贈与の活用による相続税の節税(暦年贈与)

1.相続税の基礎控除額の縮小

相続税法の改正により平成27年1月から相続税の基礎控除額がそれまでの6割に縮小しました。

その結果、相続税が課税される相続の割合が毎年4.2%前後だったのが、現在では8%を超えるまでになりました。

東京都に限ると平成29年度では16.2%にのぼります。

もはや相続税は資産家・富裕層にかかる税金とはいえなくなってきました。

そのため、相続税対策を考えなければならないケースが以前にも増してきました。

たとえば、生前贈与。

場合によっては相続時のかかる税金を減らすことができるかもしれません。

 

なお、贈与ではありませんが、生命保険を活用することによっても節税効果を望めます。詳しくは<相続対策に生命保険の活用事例とそのポイント>

 

2.贈与税の基礎控除

贈与税には基礎控除があります。

暦年(1月1日から12月31日まで)に合計110万円までの贈与については贈与税がかかりません。

長期間の贈与を計画し、毎年コツコツと贈与をしていけば相続時の財産を圧縮できますので、相続税の軽減につながります。

この基礎控除ですが複数人から贈与された場合であっても合計で110万円までです。

たとえば、AとBから同じ年に100万円ずつ、合計200万円を贈与されたとしても、110万円を超える90万円については課税されます。

なお、受贈者は1人と限定されていないので、たとえば3人に110万円を贈与すれば、一気に330万円分、財産を圧縮でき、結果、相続税の負担軽減につながります。

3.暦年贈与の際の5つの注意点

この暦年贈与を利用する際に注意すべき点としては主に次のものがあります。

①毎年(毎回)、贈与契約書を作成しておくこと

贈与契約は口約束でも成立します。しかし、言った言わないを防ぐため、贈与のたびに贈与契約書は作成しておくことです。

詳しくは<贈与契約書には何を書く?その書き方、作り方>

 

また、後述の定期贈与とされないためにも作成しておきましょう。

②金銭を贈与する場合は必ず振込の方法によること

現金を手渡しで渡すのではなく、取引履歴に残すために振込の方法によるべきです。

③名義預金のような行為は税務署から贈与性を否定される可能性があること

名義預金とは、たとえば親が子に金銭を振込んで贈与したが、子が無駄遣いしないよう、親が通帳と印鑑を預かっておくことです。

名義預金は、実質は親の財産と判断され、子に贈与した預金とは認定されない場合があります。

詳しくは<贈与がなかったことに?相続税が増える?名義預金の解説>

 

せっかく相続財産を圧縮して相続税の節税を図ったのに、名義預金とされ贈与を否定されると、想定外の税負担が生じる場合があります。

④相続開始3年内の贈与は無駄になる可能性があること

いわゆる駆け込み贈与対策です。

これは、たとえ110万円以内の贈与であっても相続開始3年内にされた贈与については相続財産に加算されてしまいます。

ただし、以下の贈与は3年内であっても加算されません。加算してしまうと制度の趣旨、意義を損ねてしまうからです。

 

①贈与の配偶者控除、いわゆるおしどり贈与(国税庁ホームページ)

②直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税制度(国税庁ホームページ)

 

なお、推定相続人以外の者への贈与については3年内であっても加算されません。たとえば、相続人ではない孫に贈与するケースです。

ただし、推定相続人以外の者が遺言によって遺贈を受けている場合は、その者に対する3年内の贈与は相続財産に加算されます。

⑤定期贈与とみなされないようにする

定期贈与とは、たとえば、贈与契約書に「総額1000万円を毎年100万円ずつ贈与する」と決めておくことです。

このような安易な決め方をすると、10年間で毎年100万円を贈与するが、実際にはそれは一つのまとまった贈与と認定され、一回で1000万円の贈与がされた、とみなされます。

つまり、定期贈与とされると、「総額1000万円」の部分に贈与税が課税されてしまいますので、贈与契約書の書き方には気を付けましょう。

また、場合によっては年によって贈与金額や贈与時期などをかえてみることも検討すべきでしょう。

4.まとめ

以上、暦年贈与を活用した相続税の節税対策でした。

毎回の贈与契約書作成など手間がかかりますが、申告も不要なため長期的に計画し、活用することで有効に、かつ、確実に相続税の節税につなげることができます。

相続時精算課税制度など他の制度と比較し、それぞれのメリット、デメリットを見極めたうえで最適な方法をとるとよいでしょう。

 

相続時精算課税制度について詳しくは<贈与の活用による相続税の節税(相続時精算課税制度)>

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