
1.遺産分割協議のやり直し、できるケース・できないケース
遺産分割協議は相続人全員が合意しなければ成立しません。
なかには、「苦労して合意にこぎ着けた」「数年かかった」ということもあるのではないでしょうか。
しかし、何かの事情によって、その苦労して成立させた遺産分割協議をなかったことにしたい、と考える場合があります。
そこで、一度成立した遺産分割協議はやり直すことができるのか、再分割は自由にできるのか、を以下で解説します。
(1)合意解除はできる
遺産分割協議を終えたが、あらためて遺産分割協議をやり直したい、という声はまれにあります。
理由としては、面倒なのであまり深く考えないで協議してしまった、といったものや急いでいたので、とりあえずの形で合意した、などなど。
では、遺産分割はやり直せるのか、ですが、相続人全員の合意のもとであれば自由にやり直すことはできます。
これを遺産分割協議の「合意解除」といいます。
相続人全員が「もう一度やり直そうか」ということであれば、それを認めても何ら問題はありません。
遺産分割協議後に財産の帰属先に不都合が生じることは往々にしてあります。
あの財産は長男が相続した方がよかった、この財産はやっぱり次男が相続した方がよかった、といった声が出てくるのはまったく不思議なことではないからです。
ただし、自由にやり直しできますが、後述のとおり税務上問題が出てくることがあるので注意を要します。
(2)法定解除はできない
遺産分割、上述のとおり相続人全員の合意のもとであればやり直しは可能です。
しかし、遺産分割協議の内容について、債務不履行がある場合。
たとえば、相続財産を取得する代わりに他の相続人に金銭(代償金)を支払う、とするいわゆる代償分割をしたとします。
代償分割について詳しくは<代償分割のポイント>
しかし、協議内容に反して、財産を相続した相続人が他の相続人に代償金を支払わないため、他の相続人はその遺産分割協議を解除したい、と考えました。
他の相続人としては「代償金を払ってくれないなら遺産分割協議にハンコを押さなかったのに」ということになるのでそう考えるのも当然でしょう。
ただ、最高裁は、債務不履行(代償金を支払わない)による遺産分割協議の解除は認められない、という判決を下しました。
このような解除を「法定解除」といいますが、上述の合意解除と異なって遺産分割協議においては認められません。
(3)成立した調停、審判のやり直しは基本的にはできない
家庭裁判所を介して成立した遺産分割調停や遺産分割審判も基本的にはやり直すことはできません。
裁判所で一度有効に成立(審判であれば確定)したものを当事者で覆すことは、法律関係の安定性を損ねることになるからです。
ただし、限定的ですが、話し合いの上で成立する遺産分割調停に限っては相続人全員の合意でやり直せる余地はあります(あくまで可能性の話で、事案ごと個別に判断を要します)。
(4)遺産分割協議が詐欺・強迫によってされた場合は取り消すことができる
詐欺とは、他の相続人から相続財産について事実と異なることを言われて、だまされて遺産分割協議書に押印させられた場合、強迫とは、無理やり遺産分割協議書に押印させられた場合などです。
詐欺、強迫を受けた相続人としては、まずは遺産分割協議の取消の意思表示を内容証明郵便などでして、遺産分割無効確認訴訟を起こすことになるでしょう。
2.極力、やり直すことは避けた方がよい
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議をやり直せる。
これを合意解除といいました。
法的には有効ですが、あまりオススメできません。
なぜなら、合意、再分割、合意、再分割と繰り返すことにより法律関係、権利関係を複雑にするおそれもありますし、なにより税務上の問題があります。
たとえば、遺産分割協議によって長男が単独相続した自宅をやっぱり次男に変更したい、となって遺産分割協議をやり直した場合。
次男は無事自宅を相続できました。
ところが、ここで問題が発生します。
この場合、次男が自宅を取得した原因は相続ではなく、長男から次男の贈与と判断され、次男に贈与税が課税される可能性が出てきます。
また、贈与ではなく長男から次男への売買とした場合、長男に譲渡税が課税される可能性もあります。
さらに、売買金額を意図的に著しく低額にして譲渡税を少なくしようとしても、取引相場からみて著しく低額で売買した場合は贈与とみなされ、贈与税が課税される可能性があります。
いくらくらいであれば著しく低額となってしまうのか、の判断は難しいところですが、さまざまな事情を考慮して個別に判断することになります(近しい親族間であればあるほど、低額譲渡の認定は厳しくなるでしょう)。
3.まとめ
遺産分割、合意解除は認められますが、法定解除は認められません。
いずれにしても、遺産分割を行う場合は後々やり直すことのないよう十分に検討することが求められます。
なお、後日新たに遺産が見つかった場合に備えて、たとえば、
「本協議書に記載のない遺産や、後日新たに遺産が見つかった場合は、〇〇〇が取得する」
「本協議書に記載のない遺産や、後日新たに遺産が見つかった場合は、〇〇〇が2分の1,◇◇◇が2分の1ずつの割合で取得する」
などの条項を入れておけば遺産分割のやり直し、いわゆる再分割(一部分割)は回避できます(もちろん、漏れた遺産については再協議をする、といった取り決めも可能です)。
遺産分割時に判明していない相続財産もあり得るため、保険の意味合いで入れておくことも有用でしょう。