親が認知症になったら?成年後見人の申立て方法

1.判断能力を欠いている場合

認知症になると、判断能力を欠く状況になり、正常、正確な意思表示ができなくなり各種契約行為を単独で有効に行うことや、適切な財産管理などができなくなってしまいます。

たとえば、認知症を患っている一人暮らしの高齢者が悪徳業者によって高額な商品を購入させられたり、家のリフォーム契約を強引に結ばされた場合はどうすればよいか。

これらの場合、本人は判断能力を欠いていますので、自ら意思決定やアクションを起こすことは期待できませんので泣き寝入りという結果になってしまいます。

むしろ、騙されたとさえ思わないかもしれません。

また、不動産などの重要な財産を売却したり、老人ホーム施設と入所契約をしたいが、認知症であるためそれらを有効にできない場合もあります。

しかし、それはやはり弱者の保護に欠けますし、社会にとっても大きな不利益です。

2.成年後見人制度

そこで、本人のために契約行為や財産管理、身上監護、場合によっては訴訟行為などを行う者として成年後見人制度があります。

成年後見人は本人の法定代理人として、本人の分身のような立場で法律行為を行うことができます。

事実上、親族が財産管理や施設との入所契約行為を行っている場合も当然ながらあるでしょうが、それら親族の行為は法律で裏付けされたものではないため、やはり、今からでも成年後見人を選任しておき、法律の根拠のもとで行うべきでしょう。

後見人制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。成年後見人が選任されるケースは法定後見にあたります。

 

なお、任意後見について詳しくは<任意後見とは?手続きの流れやポイント>

3.成年後見人選任申立て

成年後見人は家庭裁判所の審判により選任されます。本人の住所地(※)を管轄する家庭裁判所に申立てます。

(※住民票上の住所地に限らず、施設や病院など実際に生活の本拠としている場所を住所地とすることもできます)

あくまで申立てを必要とします。家庭裁判所が自ら職権で、成年後見人を勝手に選任してくれるわけではありません。

申立人は次の者です。

◆本人

◆4親等内の親族

「親族」とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族のことをいいます(民法第725条)。

つまり、「4親等内の親族」とは配偶者と4親等内の血族、3親等内の姻族となります。

なお、血族には自然血族(子、兄弟姉妹など)と法定血族(養子縁組により生じた養親子)の2種類がありますが、どちらも血族であることは変わりませんので、違いはないです。

姻族とは結婚により親族になった者(義理の父母、義理の兄弟姉妹など)や、血族の配偶者(兄弟姉妹の配偶者など)のことです。

◆未成年後見人、未成年後見監督人

◆保佐人、保佐監督人

◆補助人、補助監督人

◆任意後見受任者

◆任意後見人、任意後見監督人

◆検察官

検察官からの申立てはあまり(ほぼ)ありません。

◆市区町村長

本人の福祉を図るために市区町村長から申し立てられるケースで、最近は増加傾向にあります。

4.申立てに必要な書類など

申立てに必要な書類は他の家事事件と比べ、多くなっており、主に次のとおりです(家庭裁判所によって名称は異なる場合がありますが、基本的な中身は同じものです)。

①申立書

②後見人等候補者事情説明書

③申立事情説明書

④財産目録

裏付け資料として登記簿謄本や固定資産税評価証明書、通帳のコピーなど

⑤収支状況報告書

裏付け資料として年金通知書や源泉徴収票など収入を示すもの、施設費、入院費、税金関係の各種支払いの領収書など支出を示すもの

⑥親族関係図

⑦同意書

後見人が選任されることについての推定相続人の同意書

⑧医師の診断書

⑨本人情報シート

⑩収入印紙3400円(申立用、登記用)

⑪連絡用の切手

以上のほか、本人の戸籍謄本や住民票、候補者の住民票、本人が後見登記されていないことの証明書など多くの書類が必要となります。

家庭裁判所の判断で、必要であれば医師の精神鑑定がされることもあり、鑑定費用は一般的に10万円から15万円ほどかかります。

家庭裁判所や時期、事案にはよりますが、申立てからだいたい1か月、長くても2か月で成年後見人が選任されます。

5.成年後見人にはだれが選ばれる?

