
1.貸金庫
価値のあるモノ、大事なモノ、たとえば自宅の権利書や実印、印鑑カード、貴金属などは自宅に保管しておくと、やはり盗難リスクがあるため不安に感じるのではないでしょうか。
自筆遺言書の場合は隠されたり、改ざんのリスクもあります。
そこで、安心に保管でき、盗難のおそれもない場所として「金融機関の貸金庫」が出てきます。
金融機関と貸金庫契約を行い、貸金庫の中にそれらを保管しておけば様々なリスクをほぼゼロにできることでしょう。
貸金庫は企業や富裕層が利用するイメージがありますが、大事な財産は高価なものに限られません。アルバムや思い出の品、形見としてほしいものなど人によって様々です。
東日本大震災以降、被災地の貸金庫が無事であったことから、安全性があらためて評価され、近年では利用が増えているということです。
2.貸金庫の相続
貸金庫契約をしていた被相続人が死亡すると、相続人は、貸金庫契約上の地位を相続します(もっとも、各金融機関には貸金庫規定があり、相続人はそれにしたがうことにはなります)。
当然、貸金庫の中身についても相続財産となり、相続人の共有となります。
ただし、だからといって相続人は当然に貸金庫を開けることはできません。
貸金庫を開け、その中身を取り出し、貸金庫契約を解約する手続きは、預金口座などと同じように金融機関への届け出、必要書類の提出が必要になります。
一般的な必要書類などは次のとおりです(ただし、金融機関によって異なる場合がありますので、手続きの詳細は各金融機関に確認する必要があります)。
①被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③相続人全員の印鑑証明書
④貸金庫の鍵
⑤貸金庫利用カード
なお、④の鍵が見つからなくても再発行手数料がかかりますが、開けることはできます。
3.開扉(かいひ)には原則、相続人全員の立ち合いが必要
上記書類を提出のうえ、開扉にあたり原則は相続人全員の立ち合いが必要になります。金融機関としては、相続人間の争いに巻き込まれたくないために、全員の立ち合いを求めます。
立ち会えない相続人がいる場合は、開扉について同意する他の相続人の同意書を準備しておけば対応可能か金融機関に確認することです。
遺言執行者が選任されていて、その者に開扉の権限があれば相続人全員の立ち合いは不要です(通常は、遺言書に遺言執行者の権限も記載しておきます)。
ただし、後日のトラブル予防のため、代表相続人の方に立ち会ってもらうこともあります。
4.遺言書を貸金庫に入れる場合は要注意
自筆遺言書に、貸金庫の中身の財産について相続する者について書いていても、その遺言書自体を貸金庫に入れてしまえば、結局のところ開扉するまで遺言書の内容が分からない事態になってしまいます。
その場合は原則どおり相続人全員の印鑑証明書などが必要になってきますので、せっかく遺言書を書いたのに意図しない結果となってしまうため、注意すべきです。
なお、公正証書遺言の場合は遺言書原本が公証役場に保管されています。
5.事実実験公正証書
開扉に相続人が立ち会えない場合も当然あります。
そのような場合は公証人に出張してもらい、貸金庫の中身を確認、点検し、その結果、事実を公正証書に残す方法があります。これを「事実実験公正証書」といいます。(公証役場ホームページ)
ただし、金融機関によってはこの方法を認めない場合もありますので、事前に確認する必要があります。
6.勝手に持ち出すことはやめておく
貸金庫の相続は、取り扱いとしては基本的に預金口座と同じです。口座と同じように、被相続人の死亡後は、貸金庫規定にしたがい、凍結され、開扉ができなくなります。
他の相続人にバレないと思って、金融機関に死亡が分かる前に勝手に開扉して、中の物を持ち出す行為はやめておきましょう。
預貯金の取引履歴のように、貸金庫にも開扉記録がありますので、金融機関に請求すれば開扉されたことが分かります。
仮に中の物を持ち出していないとしても、そのような行為自体、他の相続人に疑念を抱かせ、無用の混乱を招き、相続人間の争いに発展するおそれがあります。
7.貸金庫を借りているかどうかの確認は?
生前、貸金庫を契約していることを聞いていれば問題ありませんが、通常は、被相続人が貸金庫を借りているかどうか不明な場合が多いのではないでしょうか。
その場合、口座の取引履歴を確認してみることです。
そこに、「保管料」や「利用料」などの名目で一定金額が定期的に引き落とされていれば貸金庫を借りている可能性が高いです(貸金庫利用料は金融機関や貸金庫の大きさにもよりますが、年間数万円ほどです)。
引き落とされている口座の金融機関に問い合わせてみましょう。
8.まとめ
貸金庫を借りている被相続人は決して珍しくありません。
特に高齢の方ほど、借りている印象です。
いざ開扉したところ、多額の現金や形見の品が入っていたこともありますので、忘れず、見逃さずに相続手続きを行うことです。