自宅に抵当権が付いていても遺産分割はできる?

相談事例

父が亡くなったため、相続人で遺産分割を行う予定なのですが、自宅不動産に銀行の抵当権が付いています。

抵当権が付いているなかで遺産分割をしても問題はないでしょうか。

銀行の承諾などが必要なのでしょうか。あとで何か言われるのではないかと不安です。

そもそも、相続の対象になるのでしょうか。

1.抵当権付きの不動産は相続されるか?

抵当権が付いている不動産であっても、付いていない不動産と同様に、相続の対象となります。

また、相続に伴って被相続人の一切の権利義務が包括的に相続人に承継されるため、贈与や売買と異なり、抵当権者(債権者)の同意・承諾は不要です。

2.抵当権が付いていても遺産分割はできる

相談事例のように自宅不動産に抵当権が付いているなかで、相続人間で遺産分割をしても問題はないのか、といったご質問をいただくことがあります。

結論から言って、不動産に抵当権が付いていても遺産分割をすることになにも問題はありません。

自宅の不動産(所有権)と抵当権はまったく別の話しであり、抵当権がついていても自宅所有権は当然に相続の対象になります。

したがって、遺産分割の対象になり、銀行などが遺産分割の内容を否定、否認することはありませんし、できません。

3.債務の扱い

被相続人の自宅に抵当権が付いているということは、基本的に被相続人は債務(借金)を負っているということですが、当然、債務も相続の対象になるため、その債務をどうするのか、といった問題は残ります。

つまり、遺産分割で特定の相続人が債務を相続するのか、それとも法定相続分で相続するのかなど、債務の承継者をどうするかです。

 

なお、借金が住宅ローンである場合、融資にあたり通常は団体信用生命保険(団信)に加入しているため、基本的にはすでに完済されています。詳しくは<自宅を相続したら残った住宅ローンはどうなる?団体信用生命保険とは?>

 

完済しているが、不動産に抵当権の登記がされたままの場合について、詳しくは<相続した不動産に抵当権の登記が設定されているときは>をご覧ください。

 

原則、相続によって、金銭債務(借金など)は法定相続分の割合で分割されて相続されますが、相続人の話し合いで、法定相続分とは異なる割合で各自が相続することや、特定の相続人が債務を全部負担する取り決めも可能です。

遺産分割で、「不動産を相続した相続人が借金も相続する」といった決め方も普通に行われます。

もっとも、相続人間の遺産分割の内容を当然に債権者に主張できるかどうかは別の問題であり、遺産分割で決定した内容を債権者に対して当然に主張できません。

当たり前と言えば当たり前ですが、債権者の関与なしに勝手に債務の負担者、負担割合などを決めても、それをもって債権者には対抗できず、その債権者の承諾が必要になります。

債権者の承諾がないなかにあっては、債務の負担者などの取り決めはあくまで「相続人の間では有効」ということに過ぎません。

相続人の内部的な問題ということです。

なお、「不動産も相続しないから債務の負担もゼロ」とした相続人が債権者から法定相続分の割合での支払請求を受け、支払った場合はどうなるのか。

この場合、支払った相続人は、遺産分割協議で債務を負担することになった相続人に対して求償権(代わりに支払ったのだからその分を返して欲しい、といえる権利)を行使できます。

4.場合によっては債務引受による変更登記が必要

債務者が亡くなっても、債務がまだ残っているのであれば、抵当権の債務者の変更登記が必要になります。

5.まとめ

抵当権付きの不動産であっても、相続人が遺産分割をすることはまったく問題はなく、債権者の承諾、同意は一切不要です。

「所有権」と「抵当権」は別問題だからです。

もっとも、抵当権が付いているということは、通常、被相続人が債務を負っていたということなので、その債務についての遺産分割をする場合は、遺産分割の内容を当然に債権者に主張できるわけではないので、要注意です。

また、債務を相続した場合は、別途、銀行との債務引受契約といった問題もありますので、留意しておく必要があります。

関連記事