後見人は身近な親族のほか、弁護士や司法書士などの法律専門家から選任されます。

親族間に争いがある場合や、(プラス、マイナス含め)財産が多額の場合、後見人候補者が高齢(70歳以上)の場合などは専門家などの第三者から選任されることがあります。

また、親族が成年後見人に選任された上で、成年後見人を監督する者として司法書士などが成年後見監督人として選任されることもあります。

後見人に予定されている職務が財産管理や紛争予防などではなく、身上監護中心の場合は社会福祉士などが選任されることもあります。

成年後見人の職務は財産管理、不動産の処分、介護施設契約、遺産分割など多岐にわたるため、第三者の専門家が選任される割合が高いです。

平成30年でみると、7割以上は親族以外の第三者が選任されています。

なお、最高裁判所は近時、成年後見人は親族が望ましいとする見解を示しました。

6.申立ては原則、取下げることはできない

一度申立てると、次のような理由で申立てを取下げることはできません。

◆申立ての動機、目的がなくなった、すでに解決したのでやめたい

たとえば不動産を売却するために申立てたが、売却する必要がなくなったなどです。

◆候補者を立てたが、違う人物が選任されそう

意中の人ではないことを理由としての取下げはもちろん、異議申し立ても一切できません。

◆成年後見人制度をよく理解していなかった、思い違いをしていたため、やめたい

思っていたより業務が大変そう、財産管理できない、制約がありそうなどを理由にやめることです。

7.家庭裁判所の許可を得れば取下げることはできる

平成25年1月1日以前は申立てを取下げることは比較的自由にできましたが、法改正によって、家庭裁判所の許可を得なければ取下げることができなくなりました。

前述の理由で取下げを申立てても許可されることはありません。許可されるとすれば申立て後、成年後見人が選任される前に本人が死亡した場合などで、非常に限られるでしょう。

8.選任後は本人のためだけに職務を行う

成年後見人は本人が亡くなるまで、または判断能力を完全に回復するまで、本人のために家庭裁判所の監督のもと、財産管理、収支管理や身上監護などの職務を行っていきます。

財産管理を行っていくうえで出納帳を書いておくことが重要です。

また、領収書の保管も必要になってきます。家庭裁判所に管理報告を求められたときに速やかに提出できるようにしておきます。

扶養などを除き、基本的に本人の財産は本人のためにしか使うことはできません。財産を節税対策に使ったり、投資など利殖行為にあたるようなことは基本的にできません。

この制度は良くも悪くも本人の利益を図ることのみを考えます。財産を税対策や資産活用などにも使える家族信託に比べ柔軟性に欠ける部分はあります。

9.成年後見人の報酬

成年後見人の報酬は本人の財産から家庭裁判所が決定した金額を受け取ります。申立人や親族が負担するわけではありませんし、家庭裁判所から支払われることもありません。

家庭裁判所に決定権があるため成年後見人が勝手に口座から引き出したりすると場合によっては横領とされることもありますので注意が必要です。

金額は管理している財産額やその後見業務の難易度の度合い、労力などを考慮して決定されます。

基本的には月2万円から4万円くらいです。

なお、親族が成年後見人となる場合、報酬を求めないことが多いです(もちろん求めても問題ありません)。

10.成年後見人ができない行為

成年後見人は本人の法定代理人といっても、なんでもできるわけではありません。意外に勘違いされている部分もあるので、事前に把握しておく必要があります。

 

詳しくは<成年後見制度の誤解、勘違いなど>

11.まとめ

今後、認知症になる高齢者の数は確実に増えていきます。そのようななか、認知症の方の数からみると成年後見人が選任されている割合は非常に低いです。

人的制限や医療同意権限の問題など、クリアすべき課題は多くありますが、被後見人の財産維持、生活向上を図るうえで、今後ともなくてはならない制度、存在でしょう。

基本的に申立ての取下げができないため、申立てを考えているのであれば、よく検討し、必要かどうかの判断に迷った際は専門家に相談することをオススメします。

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