2020年4月1日から配偶者居住権の制度がスタートしました。
この制度を利活用すれば、配偶者の生活保障を一定程度確保しつつ、そのまま自宅に住むことができます。
詳しくは<配偶者はそのまま住み続けられる?配偶者居住権とは>
この配偶者居住権とは別に、「配偶者短期居住権」も同時に始まりました。
以下では、この配偶者短期居住権を、配偶者居住権と比較しながら解説していきます。
1.配偶者短期居住権とは
配偶者短期居住権とは、被相続人の家に住んでいた配偶者(※)が、その後、一定期間、タダで使用し、住むことができる権利です。
(※法律上の配偶者で、内縁配偶者、事実婚当事者などは含まれません)
相続開始後、配偶者がすぐに住む場所を失うことのないよう、配偶者保護のために制定された権利です。
この権利は相続開始によって当然に発生し、取得します。
配偶者居住権のように遺贈や遺産分割では取得しません。何もしなくても発生する権利です。
2.配偶者短期居住権の存続期間
配偶者居住権の存続期間は、原則、配偶者が死亡するまで(終身)です。ただし、遺言や遺産分割で存続期間を自由に定めることができますが、
一方、配偶者短期居住権は、以下の日のいずれか遅い日までとされます。
◆遺産分割により他の相続人が居住建物を相続した日
または
◆相続開始から6か月を経過した日
たとえば、相続が開始し、遺産分割協議で他の相続人が自宅を相続したのが相続開始後5か月後だとしたら、配偶者短期居住権は相続開始から6か月が期限になります。
遺産分割で相続したのが5か月後ではなく7か月後だとしたら、その日が配偶者短期居住権の期限になります。
いずれか遅い日まで、とはこういうことです。
つまり、最低でも6か月は住み続けることができる、ということです。
配偶者としては、この期間内に引っ越したり、別の住まいを探したりすることになります。
その準備や対応する期間として「6か月の猶予があれば十分でしょう」ということです。
なお、期間の上限はないため、遺産分割協議がされないまま時が経過していけば、実際には、短期といいながらも長期間住み続けることが可能となります。
極端な例ですが、配偶者が亡くなるまで遺産分割がされず、建物の相続人が確定しない状況が続けば、結果的に、終身住み続けることができます(ただし、後述のとおり登記ができないため、立ち退き要求のリスクなどはあります)。
3.相続放棄をしても取得できる
相続放棄により相続権を失った配偶者であっても、建物の所有権を取得した者が配偶者短期居住権の消滅の申し入れをした時から6か月を経過する日までは配偶者に短期居住権が認められます。
相続放棄した配偶者であっても最低でも相続開始から6か月は住み続けることができます。
逆に言うと消滅の申し入れがされない限り、ずっと住み続けることができる、ということになります。
なお、同じように相続権を失うことになってしまう相続欠格、相続人廃除の場合は、配偶者短期居住権は成立しません。
相続欠格となったり、相続人廃除されるような配偶者を保護する必要性がないからです。
4.他の者との共有でも成立する
建物所有権が被相続人と配偶者以外の者との共有であっても配偶者短期居住権は成立します。
一方、配偶者居住権は、被相続人が配偶者以外の者と共有している場合は成立しません。
配偶者短期居住権は法律上、当然に発生する権利だからです。
5.配偶者短期居住権が及ぶ範囲は居住部分のみ
配偶者短期居住権により認められる使用部分は、あくまで従前の居住部分に限られます。
たとえば、2階で居住していたのであれば、1階は使用できません。
なお、配偶者居住権は建物全体を使用、収益することができます。
6.配偶者短期居住権は登記できない
配偶者居住権は登記でき、登記をすることにより権利が保護されます。
詳しくは<配偶者居住権の登記はどうやる?配偶者居住権の登記のポイント>
しかし、配偶者短期居住権は登記できません。
配偶者居住権と違い、法律上当然に生じる権利なので、登記を認めてまで保護する権利ではありません。
配偶者短期居住権は、言うなれば応急措置的な扱い、です。
登記ができないため、第三者にこの権利を主張し、対抗することができません。
たとえば、遺産分割協議により建物を相続した相続人(子など)が早々に自宅を売却し、この時点で、居住権が認められる最低期間の6か月はすでに経過している状態であれば。
配偶者は、その第三者に配偶者短期居住権を主張することができないため、早々に立ち退きを求められるおそれもあります。
7.配偶者短期居住権の評価、価値は
配偶者短期居住権の評価、権利の価額はありません。
ゼロです。
法律上、当然に発生する権利なので、評価されるものではありません。
配偶者短期居住権を取得したとしても、評価がゼロなので、特別受益などにはあたらず、相続分で不利になったり、取り分が減るようなことはありません。
したがって、配偶者短期居住権の取得を理由に、他の相続人から遺産分割で不利な要求を受けた場合は、明確に拒絶することです。
ちなみに、配偶者居住権はどうか。
遺言や死因贈与で配偶者居住権が設定された場合は、それが特別受益にあたり、配偶者の取り分が減るなど相続分が調整がされる可能性もありますが、配偶者居住権が遺贈された場合、婚姻20年以上の夫婦であれば特別受益とはなりません。
つまり、相続分の算定にあたり、配偶者居住権は評価しないため、遺産分割で取り分が減るようなことはありません。これを、「持ち戻し免除の推定」といいます。
8.配偶者の義務は?
配偶者短期居住権者は、善管注意義務や費用負担、修繕義務などを負います。
また、配偶者短期居住権は譲渡できません。
これらは、配偶者居住権の場合と同じです。
9.まとめ
この配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり法律上当然に成立するものです。
上述のとおり、両者は違いが多いので、混同しないよう注意を要します。
違いとして大きいのは配偶者短期居住権は登記ができない点でしょう。第三者に対抗する術がないため、場合によっては立ち退きを要求されるおそれがあります。
配偶者を最低限度で保護する権利なので、さらなる保護を図るのであれば、別途、遺産分割や遺言などで配偶者居住権を設定し、登記する必要があります。