1.成年後見人はなんでもできる?
成年後見人は、認知症などを患い判断能力を欠く状況になった人の法定代理人として、家庭裁判所により選任されます。
選任された成年後見人は、本人のために、本人に代わって、契約行為や財産管理、遺産分割などさまざまな法律行為を行うことができます。
広い権限(代理権、同意権)が与えられている成年後見人ですが、中にはできないこともあります。
なんでもかんでも成年後見人が本人の代わりにできるわけではないのです。
2.成年後見人ができないことは
◆身分に関する行為
身分に関する行為とは、たとえば、婚姻や離婚、子の認知、養子縁組、離縁などです。
これらは、一身専属的で、また本人の意思を尊重することがとても重要なため、代理になじみません。
むしろ、これらの事柄まで代理の対象としてしまうと、本人の意思決定権の尊重の面からいって問題があるでしょう。
他人が口を出すような話しではない、ということです。
◆遺言
遺言を残すも残さないも本人の自由ですが、成年後見人が代わりに書くことはできません。
これを認めてしまうと、財産への不当な干渉となり、成年後見人に特に有利となる遺言が作られる可能性もあります。
なお、認知症である本人は基本的には遺言書を作成することができませんが、例外的に、有効に作成できる場合があります。
詳しくは<認知症でも遺言書を書ける?成年被後見人が遺言書を書くには?>
◆日常生活上行った行為の取り消し
成年後見人は、任意後見人とは異なり本人がした行為を取消す権限があります。
たとえば、本人が高額な宝石を購入してしまった場合は、その売買行為自体を取り消し、代金を返してもらうことができます。
しかし、日常用品の買い物まで取消しの対象とすると、本人の最低限の意思決定まで奪い、行動や判断を過剰に制約してしまうことになり望ましくありません。
また、取消しを認めなくても日常生活上の用品は比較的安価であるため、本人が認知症のために間違って購入したとしても通常は損害が少なく、影響はそれほどないといえます。
したがって、日常生活上行った行為を取消すことはできません。
◆利益相反する行為
成年後見人と本人の利益が衝突する場合には、公正な代理が期待できない、といえます。
一方が得をすれば、他方が損をするという関係になるからです。
典型的な例としては、成年後見人と被後見人が共同相続人として遺産分割協議を行う場合です。
この場合、成年後見人は被後見人を代理できません。
成年後見人自らに有利な遺産分割を進めるおそれがあるからです。
そのため、家庭裁判所への申立てにより特別代理人を選任してもらい、その者が本人を代理して遺産分割協議を行います。
◆本人の居住用不動産の処分
重要な財産である居住用不動産を処分(売却など)することは、本人にとって非常に影響が大きいため、自由に行うことはできません。
この場合、処分について家庭裁判所の許可を得る必要があります。
詳しくは<認知症になった親の不動産売却>
◆医療行為の同意、承諾
本人に身寄りがない場合、医師から手術や治療方法などについて同意、承諾を求められることがあります。
しかし、成年後見人には医療行為について、同意する権限はありません。
同意したとしても、それは法律の裏付けがある同意とはなりません。
法律の整備がないまま今に至っているのが現状で、実務上も悩ましい問題といえます。
なお、親族が成年後見人となっている場合は、親族の立場として同意、承諾することは有効です。
3.まとめ
成年後見人ができない行為をまとめてみました。
できない行為は、できない理由がちゃんとそれぞれあります。
根底には、本人の自己意思決定する権限を最大限尊重し(自己意思決定権の尊重)、能力にかかわらず家庭や地域で安心して通常の生活を送れるようにする考え方(ノーマライゼーション)があります。
何ができて、何ができないのか。
線引きとして微妙なところもあるので、間違いのないよう専門家に相談することをオススメします。