人の死は突然にやってきます。
相続はいつ起こるか分かりません。
いざ自分が亡くなった時のことを考え、相続手続きを行う家族の精神的、肉体的な負担を少しでも軽減できるよう、生前にできることはやっておくべきです。
相続手続きは基本的に手間や時間がかかり、やるべき事柄が多いです。
遺された配偶者は高齢で、子は独立して家を出ているような場合がほとんどだと思いますが、そのようななか数々の手続きをイチから行うのは非常に大変なことです。
また、認知症などで施設に入所してしまうと、必要な対策を取ることができなくなります。
元気なうちに今やれること、できることは面倒と思ってもやっておくことです。
突然やってくる相続、以下のポイントをふまえて事前に備えを行っておけば相続人の負担軽減に加え、相続人間のトラブル防止にもつながることでしょう。
1.財産目録の作成
まずはじめにすべきは財産目録の作成です。この目録があるのとないのでは極端な話、天と地ほどの差があります。自分の財産を見直してみて、あわせて棚卸しをしましょう。
(1)預貯金の整理
通常、銀行口座は複数行保有しているでしょうから、可能であれば生前に銀行口座を1つか2つにまとめておけば相続人の手続きの手間が省けます。
それが難しいようなら、最低限、口座の一覧表は作成しておきましょう。
金融機関名、支店名、預金種別、口座番号を記載しておきます。金額の記載までは不要です。
また、ネット銀行口座は一般的に通帳などがないため、判明、発見されないおそれがありますので、漏らさず記載しておくことです。
(2)保険、有価証券などの整理
保険に加入しているかどうかは保険証券や契約書で確認できますのでまとめておきましょう。
紛失などで手元にない場合、死後に相続人が保険料が引き落とされているかどうかを通帳の取引履歴で確認していき、そこから保険会社を調査していくことになります。しかし、それは相続人にとっては過大な負担になります。
したがって、紛失している場合は再発行の手続きを必ず取っておくことです。
また、受取人が先に死亡している場合は、自分の想定していない者に保険金が支払われる可能性があるため、受取人変更の手続きも取っておくべきでしょう。
詳しくは<保険金の受取人が先に死亡したら?簡易生命保険(かんぽ生命)の場合は?>
また、株式などの証券口座については、証券会社から送られてくる取引残高報告書は保管しておき、タンス株や端株(単元未満株)があれば事前に整理しておくことをオススメします。
ネット銀行口座と同じようにネット証券口座も相続人には判明しにくいため、一覧に記載しておくことです。
そのIDやパスワードも書いておいても良いですが、当然、情報流出しないよう細心の注意を要します。
(3)不動産の情報の整理
登記識別情報通知書(従来の権利書)は大事に保管しておきましょう。
紛失などしている場合は、登記簿謄本(登記事項証明書)を取得しておき(どこの法務局でも取得できます)、取得から一定期間経過したら再度取り直して更新しておくとよいでしょう。
(4)その他の資産の整理
貴金属など価値のある動産や車、ゴルフ会員権などや、貸金庫を借りていればその情報など一切に漏れがないように一覧を作成しておくべきです。
自分にしか価値がないと思っているコレクターアイテムなども鑑定すると、実は価値があるモノかも知れませんので、まとめておくべきでしょう。
また、パソコン、スマホなどのアカウントIDやパスワード、メールアドレスは抵抗がなければそれらの情報も書いておくべきです。
詳しくは<デジタル遺品について>
そのメモなどはたとえば、貸金庫の中や、預金通帳に挟んでおくなど、死後、なるべく相続人が発見しやすいようにしておくことです。
(5)負債などマイナスの財産の整理
プラスの財産と違い借金や未払い税金、未払い社会保険料などのマイナスの財産の情報は親族に対しても明かしていない場合がよくあります。
債権者からの突然の請求で相続人があわてないように借入先や契約書、借入残高が分かる資料などはまとめて保管しておくべきです。
また、他人の借金の保証人になっている場合はその保証債務も相続されますので、注意すべきです。
支払い関係の情報も一覧にしておくことをオススメします。
たとえば、携帯電話やインターネットのプロバイダーの連絡先などです。その他会員費、年会費など、定期的にかかっている料金の連絡先も記載しておくとよいでしょう。
2.遺言書を作成しておく
遺言書、できれば公正証書遺言を作成しておくのも良いです。
遺言書を書く際、財産の分け方などのほかに、相続人への感謝の言葉など「付言事項」を書いておくことを強くオススメします。
付言事項があるだけで、相続人間のあつれき、紛争を未然に防止することができるかも知れません。
また、兄弟姉妹を除く相続人には遺留分があるので、作成にあたり遺留分には配慮する必要がありますが、遺留分を侵害する遺言であっても法的に有効です。
近年一般化してきたいわゆる「エンディングノート(終活ノート)」を書いておくのもよいですが、遺言書のように法的な効力はありません。
したがって、エンディングノートを書いたから遺言書は書かなくていいことにはなりませんし、エンディングノートを使って名義変更など相続手続きをすることはできません。
ただし、エンディングノートとされるものが自筆証書遺言の要件を満たしており、法定遺言事項が書かれている場合は自筆証書遺言と判断できる余地はあります(あくまで余地がある、といった認識にとどまるものです)。
3.戸籍謄本を取っておく
自分の出生から現在までの戸籍謄本をあらかじめ取得しておくのも良いです。
詳しくは<被相続人の出生から死亡までの戸籍ってどういうこと?>
相続開始後、すぐに名義変更などの諸手続きに移ることができますので、相続人の負担を軽減できます。
本籍地の役所から取得していきましょう。
相続手続きにおいては、基本的に出生からのものが必要です。親の本籍地に入っていた戸籍謄本も当然必要になってきますので、それも取得します。
なお、戸籍謄本や住民票などは郵送でも取得できます。
詳しくは<戸籍を郵送請求する場合の定額小為替ってなに?購入方法は?>
4.まとめ
相続人のためにもぜひ、財産目録・一覧図は作成して、関係資料はまとめておき自己の財産を明らかにしておくことをオススメします。
作成しておくことによって正確、迅速に遺産整理を行え、円滑な資産承継ができます。
場合によっては相続人が相続を承認するか相続を放棄するかの判断材料にもなります。
先のこと、自分が亡くなったときのことを考え行動に移すことは簡単なことではありませんが、早い段階から準備を始めることが、相続人の負担軽減は当然として、遺産争いなど「争続」の回避、予防にもつながることでしょう。