いくら請求できる?遺留分侵害額の計算方法

1.遺留分侵害額請求の前に

遺留分は、相続人の最低限の取り分として、兄弟姉妹以外の相続人に認められる権利です。

たとえば、被相続人が遺言を書いたとします。

その遺言内容がある相続人の遺留分を侵害するものであったとしても、遺言そのものが無効となることはありませんが、受遺者など、遺留分を侵害している者は遺留分権利者から「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があります。

遺留分侵害額請求とは、侵害額相当のお金を請求されることです。

では、実際に遺留分を侵害しているかどうか、いくら侵害されているのか、それはどうやって計算するのか、ですが、以下のプロセスにしたがって遺留分侵害額を出していきます。

①遺留分割合を計算

はじめに相続人の遺留分割合を計算します。

相続人が配偶者A、子B、Cの場合、各人の遺留分割合は、

4分の1(2分の1×法定相続分4分の2)

8分の1(2分の1×法定相続分4分の1)

8分の1(2分の1×法定相続分4分の1)

となります。

遺留分をいくら侵害しているかどうかを計算する前に、遺留分割合を出すことからはじまりますので、まずは相続人全員の法定相続分を把握しておく必要があります。

②遺留分算定のための基礎財産を計算

①で遺留分割合を出したあとは遺留分を算定するための基礎財産を計算します。

当たり前ですが基礎財産の額を確定させないと、「いくら侵害しているか」を出すことはできません。

その基礎財産の額、以下のようにして計算します(評価の基準時は相続開始時であり、金銭が贈与された場合は相続開始時の貨幣価値に換算)。

被相続人の相続開始時の積極財産+相続人にされた相続開始前10年以内の特別受益としての贈与+相続人以外の第三者にされた相続開始前1年以内の贈与-相続債務

この式から出た金額が、「遺留分算定のための基礎財産の額」となります。

相続人にされた贈与ですが、特別受益に該当する贈与に限られるため、特別受益とはいえない贈与は含まれません。

なぜなら、相続人間の贈与は日常的に行われるケースもあり、そのすべてを含めるとすると法律関係を複雑化にするおそれがあるためです。

なお、相続法改正前は相続人にされた特別受益としての贈与に10年以内といった期限はなかったため、特別受益としての贈与である限り、何十年前の贈与も含む必要がありました。

 

特別受益について詳しくは<特別受益とは?なにが特別受益にあたる?>をご覧ください。

 

贈与の基準時ですが、実際に贈与を履行したときではなく、贈与契約をしたときになります。

たとえば、第三者へ贈与する贈与契約が相続開始の2年前にされたが、実際にその贈与契約にしたがって履行されたのが相続開始の半年前だとしても、契約が2年前にされている以上、1年以内にされた贈与にはあたりません。

相続債務は借金に限らず、税金などの公法上のものも含まれます。

③遺留分額の計算

次に、遺留分額を計算します。

遺留分算定のための基礎財産額に、①で出した各人の遺留分割合を乗じます。

④遺留分侵害額の計算

③で出た遺留分額から、

・遺留分権利者が受けた特別受益としての贈与・遺贈の額

・遺留分権利者が相続した額

「控除」したあとに、

・遺留分権利者が承継する債務額

「加算」します。

承継する債務の額は、法定相続分によるのではなく実際に相続する持分となります。

たとえば、相続人Aに全財産を相続させる遺言があることにより、相続人Bの相続分がゼロの場合、Bの侵害額の計算においては債務を加算することはできません。

Bは相続する持分がなく、したがって遺留分侵害額の計算上では承継債務がないためです。

そして、その出た金額によって遺留分が侵害されているのか、侵害されているとしていくらなのか、が分かります。

2.遺留分侵害額の計算例(相続債務がないケース)

遺留分侵害額は前述のプロセスをたどって算出します。計算例として以下のとおりとなります。

まず、前提事実としては、

・被相続人は甲

・相続人は妻Aと長男B、次男Cの3名

・プラスの財産は不動産5500万円、預金500万円

・Aに不動産と預金すべてを相続させる遺言あり

・Bは、甲から、相続開始2年前に2000万円の贈与(特別受益にあたる)を受けている

・甲が残した債務はない

とします。

①遺留分割合の計算

遺留分割合は、

4分の1(2分の1×法定相続分4分の2)

8分の1(2分の1×法定相続分4分の1)

8分の1(2分の1×法定相続分4分の1)

となります。

②遺留分を算定するための財産の価額

5500万円(不動産)+500万円(預金)+2000万円(贈与)=8000万円

③遺留分額(最低限保証されている額)

