相談事例
私の父親が余命いくばくもない状態です。
相続人は子の3人で、そのうち長男である私が海外に在住しており、いまは一時的に帰国しているのですが、近々、出国する予定です。
父親の財産は自宅と預貯金なのですが、私が出国してしまうと、速やかに手続きができない、と聞きました。
そこで、私が一時帰国しているいまのうちに遺産分割を終わらせておきたいと思っているのですが可能でしょうか。
なお、父親は自分の財産について今のうちから遺産分割をすることに同意してくれています。
1.生前に遺産分割協議はできない?
相続人で行う遺産分割協議。
この遺産分割協議ですが、いざ相続が開始した時のために、すぐに相続手続きに取り掛かれるように被相続人の生前にやっておくことはできるのでしょうか。
相談事例のように、相続人のうちの1人が海外に在住しているが、たまたま日本に一時帰国しているため、この際、父親の相続が開始する前に遺産分割協議を終えておこう、と考えた場合。
まだ父親が生存している中で、父親の財産につき遺産分割協議を行っておけばあとあと楽ではないか。
確かに、相続人に海外在住者がいる場合は面倒となるケースが多く、手続きを迅速に行う場合に支障が起こることがあります。
このような相談をたまに受けることがありますが、結論から言うと、被相続人の生前に遺産分割をすることはできません。
遺産分割は文字通り、「遺産」を分割する手続きです。
ある人の財産は死亡によって相続されますが、死亡するまでは推定相続人(将来相続人になる者)は、ある人の財産に対し何らの権利や義務を有していません。
それがたとえ家族だとしても他人が勝手に人の財産を左右できるわけはありません。
また、遺産分割の対象となる財産が確定していない中で(協議後、死亡までに財産の変動が起こる可能性も十分ある)、生前に遺産分割ができるとなると権利関係、法律関係を複雑にするおそれもあります。
したがって、被相続人の生前に財産の処分先を決めてしまう遺産分割協議を行い、成立させることはできません。
それが、たとえ父親本人の同意があったとしても無効、です。
2.生前に相続放棄や遺留分放棄は?
生前に相続放棄することも認められませんが、生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可を得れば認められます。
ただし、遺留分を放棄しただけでは、遺産分割がされたということではないため、別途、遺留分を放棄した者の取り分がゼロとする遺言書を残しておく必要があります。
3.まとめ
生前に相続人間で遺産の分割や分割方法について合意したとしても法律上は無効であるため、その遺産分割協議書を使って何らかの相続手続きを行うことはできません。
もっとも、あらかじめ相続人間で話し合っておいて合意書のようなものを作成しておき(あくまで紳士協定の位置づけとして)、いざ遺産分割協議をする段階になった時にそれを活かすのも良いかもしれません。
その結果、スムーズに遺産分割協議が進むこともあります。