
相談事例
私は、父の遺言により全財産を相続したのですが、しばらくして姉から「私の遺留分を侵害しているため、侵害額に相当する1000万円を支払ってほしい」と内容証明郵便で請求を受けました。
相続した遺産は不動産しかなく、とてもそのような大金を用意できないため、姉と話し合って、1000万円を支払う代わりに私の所有する不動産を姉に譲渡することにしました。
この場合、税金はかかるのでしょうか。かかるとした場合、どのような税金でしょうか?
1.代物弁済
相続法の改正により、遺留分を侵害している場合その遺留分の清算については「お金で解決する」ことが原則になりました。
改正前はお金で解決するのではなく、侵害された者と侵害している者とで相続財産の共有状態となっていましたが、様々な弊害、不都合が起こっていたため改正に至りました。詳しくは<お金で解決?遺留分減殺請求との違いは?遺留分侵害額請求権>
しかし、お金で解決とは言っても、遺留分侵害額請求を受けた者がまとまったお金を用意できないこともあるでしょう。
そのような場合に、当事者の合意によりお金以外のモノを提供して解決することがあり、これを「代物弁済」(だいぶつべんさい)といいます。
文字どおり代わりの物で弁済するということです。
その「代わりの物」は当事者が納得すれば不動産に限られず、株式などでも構いません。
この代物弁済、
・相続した財産が不動産しかない
・遺留分侵害額に相当するお金(場合によっては数千万円にもなる)を用意できない
といった場合に取られることが多く効果的な方法ですが、一方で税務上留意しておく点があります。
なお、遺留分侵害相当額の支払にあたり、期限の許与(支払い猶予)を裁判所に求めることもできます。詳しくは<期限の許与とは?遺留分侵害額請求をされたけどお金がない場合の対処法>
2.侵害請求を受けた者の課税関係
遺留分侵害額請求にあたり、税務上の取り扱いが変わったところがあるので要注意です。
譲渡所得税・住民税
遺留分侵害額請求を受けた者が金銭以外(不動産や株式など)で代物弁済をした場合の課税関係です。
相談事例のように、ある相続人が別の相続人に1000万円の侵害額請求を受けたとします。
しかし、請求を受けた方としては「そのような大金を用意できない」として、自分の持っている不動産(もちろん、相続した不動産でも構いません)をかわりに提供して、1000万円の支払いを免れる合意ができました。
代物弁済です。
その不動産は当時1000万円で購入したものですが、現在の評価は2000万円とします。
そうすると、この場合、侵害額請求を受けた者が1000万円の利益を得ていることになる、つまりは1000万円で買った不動産を2000万円で売ったとみるのです
1000万円については遺留分侵害額請求を受けた者の収入として、譲渡所得税・住民税の課税対象となってしまうのです。
3.侵害請求をした者の課税関係
代物弁済を選択した場合、侵害請求をした者の課税関係も注意する必要があります。
登録免許税
不動産で代物弁済した場合です。
名義変更の登記の登録免許税は、固定資産税評価額の2%です。通常は遺留分侵害額請求をした者(登記名義を受ける者)が負担します。
不動産取得税
不動産で代物弁済を受けたのであれば、遺留分侵害額請求をした者に対して不動産取得税がかかります。
4.まとめ
相続法改正により遺留分侵害額請求は「金銭請求権」になりました。
相続法改正前では、遺留分侵害額請求によって遺産は当然に相続人間の共有状態となっていたので、「譲渡」という考え方はありませんでした。
そのため、譲渡所得税・住民税の問題もなかったのですが、相続法改正により、税務上は取り扱いが変わってきました。
法務上(民法上)はわかりやすくなったといえますが、税務上はややこしくなったといえます。
遺留分侵害請求を受けた方としては、代物弁済を考えているのであれば譲渡所得についても意識しておく必要があります(最悪、「申告を忘れてしまった」ということにもなりかねません)。
課税額によっては、
・遺贈を放棄する
詳しくは<遺贈を放棄することはできるか?特定遺贈と包括遺贈の場合>
・相続人間の遺産分割協議に切り替える
詳しくは<遺言書があるのに遺産分割協議はできる?遺言内容と異なってもいい?>
ことも有用かもしれません。