相談事例
父の長男である私は、2か月前亡くなった父の遺言により、父の全財産を相続しました。
ところが、先日、姉から内容証明郵便が届き、そこには「私の遺留分を侵害しているため、侵害額に相当する1000万円を支払ってほしい」と書かれていました。
相続した遺産は不動産しかなく、とてもそのような大金を用意できないため、姉と話し合って、1000万円を支払う代わりに私の所有する不動産を姉に譲渡することにしました。
この場合、税金はかかるのでしょうか。かかるとした場合、どのような税金でしょうか?
1.代物弁済
相続法の改正により、遺留分を侵害している場合その遺留分の清算については「お金で解決する」ことが原則になりました。
改正前はお金で解決するのではなく、侵害された者と侵害している者とで相続財産の共有状態となっていましたが、様々な弊害、不都合が起こっていたためこの度の改正に至りました。
詳しくは<お金で解決?遺留分減殺請求との違いは?遺留分侵害額請求権>
しかし、お金で解決とは言っても、遺留分侵害額請求を受けた者がまとまったお金を用意できないこともあります。
むしろ、用意できないことの方が多いのではないでしょうか。
そのような場合に、当事者の合意によりお金以外のモノを提供して解決することがあり、これを「代物弁済」(だいぶつべんさい)といいます。
文字どおり代わりの物で弁済するということです。
その「代わりの物」は当事者が納得すれば不動産に限られず、株式などでも構いません。
この代物弁済、
・相続した財産が不動産しかない
・遺留分侵害額に相当するお金を用意できない
といった場合に取られることがあります。
場合によっては効果的な方法ですが、一方で税務上留意しておく点があります。
ちなみに、お金を支払う場合、期限の許与(支払い猶予)を裁判所に求めることもできます(裁判所が認めれば、分割弁済も可能です)。
詳しくは<期限の許与とは?遺留分侵害額請求をされたけどお金がない場合の対処法>
2.代物弁済により侵害請求を受けた者の課税関係
遺留分侵害額請求にあたり、税務上の取り扱いが変わったところがあるので要注意です。
譲渡所得税・住民税
遺留分侵害額請求を受けた者が金銭以外(不動産や株式など)で代物弁済をした場合の課税関係です。
相談事例のように、ある相続人が別の相続人に1000万円の侵害額請求を受けたとします。
しかし、請求を受けた方としては「そのような大金を用意できない」となり、自分の持っている不動産(相続した不動産でも構いません)をかわりに提供して、1000万円の支払いを免れる合意ができました。
お金の代わりに不動産で弁済する、代物弁済です。
その不動産は当時1000万円で購入したものですが、現在の評価は2000万円とします。
そうすると、この場合、侵害額請求を受けた者が1000万円の利益を得ていることになる、つまりは1000万円で買った不動産を2000万円で売ったとみます
1000万円については遺留分侵害額請求を受けた者の収入として、譲渡所得税・住民税の課税対象となってしまうのです。
3.代物弁済により侵害請求をした者の課税関係
代物弁済を選択した場合、侵害請求をした者の課税関係も注意する必要があります。
登録免許税
不動産で代物弁済した場合です。
名義変更の登記の登録免許税は、固定資産税評価額の2%です。通常は遺留分侵害額請求をした者(登記名義を受ける者)が負担します。
不動産取得税
不動産で代物弁済を受けたのであれば、遺留分侵害額請求をした者に対して不動産取得税がかかります。
4.まとめ
相続法改正により遺留分侵害額請求は「金銭請求権」になりました。
相続法改正前では、遺留分侵害額請求によって遺産は当然に相続人間の共有状態となっていたので、「譲渡」という考え方はありませんでした。
そのため、譲渡所得税・住民税の問題もなかったのですが、相続法改正により、税務上は取り扱いが変わってきました。
法務上(民法上)はわかりやすくなったといえますが、税務上はややこしくなった、といえます。
遺留分侵害請求を受けた方としては、代物弁済を考えているのであれば譲渡所得についても意識しておく必要があります。
しかし、課税されるような場合であれば、その額によっては遺贈を放棄することも検討する必要があります。
詳しくは<遺贈を放棄することはできるか?特定遺贈と包括遺贈の場合>
また、遺言書があったとしても遺産分割をすることは可能なので、遺留分の問題を考えた場合、相続人全員で遺産分割をすることも選択肢に入るかもしれません。
詳しくは<遺言書があるのに遺産分割協議はできる?遺言内容と異なってもいい?>