代理権がなくても口座から引き出せる?認知症になる前に

1.代理権がなくても認知症患者の口座から引き出しができる?

先日、認知症になった本人の預金について、全国銀行協会(全銀協)は、法的な代理権のない親族からの引き出しを認める見解を示した、という旨の報道がありました。

金融機関として、現実に即した指針と言えます。

いままでは、認知症の本人の口座からお金を引き出すには、成年後見人を選任するなどの手続きが必要でした。

詳細は今後示されると思いますが、引き出しにあたり以下のような取り扱いになるようです。

認知症かどうかの確認がされる

代理権のない親族が引き出す前提として、当然、本人が認知症かどうかの確認はされることになります。

その方法として医師の診断書や本人との個別面談で確認・対応していくようです。

ただし、今後、ますます増えていくことが確実の認知症患者数から言って、実際、現場においてこの取り扱いがスムーズに運用されるかは未知数ではないでしょうか。

親族に限定される

本人以外の者からの引き出しを認めるわけなので、親族関係が必要になります。まったくの第三者は想定されていません。

戸籍謄本などで親族関係を証明する必要があります。

引き出したお金の使い道は限定される

引き出したお金の使い道は本人の医療費や介護費の支払いに限定されるようなので、税対策や相続対策、資産形成などには使えないでしょう。

また、私的流用防止のため、払戻金を親族には渡さずに銀行から直接、医療機関、介護施設などの支払先へ振り込む方法も検討されているようです。

迅速な対応が期待できるが、将来の相続人間でのトラブルも

今回報道された内容が実際に運用され始めると、法的に正当な代理権がなくても他人の口座からお金を引き出すことができるため、迅速な対応が期待できます。

医療機関などから支払いを求められているのに、本人が口座から引き出せないため支払えない、事実上家族が立て替えている、といったことは珍しくありません。

成年後見人を選任する場合、申立て準備から審判確定までとなると、ある程度の時間がかかってしまいます。

それが、成年後見制度利用を基本、前提としつつも、本人の利益に沿うことを条件として親族が本人の口座から引き出すことができば、迅速な対応が可能となります。

一方で、親族間(当然本人含む)でトラブルが発生するおそれもあります。

たとえば、長男がこの制度を使って医療費の支払いのために代理権のないままでも引き出せたとします。

しかし、もう一人の子、次男としては、

「自分の知らないところで勝手に親の金を引き出した」

と、あらぬ疑いをかけられるおそれもあります。

したがって、他の相続人には事前に報告しておくなど、引き出す親族としては何かしらの対応を取っておくことが求められるでしょう。

2.成年後見人制度が想定ほど利用されていない現実

厚生労働省の発表によると2025年には認知症患者数は700万人に達すると言われています。

軽度認知症障害(MCI)の方を加えると、その数はさらに増えることが予想されます。

一方、成年後見制度利用者数は、令和1年12月末日時点において、わずか22万人超に過ぎません。

その理由として、いったん成年後見人を選任してしまうと、

・成年後見人選任の目的(不動産売却や保険金受領など)を達したとしても、原則本人が亡くなるまで継続すること

・本人のためにしか財産を使えないため実情に即した、柔軟な対応ができない場合があること(贈与や相続税対策など)

・身近な親族ではなく専門職などのまったくの他人に財産を管理してもらうことに抵抗感を覚える

などから、制度の利用に踏み出せない方もいらっしゃいます。

また、専門職が成年後見人に選任されると、報酬も発生します。

報酬金額は本人の財産規模や業務の難易度を考慮して家庭裁判所が決定しますが、月額2万円から3万円が相場のようです。

そのほか、適任者がいない、手続きが煩雑、事実上家族が管理している、など理由は様々ですが、いずれにしても、統計上明らかように成年後見制度が発足した当初、想定していたものに比べて成年後見制度の利用者数が圧倒的に少ないのが現状です。

3.認知症になる前に対策を

認知症になってしまったら成年後見人を選任するしかなくなります。本人に判断能力、意思能力がないため、法律行為ができなくなるからです。

そのため、認知症になる前に、対策をしておくことも有用です。

たとえば、信頼できる人がいるのであれば家族信託を利用するのも検討してもよいかもしれません。

また、元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、自分が任意後見人を選ぶことができます。

契約なので、(その人が受任してくれるかどうかは別問題ですが)だれを任意後見人とするかは自由です。

また、遺言書を書いておくことで、将来的な不安を取り除くことができるかもしれません。

いずれにしても、判断能力のあるうち、認知症になってしまう前に行っておくものです。

自分が認知症になった後、亡くなった後のことを考え、

・どのような対策を打っておけばよいか

・どのような選択肢があるか

・何が最善か

まずは専門家に相談することをオススメします。

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