1.相続人に未成年者がいる場合
相続はいつ発生するか分からないものです。相続人の中に未成年者がいることも珍しいことではありません。
しかし、未成年者は遺産分割協議などの重要な法律行為を自己の意思によって単独で、有効に行うことはできません。
とは言っても成年になるまで待つ必要はありません。
2.特別代理人
通常であれば、法定代理人である親権者が未成年者に代わって法律行為を行います。
しかし、たとえば父親が被相続人で、母親と未成年者が共同相続人となる場合に問題が出てきます。
母親も共同相続人の1人となりますが、このような場合、母親と子は利害が衝突する関係(利益相反関係)となります。
そのまま、母親が子を代理して遺産分割協議を進めて遺産分割協議書に署名押印をしても、残念ながらその遺産分割協議は有効に成立しません。
利益相反となる場合は、客観的に公平な代理を期待できないため、遺産分割協議の場面においては親権者は未成年者を代理することができないからです。
この場合、親権者の代わりに未成年者を代理して遺産分割協議書に署名押印する者として、子の住所地を管轄する家庭裁判所に特別代理人選任申立てを行い、特別代理人を選任する必要があります。
3.必要書類は
申立てに際し、基本的に次の書類を提出します。
①申立書(800円の印紙を貼ったもの)
②未成年者の戸籍謄本
③親権者の戸籍謄本
④特別代理人候補者の住民票(または戸籍の附票)
⑤利益相反に関する資料(遺産分割協議書の案など)
⑥連絡用の切手
書類に不備がなければ申立てから大体3週間前後、早ければ2週間ほどで選任の審判がされ、家庭裁判所から申立人と特別代理人に選任審判書が送られてきます。
選任された特別代理人は選任審判書に書かれている行為について未成年者を代理することができます。
書かれていないことについては代理できません。
選任審判書が特別代理人の資格証明書となり、今後の手続きに必要になりますので、大事に保管しておくことです。
4.特別代理人申立て時のポイント
以下は、特別代理人の申立ての際に注意すべきポイントです。
特別代理人はだれでもよい
特別代理人は家庭裁判所が勝手に決めてくれるわけではありません。申立人の方で決めておく必要があり、特別代理人選任申立書には候補者を記載します。
特別代理人は法律上特に指定はありませんので、叔父、叔母などの親族や司法書士でも構いませんが、ある程度事情を知っている者が良いでしょう。
まったくの第三者を候補者にすると、家庭裁判所から、なぜその者を候補者にしたのか照会がくる可能性があります。
問題がなければ申立人で立てた候補者がそのまま選ばれます。
未成年者が複数人いる場合
未成年者が2人以上いるのであれば未成年者1人ごとに別々の特別代理人を選任する必要があります。
1人の特別代理人がそれぞれの未成年者をまとめて代理するわけではありません。それを認めると公平な代理を望めないからです。
したがって、未成年の長男、次男がいる場合は、それぞれ別の人物を特別代理人として立てる必要があります。
この場合、申立書も別々に作る必要があるので、その分、申立印紙代、連絡切手代が増えることになります。
遺産分割協議書案の内容
申立時に遺産分割協議書の文案を提出しますが、親権者が相続財産をすべて取得する内容など、未成年者の不利になるような協議内容だと基本的に選任申立てが認められない可能性があります。
最低でも未成年者の法定相続分は確保している必要があります。
ただ、親権者が自分の法定相続分以上を相続することに合理的な理由があれば、そのような内容の遺産分割協議書でも認められることもあります。
たとえば、遺産が自宅しかない場合は、名義を親権者だけにする方が理にかなう場合もあります。
家庭裁判所に法定相続分とは異なる内容の遺産分割協議となることを説明し、納得してもらうために上申書の提出も必要になってきますので、そのような事情がある場合は専門家に相談すると良いでしょう。
5.遺産分割協議
特別代理人の選任後、遺産分割協議を相続人である親権者と特別代理人が行うことになります。
内容に合意できたら、相続人全員が署名押印して遺産分割協議は成立です。
この場合、当然、申立時に提出した遺産分割協議書案の内容に(おおむね)沿っていることが求められます。
遺産分割協議など、選任審判書に書かれた行為が終われば特別代理人の職務は当然に終了します。
任期のようなものはありません。
家庭裁判所に遺産分割協議が成立したなどの事後報告をする必要はありません。
6.特別代理人を選任していないと
なお、特別代理人を選任せずに遺産分割協議を行った場合、未成年者が成年になった後、遺産分割協議の内容を認めない限り(これを追認といいます)無効です。
また、特別代理人を選任しないで行った遺産分割協議書を使って相続手続きを進めようとしても、未成年者であることは戸籍上明らかであり、利益相反関係の事実は一目で分かります。
遺産分割協議が有効に成立していないことが明らかなのです。
したがって、有効な遺産分割協議ではないため各手続きを進めることはできません。
7.相続放棄の場合
遺産分割協議とは関係ありませんが、親権者が未成年者を代理して相続放棄を行う場合にも、利益相反関係となれば特別代理人の選任が必要になります。
詳しくは<未成年者の相続放棄>
8.まとめ
親権者と未成年者が利益相反関係となる典型的なケースは遺産分割協議の場面です。
親権者だからといって、当然に、なんでも子を代理できるというわけではありません。
まずは遺産分割協議を行うために必要な手続きから始めることです。
特別代理人を選任しなければすべての相続手続きが滞ることになるので、判断間違いしないよう注意しましょう。