賃貸アパートの相続。
自宅を相続する場合に比べ手続きすべきことが多く、手間が増えます。
たとえば、親が所有していた賃貸アパートを相続する、ということは、その築年数も相当の年数が経過していることが考えられますが、ここではアパートを取り壊さず現状のまま、アパートとともに相続人が賃貸人(大家)の地位を相続した際の手続きについて解説をします。
1.賃貸人(大家)の地位の相続
まず、賃貸人が死亡しても、それによって賃貸借契約は終了しません。
死亡したからといって残りの契約期間がリセットになることもありません。相続によって賃貸借契約の内容には何も影響はありません。
そして、相続により、相続人は被相続人が有していた賃貸人・貸主としての契約上の地位(権利や義務)をすべて相続します。
では、賃貸人の権利、義務とはなにか。
賃貸人の権利
◆賃料請求権
賃貸人の義務
◆アパートを賃借人に使用、収益させる義務
◆使用、収益させるために必要な修繕義務
◆敷金返還義務
2.火災保険契約などは?
なお、火災保険契約や地震保険契約など保険契約上の地位については、相続に伴って、契約当事者を変更する必要があります。
保険会社と契約のやり直しが必要になりますので、詳細は保険会社、代理店に問い合わせることです。
3.賃借人の同意は不要
賃貸人が変わるということは、契約の当事者が変わるということなので、賃借人の同意が必要かどうか、が問題となります。
しかし、賃貸人の地位は相続によって当然に移転するため、賃借人の同意は必要ありません。
4.賃借人への通知
賃貸人が死亡したため相続人が新しい賃貸人になった、とする通知は法律上の義務ではありません。
しかし、賃借人は相続が発生したことを知らないため、その事実を通知しておくべきでしょう。
時間的に可能であれば、通知前にアパートの相続登記を済ませておき、通知とともに相続登記を済ませた登記簿謄本を提示するのがベストです。
5.賃借人に賃料振込先の変更通知
管理会社を入れていない、純粋に大家が賃貸事務のすべてを執り行っているのであれば、賃料の支払い先口座も大家の個人口座となっていることが多いため、必ず振込先の変更通知をしておくことです。
なぜなら、口座名義人が亡くなって銀行がその事実を把握した場合、その口座は凍結されることになります。
凍結されると完全にロックされるため、賃料を振り込むことができなくなります。
口座凍結について詳しくは<預金口座の凍結とは?凍結されるとどうなる?>
借主はいままでの口座に振込もうと試みても振り込むことができないため、変更後の賃料振込先口座を伝える必要があります。
6.賃貸借契約書の再作成は必要か
当事者が変わっているため、賃貸借契約書を作成し直す必要があるのか。
相続により、当然、賃貸人としての立場も相続することになるため、必ずしも作成し直す必要はありません。
「作成し直すこと」といった法律の定めもありません。
したがって、次の契約更新時に相続人である新賃貸人を当事者として作成しても問題はありません。
もっとも、あらためて新賃貸人と賃借人で契約し直すことが権利関係を確かなものにしますし、後々のトラブル予防とするためにも時期をみて(遺産分割や相続登記が終わった段階など)、なるべく遅くならないよう新賃貸人と賃借人で契約を締結し直すことをオススメします。
7.遺産分割協議
前述の賃借人への通知などと並行して、賃貸アパートをだれが相続するかについて、相続人間で遺産分割協議を行うことになります(法定相続分で相続する場合は不要です)。
ちなみに、遺産分割が成立するまでの賃料については、法定相続分にしたがって各相続人が取得します。
詳しくは<相続開始後、遺産分割成立までの賃料収入はだれのもの?>
8.遺産分割が成立するまではだれに賃料を支払えばよいか
前述のとおり、遺産分割協議が成立するまでの賃料は法定相続分にしたがって相続します。
ただ、そうだとすると、協議が成立するまで賃借人はいったいだれに支払えばよいのか、分からないことになります。
極端な話し、たとえば相続人が5人いるとして、その全員に5等分した賃料をそれぞれに振り込むことはどうみても現実的ではありません。
そこで、遺産分割協議が成立するまでの間の賃料の支払先について、相続人間で代表相続人を定め、その代表相続人が賃料を受領する、など適切な対応が必要になってきます。
その際、相続人個人の口座を振込先に指定するのではなく、賃料受領専用の管理口座を作っておくことが、トラブル防止にもなります。
代表相続人を定める場合であっても当然、相続人全員の合意を前提にしますので、勝手に、独断で受領することは絶対にやめておきましょう。
9.相続登記
遺産分割協議が成立したら、相続登記を行います。
相続登記について詳しくは<自分でできる!相続登記の申請方法や申請書の書き方>
10.まとめ
賃貸アパートを相続した場合の手続きの流れでしたが、自宅を相続した場合に比べ、必要な手続きが多くなるのが一般的です。
その他、アパート建築にあたって金融機関から借入をしていれば抵当権の債務者変更登記などの問題も出てきます。
詳しくは<債務を残したまま亡くなったら?抵当権の債務者変更登記>
手続きが複雑化し、素早い対応が求められることもあるので、具体的な手続きについては専門家に相談することをオススメします。