A・・・8000万円×4分の1=2000万円

B・・・8000万円×8分の1=1000万円

C・・・8000万円×8分の1=1000万円

④遺留分侵害額

遺留分額から、贈与・遺贈の額を控除します。

A・・・2000万円-6000万円(遺贈の額)=0(侵害なし)

B・・・1000万円-2000万円(贈与の額)=0(侵害なし)

C・・・受けた贈与・遺贈はないため、控除不要(1000万円の侵害あり)

3.遺留分侵害額の計算例(相続債務があるケース)

では、もう1つ、被相続人が残した債務があるケースの計算例です。

前提事実としては、

・被相続人は甲、相続人は妻Aと長男B、次男Cの3名

・プラスの財産は不動産5500万円、預金500万円

・孫Z(相続人ではない)に不動産を遺贈する遺言あり

・Bは、甲から、相続開始2年前に2000万円の贈与(特別受益にあたる)を受けている

・預金500万円は遺産分割の結果、Aが相続

・甲が残した債務は2000万円で、法定相続分で相続

とします。

①遺留分割合の計算

遺留分割合は、

4分の1(2分の1×法定相続分4分の2)

8分の1(2分の1×法定相続分4分の1)

8分の1(2分の1×法定相続分4分の1)

となります。

②遺留分を算定するための財産の価額

5500万円(不動産)+500万円(預金)+2000万円(贈与)-2000万円(債務)=6000万円

③遺留分額(最低限保証されている額)

A・・・6000万円×4分の1=1500万円

B・・・6000万円×8分の1=750万円

C・・・6000万円×8分の1=750万円

④遺留分侵害額

遺留分額から、贈与・遺贈の額を控除し、遺留分権利者の承継債務を加算した額

A・・・1500万円-500万円(相続した額)+1000万円(承継債務)=2000万円(2000万円の侵害あり)

B・・・750万円-2000万円(贈与の額)+500万円(承継債務)=0(侵害なし)

C・・・750万円+500万円(承継債務)=1250万円(1250万円の侵害あり)

4.侵害額請求の先後は?

侵害されている者は、侵害者に侵害相当額を請求することができますが、上述の例のように侵害者が遺言で贈与を受けたZと、生前贈与により贈与を受けたBの2人いる場合に、

「先にどっちに請求すればよいのか」

といった問題があります。

侵害されている者が任意に選択できるのでしょうか。それとも、請求順はあるのでしょうか。

民法は、受遺者(Z)と受贈者(B)とがあるときは、受遺者が先に負担する、と定めています。

したがって、まずはZに侵害相当額を請求することになります。

5.遺留分侵害額の支払に応じない場合は

このように計算して出た金額を請求する場合、まずはいきなり訴訟を起こすのではなく、話し合いからになります。

まずは遺留分侵害者に内容証明郵便(配達証明付き)を送ります。

「〇〇万円を侵害しているから、支払ってください」、と(侵害額の根拠として、上述の計算例も具体的に記載しておきます)。

話し合いの結果、侵害者が支払ってくれない場合や、話し合いにさえならない場合は、家庭裁判所での調停手続きにおいて解決を図ることになります。

調停の場においても合意に至らない場合は、調停不成立となり、あとは裁判で決着をつけます(140万円以上の請求なら地方裁判所に)。

6.すぐには全額を支払えない場合

遺留分侵害相当額を支払う意思はある、しかしすぐには支払えない、といった場合もあることでしょう。

そのような場合は、裁判所にて期限の許与を求めることができます。

期限の許与とは、支払期限の猶予、延長のことです。

 

裁判所の期限の許与について詳しくは<期限の許与とは?遺留分侵害額請求をされたけどお金がない場合の対処法>をご覧ください。

7.侵害していると分かった場合の対応方法

まずは遺留分権利者から侵害相当額を請求することが一般的です。

しかし、実際に侵害していることがわかった、そもそも侵害していることが確実、といった場合には、なにも遺留分権利者からの請求を待つのではなく、侵害者が自ら支払うことにより、今後の関係性や紛争予防の観点からも重要ではないでしょうか。

8.まとめ

「自分はいくら侵害されているのか?」

「そもそも遺留分は侵害されているのか?」

このような場合、面倒ですが前述のプロセスにしたがって、侵害額を計算していく必要があります。

遺留分侵害額請求をはじめとした「遺留分制度」については、特に専門性が求められる分野なので、わからない点や迷った点があれば、専門家に相談することをオススメします。

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