1.登記制度
不動産は非常に高額であるためまず、不動産取引において取引相手はその不動産の情報を詳細に知りたいと思います。
たとえば、購入希望者はその不動産の所有権者はだれか、土地の地積や建物の床面積はどれくらいかなどは当然気になるところです。
しかし、所有権などの「権利」というものは実際に目に見えるものではありませんので、目に見えるようにする、つまり公示する必要があります。
そのために、不動産登記制度があります。
それらの情報を登記し、登記簿という公文書に一般に公示することによって取引安全を実現しています。
登記簿にはその不動産の所在、地積、地目など物理的な状況の表示から、過去や現在の所有権者の住所、氏名、その不動産に抵当権などの担保権がついているかどうかなどが記載、公示されています。
登記簿を見ればそれらが一目瞭然となり、取引の安全を担保しています。
2.登記の対抗力
また、登記には対抗力というものがあり、登記をすることによって当事者以外の第三者にその不動産の所有権を対抗・主張できます。
たとえば、まれなケースですが二重譲渡(AがBに譲渡したが、その後Cにも譲渡した)がされた場合、2番目に譲渡を受けたCが先に名義変更登記を備えてしまえば、最初に譲渡を受けたBはCに所有権を対抗することができません。
つまり、登記をした早い者勝ちです。
Bは別途、民事訴訟でCと所有権を争うことになり、時間や労力、お金を使うことになります。
せっかく不動産を買ったのに、とんだ羽目になってしまうのです。
そのため、売買であれば買主に、贈与であれば受贈者に権利(所有権)が移転しますので、それらの者は対抗力を得るために登記をし、自己に名義を変更しておくのです。
3.相続登記はしなければならないか?
登記制度というものは簡単にいうと前述のとおりです。
そして、当然、売買や贈与などと同様、相続でも登記という問題が起こります。相続が発生すると、被相続人の権利は相続人に承継されるからです。
しかし、不動産の登記制度は「申請主義」を取っています。
買主や相続人などは、登記を申請し、自己の名義に登記がなされることによって、対抗力などの利益・効果を受けることができるのです。
したがって、相続であれば、被相続人名義から相続人名義に自動的に名義が変更されるわけではありません。
そのため、相続登記がされないまま放置される不動産が出てくるのです(なお、相続登記の申請は義務化され、令和6年4月1日に施行されることになりました)。
相続登記をしないと、以下のように数々のデメリット、不都合が生じます。
4.相続登記しないことによる5つのデメリット
相続が発生し、遺産分割協議なども終わったのにちゃんと相続登記をしないで、被相続人名義のままにしておくと次のようなデメリットがあります。
(1)放置により相続人数が増える
相続登記をせず、名義人を被相続人にしたまま長期間経過すると、当然、数次相続が発生する可能性が高くなります。
それこそ相続人が10人以上、中には30人、40人となり、そこまでいくと共同相続人であってもお互いに面識、繋がりがないことが容易に想像できます。
一般的に遺産分割協議は人数が多ければ多いほど合意できる可能性は低くなってくる中で、会ったこともない、名前さえ知らない相続人と意思形成をすることは非常に困難になります。
結果、そのまま放置、塩漬け状態となってしまいます。さらに、時間が経つほど戸籍謄本や住民票などの書類が保存期間満了により廃棄処分され、必要書類が揃わないといったリスクもでてきます。
(2)認知症の方や行方不明者の存在
相続人が増えていくにつれ、相続人の中に認知症を患っている人や行方不明者などが含まれる可能性も高くなり、その際は別途、家庭裁判所で所定の手続きを必要とします。
家庭裁判所での手続きは時間のかかるものが多く、煩雑となります。
「認知症などで遺産分割協議が合意できないから、とりあえず相続人全員の共有名義で」
と考えがちですが、全員名義にした結果、適切な管理や売却などの処分をすることが困難となります。
(3)売却したくてもできない
相続人がその不動産を売却しようとしても、被相続人名義のままだと売買登記をすることができず、買主名義に変更できません。
したがって事実上売却できない状態になります。相続人名義を省略、飛ばすことはできません。
(1)とも関連しますが、いざ売却しようとしたが、長期間放置した結果、相続人の数が何十人にも及び、相続人名義にできないため売却もできないということになります。
何十人レベルではなくとも、多人数に及ぶことによって遺産分割協議の成立が遅れ、最適な売却時期を逃すことにもなりかねませんし、価値の減少を招く可能性もあります。
売却できないことによって年々、固定資産税や維持・管理に要する費用もかかってきます。
(4)不動産を担保にお金を借りられない
被相続人名義の不動産を担保にして相続人が銀行からお金を借りようとしても被相続人名義のままだと抵当権の設定登記ができないため、ほかに相応の担保がなければ借入ができません。
売却とも関連しますが、最適な時期に融資を受けることができない、もしくは資金難なのに融資を受けれないといったことにもなります。
(5)法定相続分を超える持分を第三者に対抗できない
相続法改正により、たとえば相続人の一人に不動産をすべて相続させる遺言があったとしても、その相続人は名義変更登記をしていなければ本来の法定相続分を超える部分については第三者に対抗できなくなりました。
たとえば、遺言で不動産全部を遺贈されたが、登記なんて面倒と思い、単独名義にしないでそのまま放置していたとします。
他の相続人が登記簿を確認したところ、まだ受遺者名義に登記されていないことを見つけました。
これはチャンスと思った他の相続人は、法定相続分で相続人全員名義の登記をしてしまいました(これは「保存行為」といって可能です)。
その後、自分の持分(仮に3分の1とします)だけを第三者に売却しました。
こうなると、もはや受遺者はその持分3分の1については第三者に主張、対抗できなくなります。
受遺者が持分3分の2、第三者が持分3分の1の共有名義となってしまうのです。
遺言書で所有権全部の不動産を遺贈されたのに、登記を放置した結果、このようなことが起こりえるのです。
詳しくは<早い者勝ち?遺言で不動産を相続したのに相続登記をしていないと・・・>
5.まとめ
令和6年4月より相続登記申請は義務化されますし、前述のようなデメリットを考えると、できるときに済ませておいた方が無難です。
早めにやっておくことに対してデメリットは何もありません。
後々あせったり、面倒なことにならないよう、まずは必要書類の収集などできるところから始めることです。
何をすればよいか、今後どう動けばよいかなど、分からないことがあれば早めに専門家に相談することをオススメします。