続人がいれば36条を使うこともできません(実務上、36条を使えるケースは多くはありません)。

内縁配偶者が安心して住み続けることができるために、Aの生前に、次のような対策を取っておくべきでした。

入籍する

入籍できない理由(重婚問題、姓の問題など)が特段ないのであれば、入籍することで正真正銘、相続人となる地位を得ます。

法律上の配偶者となれば、当然に(家主の承諾なしに)賃借権を相続します。

もっとも、法律上の配偶者となると未払い税金や借金などの債務もすべて相続することになるため、その辺りを考慮して慎重に検討する必要があります。

また、被相続人の子や兄弟姉妹など他の相続人との関係も無視できません(法律上の配偶者の出現により、子や兄弟姉妹の法定相続分が減少する)。

遺言書を書いておく

入籍できない理由があるのであれば、最低限、賃借権を内縁配偶者に遺贈する遺言書を書いておくことです。

ただし、この場合、内縁配偶者が賃借権を取得するには、遺言の効力発生後に家主の承諾を得る必要があります。

6.まとめ

「内縁配偶者がそのまま借家に住み続けることができるか」

内縁配偶者が相続人ではないことを理由に、家から退去しなければならない、生活の基盤を失う可能性がある、といったことは妥当ではありません。

そのため、借地借家法36条では、一定の条件を満たすことによって内縁配偶者を保護することが定められています。

しかし、36条適用のための条件のうち「相続人が1人もいないこと」という点がネックになります。

普通は、相続人の1人はいるものです。

条件を満たさない場合であっても、判例で示されたように相続人が相続した賃借権を援用する方法がありますが、上述のとおり相続人の賃料不払いのリスクが常にあるため、内縁配偶者は継続的に不安定な地位に置かれてしまいます。

そのようなことにならないよう、内縁配偶者の居住権を確保するためにも、自分の元気なうちに対策を取っておくことをオススメします。

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