1.共有分割とは
遺産分割の方法の1つとして、「共有分割」があります。
簡単に言うと、遺産の全部または一部を相続人が共同で相続、取得することです。
たとえば、遺産である不動産の名義を相続人が共同で相続登記する方法があります。
これを「共有名義」といいます。
逆に相続人の1人の名義に相続登記することを「単独名義」といいます。
相続人が共同で取得するというと、公平、平等に感じるかも知れませんが、この方法による分割を行うと相続人の共有名義となります。
しかし、共有分割(=共有名義)はオススメしません。
2.共有をオススメしない理由
共有をオススメしない理由はいくつかありますが、主なものとしては以下の4つがあります。
①不動産の処分ができなくなる可能性
遺産である不動産を相続人が公平にで所有しようと考え、全員で相続する場合があります。
しかし、不動産を共有で分割してしまうと、共有者全員の同意がない限り、売却や取り壊しなどの処分行為ができなくなります。
自分だけの判断で自由にできなくなるのです。
いざ売却しようとしても、1人でも同意しなければ売却などの処分行為ができないため、最適な売却時期を逃してしまう可能性があります。
「住み慣れた自宅を手放したくない」「売却代金に納得いかない」など理由は様々ですが、他の共有者が売却に同意しないといったケースは実は珍しくありません。
売却したい共有者だけが売却すればよい、と考えるかもしれませんが、持分のみを購入する者は通常は考えられません。
しかし、不動産の価値などによってはその持分でさえ購入する者が現れる可能性もあります。
場合によっては全く見知らぬ第三者が共有者として現れることもあるのです。
最悪、持分を購入した者(ブローカーなど)が、共有を解消するための裁判を起こしてくるおそれもあります(共有物分割訴訟)。
②法律関係、権利関係の複雑化
複数人が共有で相続したということは、それだけ、関係当事者が増えていくことでもあります。
共有者の1人が死亡してしまうと、その持分はその相続人に引き継がれます。
つまり、そのまま共有状態にしておくということは、時間の経過とともに(相続の発生)持分が細分化され、確実に当事者が増えていきます。
将来的に売却やその不動産を担保に出すなどを考えた場合、関係当事者が増えれば増えるほど、合意形成が困難になってきます。
それが共有名義にしてから何年、何十年も経った不動産であれば関係者が何十人にもなる可能性があります。
さらに、相続人の中に行方不明者がいれば別の問題が出てきます。
詳しくは<相続人の中に行方不明者がいると遺産分割協議ができない?>
また、相続人の年齢にはよりますが、認知症の人がいるかもしれません。そうなると、有効に遺産分割協議をできないため、成年後見人の選任が必要になってきます。
そのような不動産がまさに「負動産」となり、結果的に空き家化、所有者不明土地となっていきます。
③登記をする場面が増える
共有者が複数いるということは、それだけ登記する場面が多いということです。
◆だれか1人について相続が発生した場合は、その者についての相続登記が必要
◆だれか1人について住所が変更したら住所変更登記が必要
当然その分、手間や登録免許税の負担がかかります。
④トラブルのもとになる可能性
関係者、当事者が複数いるということは、それだけ紛争になるリスクが高いということです。
共有というだけで潜在的なリスク要因となるのです。
たとえ今は何事もなくとも、時間の経過とともに共有者間で心情、考え方の変化や時には不満が出てくることもあります。
「売りたくなかった(売りたかった)が売りたくなった(売りたくなくなった)」
「管理はだれが行うのか」
「管理方法が気に食わない」
「一部の者が固定資産税を払わない、負担しようとしない」
など、管理・使用方法や処分方法などで共有者間で意見の食い違いがでてくるでしょう。
トラブルの発生、場合によっては実際に居住している相続人に退去要求をするまでに発展する可能性もあります。
3.まとめ
公平、平等になると考えて共有で相続することは、実は以上のとおりデメリットが多くあります。したがって、
◆遺産分割の方針がなかなか決まらない
◆先のことは考えず共有なら公平、平等だと思った
◆とりあえず共有で、なんとなく共有で
◆話し合う面倒を避けるために、早く遺産分割を終えたい
などを理由として共有分割することはなるべく避けるべきです。
将来の見通しや想定しうるリスク、デメリットなどを考慮にいれて、総合的な視野をもって遺産分割は行うことです。
遺産分割は、相続財産や相続人の事情によってどのように進めていけばよいかは異なってきますので、合意内容や進め方に迷った際は専門家に相談することをオススメします。